“不在”をめぐる2本立て/『ボルベール〈帰郷〉』と『キサラギ』

2007/10/01 — 第173号

『マタドール』(’86)や『欲望の法則』(’87)など初期アルモドバル作品では性愛に引き裂かれ死に至る人々の姿などが鮮烈に描かれます。そのアルモドバルの指向に変化を感じたのは『オール・アバウト・マイ・マザー』(’98)。この作品でも性や死は重要なテーマですが、引き裂かれた存在であっても、生きることそのものに希望を託す、そんな印象を持ちました。●本作も『オール・アバウト〜』に連なる作品で、様々な女たちの人生が時に悲しく、時にユーモラスに描かれます。冒頭、女たちが風が吹き荒ぶ中、墓を掃除するシーンから始まります。ちょっと暗示的なシーンです。実はこの映画では死や人物の不在といった事柄が沢山描かれます。でも、重く深刻な映画でもなく、例えば死者らしき者が正体不明のままちょくちょく画面に姿を現し笑いを誘ったりと、不思議な雰囲気を持った映画になっています。●ある女性は死に触れて逆に人生を活性化させ、ある女性は絆を求め、またある女性は封印していた過去と対峙します。巨匠の円熟の演出というものでしょうか、『オール・アバウト〜』での、映画の慟哭や力みは抑制され、瑞々しさとさり気なさに包まれています。涙、怒り、笑い、全部描かれているけれど静かな感動作、なのです!●『キサラギ』は、自殺した(!?)アイドルの一周忌。集まってきた5人のファンの男たちによって謎の死が明らかに……というミステリー仕立ての絶妙コメディ。縦横無尽に張られた伏線と二転三転する真相。不在の主人公という空白から、巧みな話術によって奔放に物語が溢れ出る、文句なく楽しい映画です!●映画好きなら必ず楽しめる2本ですので是非ご来館を。11/3より1週間上映。

— 矢田庸一郎