まんすりいコラム

昔のスタア 昔の映画

2016/10/26 — 第332号

11月、新文芸坐では生誕100年となる映画監督加藤泰の特集が行われる。■数多くの名優が起用された加藤泰映画の中でひときわ異彩を放つのは安藤昇だろう。戦後、暴力団安藤組を興した安藤昇は、短刀で斬られた左頬の傷痕などエピソードに事欠かない。ワイズ出版『映画俳優安藤昇』には、山田洋次監督の『男はつらいよ』が実は安藤昇が原案だったという話から、石井輝男監督の『網走番外地 吹雪の斗争』の現場が気に食わずに帰ってしまったという有名な話まで、数多くの逸話がまとめられている。■山田監督や石井監督にも遠慮しない話しぶりの安藤昇が、ほとんど唯一加藤泰についてだけは敬意を持って懐かしそうに語る。そんな加藤泰も映画撮影でのびっくりエピソードに事欠かない。『阿片台地 地獄部隊突撃せよ』では、香港から参加したペギー・潘が帰国する日になっても手のクローズアップの撮影を続け、また代名詞である極端なロー・アングルのために現場では常にスコップを持った助監督が穴掘り要員として待機していたそうだ。■あまりに個性的な役者と、映画を作ることにこだわり抜く監督が生み出すこの豪放磊落なおもしろさを見ないなんてもったいない。見るほど知るほど常に驚きも発見もある昔のスタアと昔の映画は、それゆえに今もまだ新しい。

— 青山貴昭


映画よ。また、よろしく。

2016/09/29 — 第331号

映画がきっかけとなって、行動を起こすことがある。それが吉と出るか、凶と出るかは、その時々によって変わってくるものの、先日のきっかけと行動は、間違いなく吉だった。■観賞したのは、アニメ映画『planetarian?星の人?』だ。プラネタリウムが重要なキワードの作品であり、星空の投影のシーンは、思わず息を飲むほど美しく描かれていた。案の定、観賞後は久しぶりにプラネタリウムへ行きたくなった。そして数日後、私は仕事帰りにプラネタリウムへ向かったのだった。■独り身でのプラネタリウムは、初めのうちこそ不安だったものの、いざ投影が始まると、どうでもよくなった。十五年ぶりに観るプラネタリウムの星空は、例えようもなくきれいだったからだ。きらめく星々に見惚れながら、ここへ来るきっかけをくれた映画へ、密かに感謝した。■映画を観る理由は人それぞれちがうが、私は「映画を観た後の自分はどうなるのだろう」という不安や期待も、映画観賞のひとつの醍醐味であると思う。観賞後、なにかをしようと思えたならば、それは自分が映画によってほんの少しだけ変われた証なのだ。……さて、次はどんな映画を観て、どんな影響を受けるのだろうか。

— 濵本栄紀


『ノスタルジア』と温泉

2016/08/26 — 第330号

■女人三十、都内共通入浴券を買って休日に一人、銭湯に行く程度には風呂が好きだ。都民だが江戸っ子ではない。あつ湯ではなくぬる湯にぼーっとつかり「世は全て事もなし」の境地にひたるのがいい。■さて『ノスタルジア』である。温泉が出てくる。湯気が出ているのだから間違いない。ロケ地はイタリア・トスカーナ地方、バーニョ・ヴィニョーニというローマ時代から続く温泉保養地とのこと。ネット画像を見ると、自然に囲まれた、心も体も休まりそうな土地である。■不眠解消映画としても名高い『ノスタルジア』だが、過去何度か鑑賞して一度も寝ていない。心中密かに己を褒めたたえている。その分、他のタルコフスキー映画では油断が出るのか『鏡』も『ストーカー』も大体寝ていたのは秘密だ。しかし「実は寝ちゃって……」と告白しても「俺も」「私も」と追随者がわらわら出てくるのがタルコフスキーのいいところだろう。■最後に『ノスタルジア』を観たのはもう十年以上前だろうか。温泉宿に行けば温泉そっちのけで友人と飲み喋り合い、風呂は好きだが銭湯なんて興味がなかった、そんな年の頃だ。年を取ったなと思う。あの頃の自分に、あと何年かしたら、いま通いつめている映画館で働くことになるよ、と教えたらどんな顔をしただろうか。
※『ノスタルジア』は9/9(金)に上映

