理想の休暇

2019/10/18 — 第368号

仕事の合間のはぎれのような時間にふっと頭に浮かぶ益体もないことがいくつかあって、そのうちの一つが「理想の休暇の過ごし方」だ。一か月くらいは欲しい。大きくも小さくもない、自然豊かな街に行き、浮世の憂さを晴らして心ゆくまでゆっくりのんびりするのだ。■外国の映画を観ていると「休むこと」がうまいな、と思う。『君の名前で僕を呼んで』でも『世界の涯ての鼓動』でも、主人公たちは実にうまく「休んでいる」のだった。彼らは休暇に成果や効率を求めない。せっかく来たんだからあそこに行かなきゃ、あれを食べなきゃ、そういう「もとを取る」行為が全くない。■散歩や昼寝、軽い運動に、おしゃべりをしながらゆっくりと摂る食事。「何もしない」ことの贅沢さやゆったりと流れる時間が観ているこちらにも伝わってきて、羨ましさのあまり悶え死にしそうになる。■私は修業が足りないので、休みを取ってどこかへ行ってもついついもとを取りそうになるのだった。温泉地に行くのはいいとしても、三日間で十数回の入浴はむしろ体に毒だろう。一日の入浴は三回以下にしましょうね、とだいたいどの温泉に行っても書いてあるのに。あと土産店の試食コーナーに出ているお菓子や漬物を片っ端から食べるのもあまりよろしくない気がする。ジェームズ・マカヴォイもティモシー・シャラメも多分そんなことしない。「理想の休暇」への道のりは、長く険しい。

— 小澤麻梨子


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