小沢昭一さんの墓参りに行く

2013/11/29 — 第292号

墨田区鐘ヶ淵にリハビリのために通院している。池波正太郎原作『剣客商売』主人公の住まいや、落語『おせつ徳三郎』の二人が、休憩する料亭がこの鐘ヶ淵になっている。落語ではおせつが、徳三郎と逢瀬を楽しむために、お供の小僧さんを向島長命寺の「山本や」へ〈桜もち〉を買いに行かせる場面がある。長命寺は、昨年末に逝去した小沢昭一が眠っている弘福寺の隣にある。■大学、高校の落語研究会を「落研」と略称にしたのは小沢昭一さんである。診察の帰りに小僧さんと同じように歩いて、弘福寺の小沢昭一さんの墓参りをして〈桜もち〉を食べようと思った。■江戸時代の鐘ヶ淵は、大川(隅田川)の岸辺に葦が繁れる寂れた村であったが、謡曲『隅田川』縁(ゆかり)の地でもあった。現在は防災拠点に指定され、防火壁の役割を兼ねる13階建ての都営住宅が15棟連なっている。併設している都立公園には、野球場、テニスコート、学校と神社、梅若伝説の碑と木母寺(もくぼじ)の史跡もあるが、江戸時代の面影はない。■弘福寺は「隅田川七福神」の〈布施様〉が祀られて、立派な門構えの禅寺であった。向島花街の見番通りに面した寺院は、芸者が弾く三味線、太鼓の音や唄が、通りの向う側から聞えてくる所にある。用意周到に生前から粋な場所を選んだ『小沢昭一の小沢昭一的こころ』に感服する。■一周忌を追善して、小沢昭一出演映画を特集する。スクリーンから小沢昭一さんを偲んで、記憶に残して次世代に語り繋いで欲しいと思う。墓地には似たような墓石が並び、落語『お見立て』のように墓探しをしてしまった。〈桜もち〉は、「山本や」が定休日のため〈言問団子〉に変わった。

— 永田稔