まんすりいコラム

イギリス映画、サッチャーの影

2012/08/01 — 第260号

皆さんがこの拙文を読んでいる頃には、もうロンドン五輪が開催されているかと思います。盛り上がってますか? ということで今回もまたイギリス映画について。■最近の英国映画は元気です。昨年公開の「ゴーストライター」や「英国王のスピーチ」は当館で上映したときも大変好評で、やはり新文芸坐のお客様にはオトナの映画が人気があるなぁと独りごちたものでした。今年公開の映画では、サスペンスの傑作「裏切りのサーカス」が★★★★。やんちゃだったあのゲイリー・オールドマンが“静”の演技でアカデミー主演男優賞にノミネートだなんて、隔世の感があります。ゲイリー・ファンとしては嬉しくもあり、また寂しくも。■今年の春には「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」なんてのもありました。この映画が曲者です。サッチャリズムなんて歴史といえるほど古くはなく、まだ湯気の立っている史実です。英国首相在任中、経済危機に際して大ナタを振るい財政を立て直したことは、功罪の“功”といえるでしょう。ユーロ危機の今、仏・独が大国として苦悩する姿を“対岸の火事”的に見ていられるのも、英国をユーロ圏に入れなかったサッチャーの手柄かもしれません。フォークランド紛争、英国人にとってはこれも“功”か。しかしひと昔前の英国映画を見る限り、サッチャーには多くの庶民の暮らしに打撃を与えたという“罪”の印象しかありません。■ちょっと古くなりますが、映画「ブラス!」には職と家族を失い自殺してしまうトロンボーン奏者が出てきました。手元のパンフを見ると、自殺の遠因はサッチャー在任中の1984年のストライキによる借金という設定です。他に「リトル・ダンサー」「フル・モンティ」「トレイン・スポッティング」などでの労働者たちの姿を思い出し、スクリーンに映る名女優メリル・ストリープが憎たらしく思えてきます。野田首相の大ナタも日本を救うことにはなるのでしょう、恐らく。しかしトロンボーン奏者の悲劇だけは見たくはないです。

— 関口芳雄


特撮の神様の影に隠れて

2012/07/16 — 第259号

手元に『特撮映画美術監督 井上泰幸』(キネマ旬報社・刊)という重厚感ある書籍がある。当初このタイトルに違和感を覚えた。「特技監督」または「特撮監督」ではないのか? 『ゴジラ』以降の東宝特撮映画で活躍をした井上泰幸、と聞いてもピンとこない。特撮は円谷英二ではないのか?■確かに東宝特撮映画全盛期の多くの「特技監督」は神様・円谷英二である。しかしその指揮の元、文字だけの脚本を頼りに、街並みのデザインと破壊までのプランニングをし、戦争映画の軍艦や戦闘機のミニチュアを如何に本物らしく見せるか苦心し、そしてメーサー車、宇宙轟天、アルファ号などの伝説の戦闘メカデザインまでも手掛けていたのは、井上泰幸を中心とする「特撮美術(特美)」のスタッフたちだったのだ。映画には多くの人間が関わっている、ということは知っている。しかし特技監督の名声に隠れ、特撮美術が如何に重要な役割を果たしているのかは恥ずかしながら知らなかった。本にはアメリカからの取材陣の同様の困惑や、井上を始めとする特美スタッフのフラストレーションも記されている。■万能のCGが全盛の現在、このまま手間のかかるミニチュア特撮はなくなるのか? もちろん(希望を込めて)否と答えたい。日本のミニチュア技術は先人たちの創意と工夫により独自の発展をしてきた文化とも言える。そして精緻さだけではない味がある。■近年、井上泰幸は世界中の映画ファンから正当な評価を受け始めている。アメリカのシネマテークに招かれ講演し、この集大成本も出版された。そして出版を見届けるかのように今年2月、89歳で鬼籍に入った。追悼と伝承の意を込め、ゆかりの方を招いての上映会を企画中です。

— 花俟良王


シニアのお客様にスケジュール表を実費で郵送します

2012/07/01 — 第258号

当館には「新文芸坐友の会」という割引制度があることは皆様ご存知でしょう。映画を数多く観る方には大変お得です。詳細はこのスケジュール表のオールナイト欄の下をご覧下さい。■一般のお客様にとっては、年に4回以上のご来場で入会金の元が取れてしまうという「新文芸坐友の会」はとてもお得です。しかし友の会料金と入場料金が同じシニア(60歳以上)のお客様にしてみるとそれほど恩恵がないと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。シニアのお客様が入会金の元を取るには、年に12回のご来場が必要となります。シニアでも常連のお客様にとっては入会した方がお得なのですが、それほど頻繁にはご来場されない方もいらっしゃるでしょう。入会すべきか悩ましいところですね。■ところで最近は新聞・雑誌・書籍などの紙媒体に元気がありません。時代の趨勢でしょうが、情報誌ぴあの休刊に代表されるように、もはやインターネットを使わない方は映画館の上映スケジュールを知ることもままならないというのが現状です。しかしシニア世代を中心に、「文字は紙で読みたい」と思っている人もまだ多いはずです。そこで当館では、友の会への入会はせず、スケジュール表のDMだけ郵送して欲しいという要望にお応えすることにいたしました。

  • 12ヶ月間、友の会会報しねまんすりいを郵送いたします。
  • 実費(切手代50円×12ヶ月=600円)を頂戴いたします。
  • 60歳以上の方のみとさせていただきます。

