まんすりいコラム

アメリカに渡ったアイリッシュたち

2005/11/01 — 第127号

アイルランド系アメリカ人は約4000万人いて、これは全米人口の18%にものぼります。ちなみにアイルランド本国の人口はたったの400万人。移民の方がはるかに多いのです。米国への移住の主な理由は貧困(19世紀ジャガイモ飢饉)で、映画では「タイタニック」「遥かなる大地へ」などでその様子が描かれています。◆では米国に渡ったアイリッシュたちの暮らしぶりはどうだったかというと、「アンジェラの灰」のように、相変わらずの貧しさです。米国はプロテスタントの国。多くがカトリックであるアイリッシュは社会的差別を受けて、就く職業も限られていたようです。アイリッシュといえば“警官”“消防士”そして“ボクサー”がそのステロタイプで、映画でも「静かなる男」「ギャング・オブ・ニューヨーク」「バックドラフト」と枚挙にいとまがありません。◆そこで「ミリオンダラー・ベイビー」です。舞台は米国ですが、こてこてのアイルランドの匂いがします。ゲール語(≒アイルランド語)、カトリック教会、緑のガウン……。ヒロインの名“マギー・フィッツジェラルド”にしても聞けばそれととわかる典型的なアイルランドの姓です(アイリッシュ系初の米大統領J・F・Kのミドルネーム)。もちろん、ハリー・キャラハンもアイルランド系刑事(映画が違う!)。◆アイルランドはバチカンに次ぐ敬虔なカトリック国といわれ、子沢山で家族のつながりが強いことでも知られています。そういう背景を知れば、主人公ふたりの置かれたそれぞれの孤独感への理解も違ってきます。またアイルランド本国は中絶を憲法で禁止するような国であるということを知っていれば、主人公のとった命の選択もより重く感じられるでしょう。◆アイルランド話、次回は「シンデレラマン」でお会いしましょう。

— 関口芳雄


ATG時代と酷似している今の日本映画界

2005/10/16 — 第126号

昨年1年間の映画観客数は、21年ぶりに1億7千万人を突破したことが、ぴあ総合研究所の「エンタテイメント白書」で発表された。21年前の83(昭和58)年は、『南極物語』『E. T.』がヒットした年で、昨年は『ハウルの動く城』『ラストサムライ』のヒットと、シネコンの存在が動員に貢献していると白書に記されている。その観客の65%は、ハリウッドを中心にした洋画を観ている。邦画はアニメを含めて35%であるので、映画興行界は、完全に“洋高邦低”の時代である。◆シネコンは、動員状況に応じて人気作品の上映スクリーン数を増やしたり、上映期間を延長することができるため、より動員を増やす効果をあげている。シネコンのスクリーン数は、全体の60%以上を占めるに至り、その影響力は大きい。◆現在の日本映画は、大手映画会社に代わって、独立プロダクションが盛んに製作している。その独立プロ作品が、渋谷など都内の繁華街の映画館でロードショー上映されている状況は、60年代後半〜80年代に新宿文化、日劇文化で、ATG映画を上映していた頃と酷似しているように思う。◆ATG時代は、チャンスを得た若い才能が花開き、多くの監督がこの年代に最良の作品を世に送り出した(ATG特集を参照)。観客は、監督の名前で映画を選択するようにもなった。歴史は繰り返されて今、北野武、黒沢清、三池崇史監督などの映画は、監督名で作品をアピールしているし、一方で、『運命じゃない人』の内田けんじ監督のような若い才能も育ってきている。邦画に観客が集まり、動員で洋画を凌ぎ、“邦高洋低”の時代が来ることを期待したい。

— 永田稔


ATG映画

2005/10/01 — 第125号

60年代は、米国の人権運動、ヒッピー運動、ベトナム反戦運動、日本の学生運動が世界に波及した。若者たちの権力に対抗する運動が、全世界的に価値観を大きく変えた時代であった。◆この年代の日本の映画界は、TVに圧迫され産業として凋落の傾向にあった。興行的な見地から、芸術性の高い作品の輸入が途絶え、全国の映画館チェーンで公開するハリウッド映画一辺倒の上映になった。◆そんな時代、映画興行界の中で、質の高い外国作品を上映する映画館組織、日本アート・シアター・ギルド通称ATGが発足した。第一回公開作品は、62年4月のポーランド映画『尼僧ヨアンナ』であった。◆価値観の変化は、観客の映画選択肢の幅を広げ、やがて、洋画の芸術的な作品も一般映画館で上映されるようになり、ATGの初期の目的は達成した。◆一方、邦画の製作本数は激減し、芸術映画を製作する会社はなくなった。監督、俳優が中心になって、自ら映画製作に乗り出す独立プロが出現した。ATGは、独立プロに対して製作費1千万円映画を提案した。半分の5百万円をATGが出資し、映画館を提供するという内容である。第一回提携作品は、68年2月公開された大島渚監督の創造社が製作した『絞死刑』であった。◆ATGと提携、上映した映画は、日本映画の質的水準を維持したばかりでなく、既存会社では実現不能であった前衛的、実験的な作品を生み、大島渚、吉田喜重監督を始めとする多くの監督が海外で高い評価を得るキッカケになった。◆戦後60年企画第6弾として、ATG映画28本を10月8日から2週間特集上映します。ATG映画の“力”を観て欲しいと思っています。

— 永田稔


「珠玉の名編」始まる。『インファナル・アフェア』三部作にご期待!

