まんすりいコラム

映画を通して戦後60年を検証する

2005/08/01 — 第121号

「世界各地で紛争やテロが起きていて、地球上で戦火の絶える日がない」の書き出しで始まる〈しねういーくりい〉は、3年前の02年/通巻49号です。現在も全く同じ状況であることに愕然とさせられます。近年、資本主義、社会主義の差別なく世界首脳が集まる政治的なサミットが開催されていますが、紛争や戦火を消すことはできていません。政治の無力さを痛感させられます。◆日本は、今年戦後60年になります。無条件降伏を受け入れて、戦争を終結させた昭和20(1945)年8月15日から起算してのことです。60年という歳月は、人生では還暦といわれる長い年月に相当します。長い年月は、戦争があったこと、戦争に負けたこと、原爆による唯一の被爆国であること、焼け野原から復興する過程の中で起きた政治的、社会的な様々な出来事を忘却させてしまいます。◆新文芸坐では、8月6日から3週間にわたり、戦後60年企画第5弾として、映画を通して戦後60年の《その時代を検証する》と題して、《戦争を語り継ぐ》《社会の歪を暴く》《“事件”を見る》の三部構成で特集上映いたします。◆エンターテインメントとしての映画を楽しみながら、過去の事実を風化させることなく、映画共々次世代へ受け継がれて欲しいと願っています。今年は、“映画人”による戦争体験を語るトークショーを行ないます。俳優・石濱朗さん、監督・松林宗恵さんが、映画、実生活の体験を語ってくださいます。今の日本の政治、社会の状況を考えるキッカケになればと思います。

— 永田稔


ドキュメンタリー『成瀬巳喜男 記憶の現場』、初日(7/23)迫る!

2005/07/16 — 第120号

成瀬巳喜男監督はフィルムを無駄にしない。予定の上映時間におおよそ収まるように撮影した。編集で切るところはそんなに多くない。成瀬は自ら編集もしたが、直接フィルムを手でたぐりながら見ていく独特のやり方だった。●成瀬の映画人生は最初から順調だったわけではない。’30年代、松竹蒲田撮影所所長・城戸四郎に「小津は二人はいらない」と言われ、東宝の前身、PCLに移籍することになる。成瀬は’40年代にスランプに陥ったともいわれている。’40年に千葉早智子との結婚が破綻したことが影響してか、孤独な成瀬の姿に、誰ともなく「ヤルセナキオ」と呼ぶようになったという。一般に成瀬の復活は’51年の『めし』とされる。だがこの作品とて千葉泰樹監督の代役だったのだ!(スランプ説に対しては、この頃の多くの作品のプリントが長らく失われていたため、誤った固定観念が定着してしまったという説もある)●成瀬はホンを削る。脚本家が書いた台詞にどんどん線を引き、ホンが最初の半分になってしまったこともあった。成瀬は視線や身振りで表現できることを、口では言わせないのだ。これはサイレント時代から映画を撮っていた監督たちに共通する演出作法ではなかろうか。●『成瀬巳喜男 記憶の現場』は成瀬組に参加したスタッフ、キャストたちへのインタビューを一編の映画にまとめたものだ。映画作家・成瀬巳喜男は、体の隅々まで映画の技術が織り込まれた生粋の映画職人でもあったのだ。そしてさらに撮影の玉井正夫、照明の石井長四郎、美術の中古智といった名人が成瀬を支えた。●日本映画黄金時代の、芳醇な、むせかえるような匂いが蘇える。

— 矢田庸一郎


映画にまつわる食べ物の記憶

2005/07/01 — 第119号

成瀬巳喜男監督の映画には、様々な印象深い食べ物が登場します。『おかあさん』の中では、クリーニング店の職人である加東大介の一日の仕事の終わりに、田中絹代がそっと差し出す“一杯の冷や酒と茶碗に盛られた塩豆”、同じく『おかあさん』の中で香川京子ら子供達がピクニックに行く時に、幼馴染みのパン屋のシンちゃんが焼いてきた“ピカソパン”(両手に抱えるほどの大きさで、食べていくとあんやクリームやジャムが出てくる抽象画のようなパン?!)、『流れる』の中では、通いの芸者である杉村春子が「ソースある?」と言いながら台所に入ってくる時に手にしている“コンビーフ”や“コロッケ”、そして『稲妻』では、高峰秀子が二階借りをしている家の奥さんが作ってくれた“長ーい、長ーいお蕎麦”。それらの食べ物は、直接にはストーリーの展開とは関係がないのですが、その映画にはなくてはならないモノとして観客の記憶の中に刻み込まれていきます。だから、映画を観た後にはその映画に登場した食べ物が食べたくなってしまうのでしょうか?帰り道に立ち寄った蕎麦屋でざる蕎麦を食べながら、今観てきた映画を思い起こして一人で笑ってしまったり、今日の夕飯はコロッケにしようと肉屋でコロッケを買って帰ったり。そうすることによって、その映画を何度も楽しんでいるかのようです。◆生誕百年記念“名匠成瀬巳喜男の世界”は当館にて、7月9日(土)〜22日(金)、ニュープリント10作品を含む計28作品が毎日替、2本立てで上映されます。さて、今回の特集では帰りにどんな食べ物が食べたくなっているでしょうか?