7月14日から受付けを開始いたしますので、ご希望の方はスタッフに声をおかけ下さい。

— スタッフ


東日本大震災から1年3ヶ月が過ぎて・・・

2012/06/16 — 第257号

昨年の3・11東日本大震災から早くも1年3ヶ月が過ぎたが、政治、行政の対応が不適切のためか、復興の速度が異常に遅い。お客様とのロビーでの会話は、映画の話より震災に関する話題が多く、未曾有の災害を憂い、被災地に直接行きたいと話していた。■今年になってからは、原発事故による放射能のこと、夏季の電気のこと、電気料金値上げなどの認識を話すお客様が多くなった。多くの国民が、3・11の当初から気持ちがあるけれど何をしたらいいか分からなかったことが、この1年3ヶ月の間に各々の見解が確立されてきたように思う。■大震災直後は、芸能人たちが被災地に赴き、スクリーン、TV、舞台で知られているキャラクター通りの光景が報道されていた。最近ではタレント自身のキャラクターと相反する”反原発”の立場で、デモに参加する俳優・山本太郎や、歌詞に強烈なメッセージを託す歌手・沢田研二などの本音で発言する芸能人が現れた。■また、あるタレントと放送作家が、福島県いわき市に支援物品を届けるボランティア活動を行なった。甚大で悲惨な被災地に行く現実と、あくまでも自身のキャラクターにこだわるタレントの言動のギャップを、相棒の放送作家が冷静に観察して著した『F(エフ)』(松田健次・著、SALLY文庫)という本になった。■『F』は、多くの国民と同じように大震災直後からの被災地の報道に無力を感じながら、何とかしたいと現実と妄想を繰り返していた情景から始まり、試行錯誤の末に被災地に到着し、目的を達成するノン・フィクションである。大震災直後の被災地の模様が描かれ、被災地から遠い東京の混乱状況も分かり、映画に例えれば「ロード・ムービー」で、弥次喜多道中のような笑いもある楽しい本である。タイトルの『F』の意味を読み明かすと感動的であるのでお勧めする。

— 永田稔


『タイタニック 3D』を見て。(IMAX版です)

2012/06/01 — 第256号

個人的に今まで見た中で最も良かった3Dの劇映画です。97年のご存知『タイタニック』を60週間の製作期間と1800万ドルもの製作費をかけて3D化。さすが現在の3Dの立役者、キャメロン監督が直接携わっただけのこだわりようです。ただ逆にいえば現在2D映画をこれだけのクオリティで3D化するには大変な時間とお金がかかってしまうということでもあります。●劇中ヒロインが船尾から飛び降り自殺をしようとするシーンで、俯瞰で船のデッキと海面が映るのですが、その落差たるや本当にゾッとするほどでした。こういう如何にもなシーンもですが、人物の自然な立体感に感心しました。そもそも映画はカットが変わるたびに巨大なアップになったりロングショットになったりと極めて不自然な視覚体験なので、何が「自然」かは定義ができないと思いますが「3Dであることを意識させつつ不自然ではない」という映像が見られました。映画によっては派手なシーン以外で「これなら2Dでもいいんじゃない」と思うような映画も多かったので、スペクタクルなシーンとそうでないシーンの統一がとれた「全編3D映画」を今回初めて実感したような気がしました。●ただし他の3D映画は駄目だという話にはなりません。何故なら私はこの映画をIMAXで座席は中央、と最も良い条件で見たからです。他の方式で且つ悪い条件で見たら画面は暗いし、チラつくし、白は出ないし、立体感も?等々と今回の印象とは大分違った印象を持ったかもしれません。今まで見た3D映画も環境(方式、劇場、座席位置、光量、個人差等)に大きく左右されている恐れがあるのです。いずれにせよまだ3D映画は全てにおいてまだ過渡期といった感じです。(因みに劇映画以外では『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』が最良かと)

— 梅原浩二


映画ファンなら見逃すな、今村昌平特集

2012/05/16 — 第255号

今年は今村昌平監督の七回忌です。ご命日は5月30日です。当館では5月23日より「七回忌追悼 今村昌平監督特集」を開催します。●今村監督は日本人で唯一、カンヌ映画祭で最高賞を2度取った監督であることはご存知でしたか。1983年「楢山節考」がグランプリ、’97年には「うなぎ」でパルム・ドールを獲得しました(’90年から最高賞の呼称がグランプリからパルム・ドールに変更)。ちなみに海外では最高賞を二度取った監督は五人いるそうです。早速調べました。コッポラ、ビレ・アウグスト、クストリッツァ、ダルデンヌ兄弟が二度獲得していましたが、もう一人、誰かを見落としているのか、それともダルデンヌ兄弟が二人で計五人なのか。どなたか詳しい方、教えてください。●今村映画を一言で言うと、欲望や性に翻弄される人間のおかしさ、滑稽さ、でしょうか。それを否定的に捉えないので必然的に今村映画は喜劇です。その喜劇が、どうしてあのような迫力、スケールをもって立ち上がってくるのか、所謂「重喜劇」として現れるその回路にこそ、今村監督の創作の秘密が隠されているように思います。●今村監督作品を始めて見る若い方は、是非、全作見てほしいと思いますが、中でもおススメはというとやはり「豚と軍艦」(’60)「にっぽん昆虫記」(’63)「赤い殺意」(’64)ですね。この3作は日本映画の“人間の猥雑さと滑稽さ”部門というものがあったとしたら、間違いなくベストテンに入る誉れ高い作品です。吉村実子、左幸子、春川ますみという女優たちのエネルギッシュな存在感にも激しく心を打たれますよ。●ところで6月は、フィルムで見ることができるイーストウッド監督作品&主演オンリー作品を全部(←多分)やります。こちらも乞うご期待。

— 矢田庸一郎


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