— 小澤麻梨子


新文芸坐ベストテン《女優編》

2016/07/25 — 第329号

当館では毎年お客様から投票をいただき、ベストテンを集計・発表しております。著名人や評論家ではなく映画ファンが選ぶベストテンということで、当館の番組編成の参考にさせていただいております。
過去には番外的にサスペンス映画ベストテンや男優ベストテンなども行なってまいりましたが、今年は《女優編》を開催いたします。
日本の映画女優を10人投票してください。投票期間は9月末日まで。これを集計し発表いたします。投票用紙はロビーにおいてございます。また、新文芸坐友の会会員の方はメールでの投票も承ります。投票(メール投票を含む)して頂いた友の会会員の中から抽選で3名様にご招待券をプレゼントいたします。
新文芸坐で映画をご覧になるお客様が好きな女優は、いったい誰なのか!? 結果は今後の番組編成の参考にさせていただきます。お楽しみに!

— スタッフ


プリンスのライブなので、できれば理性を捨てたいものです

2016/06/24 — 第328号

4月、不世出の天才アーティスト・プリンスが逝ってしまいました。もうこの世界にはマイケル・ジャクソンもデヴィッド・ボウイもプリンスもいないのです。■当館では追悼の意を込めて7/16(土)・17(日)に『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』をレイトショーとして上映します。87年に2枚組でリリースされた傑作同名アルバムのツアーを収めたファンキーでポップ、かつロックな82分の白熱のライブ映画です。■個人的にはこの手のライブ映画を劇場で観ていると、つい立ち上がって拍手をしたり歓声を上げたくなって困るのですが、「他の人に迷惑をかけてはいけない」「目立ってはいけない」という、日本人として培われた奥ゆかしさにより悶々としてしまうのも事実です。今回の上映は当初「スタンディング可」と謳うつもりでしたが、やはり躊躇してしまう奥ゆかしい方がいるのではないかと引っかかっていたのです。そんな人にも盛り上がっていただきたい……。■という訳で、今回は通常上映に加え「スタンディング“強制”上映」を7/17(日)に設けました。冒頭から問答無用で立っていただきます。拍手・歓声・合唱はライブ同様ご自由にどうぞ。立つきっかけはこちらで与えるので、一瞬の気まずさは「やれやれ」とか言いながら当館のせいにしてください。後は怒涛のショーに身を委ねればOK。「見えないから立つなよ」という人はいません。もちろん疲れたならお座りください。全員が合意していることが大事なのです。■7/16(土)は通常の着席上映です。これはこれでじっくりと楽しめますが、拍手ぐらいはしてもいいですよね?

— 花俟良王


濃密な要約

2016/05/25 — 第327号

映画本編の上映前に掛かる予告編、お客様の中にもこれを楽しみにしている方がいらっしゃるかと思います。かく言う自分もその一人。場内が暗くなり、予告の開始で心がスクリーンに持っていかれるあの瞬間……映画館で映画を観る醍醐味のひとつではないでしょうか。■細かく編集された映像はもちろん、音楽、キャッチコピーやナレーションに至るまで、限られた時間で本編の魅力を伝える予告編は、宣伝材料というよりひとつの作品といってもいいでしょう。昔の日本映画は予告編製作で助監督の力量を測っていたというのも納得。アメリカでは優れた予告編を讃える授賞式もあります(今年の最優秀作品は「スポットライト 世紀のスクープ」でした)。■名画座である当館では邦洋、新旧含め様々な予告編が上映されます。本編はもちろん、そちらも楽しんで頂けたら幸いです。個人的には80年代の角川映画の予告編はどれもドラマチックで、子供心にとても印象的でした。いつか予告編だけを延々上映するプログラムができたらなぁ……。

— 武田俊輔