— 佐野久仁子


『戦後60年企画』

2005/06/16 — 第118号

今年は戦後60年“還暦”の節目の年に当たります。映画は、映画館に行かなければ観ることのできなかった戦後しばらくの間“娯楽の王様”と称せられ、最盛期には年間10億人を超える人々が映画館に足を運びました。時が移り、映画館に行かなくても様々な方法で映画を観ることのできる今、映画鑑賞者は数十億人に達していると思われます。娯楽が多様化する現在でも、映画が身近な娯楽であることは昔と変わりなく、むしろ、日常生活に不可欠な存在になっていると思います。◆新文芸坐では、戦後の時代を反映した映画、次世代へ語り繋いでいきたい映画などを選んで、『戦後60年企画』として特集上映を考えました。第一弾は、既に『世界の巨匠 黒澤明監督』を特集上映しました。第二弾は、6/18より2週間『美空ひばり映画祭』を特集上映いたします。◆“歌謡界の女王”“歌姫”として17回忌を迎える今でも、歌声が流れ、容姿が見られます。一方、映画には子役時代から165本出演しています。日本映画史の中でも記憶に止めておく映画スターの一人でしょう。◆特筆すべきは、競演の男優陣が豪華多彩なことです。嵐寛寿郎、長谷川一夫、片岡千恵蔵の御大から、エノケン、アチャコの喜劇人、当時の若手花形スターの高倉健、石浜朗、佐田啓二、大川橋蔵、市川雷蔵、中村錦之助、東千代之介、里見浩太郎…等々です。超売れっ子であったために、各映画会社から請われて出演しているからです。◆7月に第三弾として、今年生誕100年になる『成瀬巳喜男監督』特集を、8月には第四弾として、終戦の日に因んだ毎年恒例の特集上映を予定しています。ご期待ください。

— 永田稔


『タイガー&ドラゴン』に何かを感じた方へ

2005/06/01 — 第117号

4月から放送が始まった“ヤクザが落語家を目指す”という奇抜な設定のドラマ、『タイガー&ドラゴン』にハマッております。脚本は今をときめく人気脚本家(兼監督)、クドカンこと宮藤官九郎。主演はジャニーズの人気者、長瀬智也と岡田准一……とくれば、完全な若者向け。しかしこのドラマ、各話タイトルに「芝浜」「饅頭怖い」「権助提灯」など古典落語の題目を拝借し、無知な主人公が噺を教わるという形でその古典の内容が丁寧に描かれるのです。即ちテレビを見ている若者が、毎週楽しんで古典落語の知識を得られる仕組みになっているのです。この敷居の低い文化の継承行為、素晴らしいではありませんか。◆すぐに影響されるのが私の長所。落語に関しては全くの素人ですが、こう見えても江戸っ子の端くれ。長瀬智也が西田敏行扮する師匠(絶品!)に吐いた「俺も粋でゲスとか、乙でゲスとか言われてえんだよ」という名台詞に感銘さえ受け、今ふつふつと落語熱が高まっています。◆そして当館では怖いくらい絶好のタイミングで、立川志らくさんの〈シネマ落語〉が今月(6/6)から隔月間で催されます。皆さんもご存知の名作が落語に変身するというのだから映画好きにはたまりません。第一夜は『ローマの休日』、第二夜は『ダイ・ハード』(!)。……ものすごく楽しみです。

— 花俟良王


岡本喜八監督作品の追悼上映と「シネマ落語」の開催

2005/05/16 — 第116号

“活動屋”“アルチザン”と畏敬の念をもって呼称され、慕われた岡本喜八監督が、2月19日食道がんのため、亡くなりました。幅広いジャンルの映画を撮り、リズミカルな躍動感溢れるエンタテインメントに徹した映像で、映画ファンを魅了しました。◆文芸坐時代の84年9月に、監督自身が28本を選び特集上映したとき、監督は毎日川崎から舞台挨拶に通ってくださいました。新文芸坐なってからも、40作目が完成した暁には、全作品を上映する予定にしていました。その矢先、40作目の準備中にあの世に旅立って行きました。◆急遽、5/21から3週間にわたり、劇中使用映像の著作権問題で上映できない『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』を除く38本を上映いたします。全作品を上映できないのは残念ですが、映画館で上映することで、多くの観客によって岡本作品が次世代へ受け継がれていくことが、岡本監督への供養になり、監督も喜んでくださると思っています。ご遺族、喜八プロダクション、大勢の映画関係者のご協力により、百箇日前にも拘らず、追悼上映をすることになりました。◆6月から隔月で、立川志らくの《シネマ落語》を開催します。志らくは、立川談志の弟子で真打の落語家です。映画好きが高じて、映画を撮ったり、「キネマ旬報」にエッセイを掲載中ですし、洋画を、江戸を舞台にした落語=シネマ落語にしてしまいました。初回は『ローマの休日』です。映画を観ている人は、その変換の妙にうなずきながら笑えるし、観ていない人は、新作落語として楽しめます。“感動はスクリーンから”ばかりでなく、ライブの“生”の魅力も新文芸坐でお楽しみください。

— 永田稔


まんすりいコラム

2019/01/01
明けましておめでとうございます
2018/11/24
特集〈シネマ・カーテンコール2018〉、今年の特徴
2018/09/27
途中入場のルール改変などについて
2018/08/23
『ブロウアップ ヒデキ』、1975年の少女たちへ
2018/07/31
ショーシャンク事件に、感謝。
2018/06/29
新文芸坐、全面禁煙化への動き

年別アーカイブ