『ノスタルジア』と温泉

2016/08/26 — 第330号

■女人三十、都内共通入浴券を買って休日に一人、銭湯に行く程度には風呂が好きだ。都民だが江戸っ子ではない。あつ湯ではなくぬる湯にぼーっとつかり「世は全て事もなし」の境地にひたるのがいい。■さて『ノスタルジア』である。温泉が出てくる。湯気が出ているのだから間違いない。ロケ地はイタリア・トスカーナ地方、バーニョ・ヴィニョーニというローマ時代から続く温泉保養地とのこと。ネット画像を見ると、自然に囲まれた、心も体も休まりそうな土地である。■不眠解消映画としても名高い『ノスタルジア』だが、過去何度か鑑賞して一度も寝ていない。心中密かに己を褒めたたえている。その分、他のタルコフスキー映画では油断が出るのか『鏡』も『ストーカー』も大体寝ていたのは秘密だ。しかし「実は寝ちゃって……」と告白しても「俺も」「私も」と追随者がわらわら出てくるのがタルコフスキーのいいところだろう。■最後に『ノスタルジア』を観たのはもう十年以上前だろうか。温泉宿に行けば温泉そっちのけで友人と飲み喋り合い、風呂は好きだが銭湯なんて興味がなかった、そんな年の頃だ。年を取ったなと思う。あの頃の自分に、あと何年かしたら、いま通いつめている映画館で働くことになるよ、と教えたらどんな顔をしただろうか。
※『ノスタルジア』は9/9(金)に上映

— 小澤麻梨子


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