2005/09/16 — 第124号

『リンダ リンダ リンダ』見てきました。独特の間とズレの山下敦弘ワールド健在。しかも今までになく映像に力がみなぎり人物が躍動します。次の「気になる日本映画達」特集の目玉にしたい傑作です。■ハリウッド娯楽大作は1週間番組。日本映画の新作は「気になる〜」。非ハリウッドの秀作や作家性の高い作品は「珠玉の名編」で上映。こんな感じで、できるだけ新作も幅広く当館のスクリーンに掛けていきたいものです。■今回の「珠玉〜」の一押しは『インファナル・アフェア』三部作。潜入捜査官(トニー・レオン)と警察に潜入したマフィア(アンディ・ラウ)の二人を軸に、多彩な人物たちの命の削り合いを描く香港ノワールです。■特に第二部がいい。前作より10年ほど遡ったプリクエル(時間を遡る続編)で、人々の過酷な運命の由来が抑えたタッチで描かれます。■詳しくは書きませんがアンディ・ラウ(二部ではエディソン・チャンが演じる)とボスの女房マリー(カリーナ・ラウ!)の悲劇が心に残ります。だから三部で、アンディの妻が同名のマリーであり、しかもラストでカリーナ・ラウがちょっとだけ姿を見せるところなど、思わず滂沱の涙ですよ。■一部はトニーが主役。それが三部では主役はアンディに。二部も激しいアクション映画に変りはないのですが、二人のベクトルが拮抗してか、映画全体がそこはかとない静けさに包まれているような気がします。■「インファナル・アフェア」の原題は「無間道」。無間とは仏教の八大地獄のひとつで、責め苦の絶え間ない地獄だそうです。合掌。

— 矢田庸一郎


前回総選挙で棄権された40.19%の人たちへ

2005/09/01 — 第123号

皆様がこれをお読みの時期は知らず、この稿を書いているのは、衆議院が解散された2日後です。小泉首相いうところの“郵政民営化解散”というあれです。税金の無駄遣いとの声もありますが、やはり選挙は面白い。私などは選挙の度にワクワクいたします。■とはいえ、無理に選挙に行く必要はありません。皆様が選挙に行かなくても義務ではなし、悪いことではありません。むしろ国民への政治不信を招いた政治家が悪いのです。国民はいつだって正しいのです。主権在民! 悪いのは汚い政治家。棄権、カッコいいですね。棄権だって立派な意思表示(現政権への肯定)なのですから、いいじゃないですか。大丈夫、この国のことは他に心配してくれている人たちが、ちゃんといますよ。その人たちは、雨が降ろうが槍が降ろうが投票日には必ず投票所まで出向き、清き一票を投じます。いや、彼らのほとんどは団体や組合に入っていたりしますので、一票ではありません。清き組織票ですね。■あ、組織票といえば特定郵便局が票をとりまとめることもありますね。選挙後に全国の特定郵便局長ら関係者が公職選挙法違反で逮捕される報道をよく見ますが、あれも天下・国家を思ってこそ。善意が行き過ぎた結果の勇み足なんです。選挙に行かない皆様に代わって、投票率を上げるべく努力しているんです。他の先進国と比べてそれほど国政選挙の投票率が低くないのも、陰でこうして票をとりまとめている人たちがいるからなんですよ。恥ずかしいでしょ? 日本の投票率があまり低いのも。■ただね、問題がないこともないんですよ。政治家というのは、票を投じてくれた人だけの利益を代表してるんです……。■「考えるな」「消費せよ」「眠っていろ」(ジョン・カーペンター監督作品「ゼイリブ」より)

— 関口芳雄


映画館で働いていて思うこと

2005/08/16 — 第122号

「この仕事をしていて良かったと思う時は、目を真っ赤にして帰るお客さんを見た時だ」と先輩がよく言っているが、全くその通り。涙を流すほど感動する場に(時として人生を変えてしまう場に)立ち会えることは嬉しいし、その場を提供できたことを勝手に誇らしくさえ思っている。◆先日、仕事を通して知り合った人が観に来てくれた。彼は最近、30代を目前にして会社を辞め、憧れだった役者への道を歩み出した。その夜、青春時代のチェ・ゲバラのロードムービーを鑑賞した彼から「相変わらず将来への不安は大きいが、自分から逃げない勇気をもらった」という旨の熱いメールをもらった。なんだか嬉しくなると同時に、改めて映画の力を痛感した。◆8/27から上映する『炎のメモリアル』は、9・11テロで亡くなった多くの消防士への哀悼の意が込められている。物語は直接テロに関係していないが、家族・仕事・仲間を通して描かれる男の生涯にはきっと心打たれるはず。『バックドラフト』を観て本気で消防士を目指したベタな私としては、当館でこの映画を観て涙を流し、消防士を志す青年が生まれたら嬉しいし、あの時私が買った参考書も差し上げたい。また、併映の『Shall we Dance?』を観てダンス教室に通い始めても、それはそれで大変嬉しい。

— 花俟良王


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