『茶の味』

2004/10/01 — 第101号

読後感という言葉がありますね。ところで映画を見終わった直後の、読後感に対応するような言葉って、ないのだろうか。●『鮫肌男と桃尻女』、『PARTY7』に続く石井克人監督、4年ぶりの新作『茶の味』の、読後感はというと、ふかふかのソファーに座ったまま宙を漂うような感じ。要するに、すこぶる気持ちよいのである。●映画というのは、ものを実際以上に美しく見せるもの。この映画は、主に栃木県の茂木(もてぎ)という所でロケをしたというが、多分、実際に行ってみたら、なんでもない田舎の風景に違うまい(茂木の皆様すみません)。しかし映画になってみると、田園が、川原が、ごく普通の橋まで、なんとも懐かしいような心地よさ。田舎の新鮮な風が胸の中を吹き抜けるようではないか。●主人公の一家、春野家の長男、一(はじめ)は、恋の幸福な予感に包まれ、自転車を止めるのを忘れてこぎまくる。小学生の妹は、時には一軒家ほどの大きさもある、巨大な自分の分身を消すために、鉄棒の逆上がりを一人でこっそり練習している(←映画を見れば君も納得)。それぞれの人物が、ほほえましい愛嬌の持ち主。見ていて自然と頬が緩む。●春野家の庭に面した縁側は、いつも開け放たれていて、庭から居間をわたり、その向こうの台所まで、丸見え。まるでこの縁側から、映画の開放感、おおらかさが、画面いっぱいに溢れ出しているような印象を受けた。●劇中で歌われる、楽しいコミックソング(?)も見どころ、聞きどころのひとつ。「なんで、アナタは三角定規なの?」というのが、わたしは好き。とってもカワイイよ。

— 矢田庸一郎