まんすりいコラム

動き出した日本映画

2005/02/01 — 第109号

1月4日の朝日新聞社説に“さあ日本映画の逆襲だ”の見出しの記事が掲載されていた。『最近、国が国外への映画の売込みを後押しするようになり、地方でもロケを誘致、手助けするフィルムコミッションが広がり、また、韓国映画に刺激されて「血と骨」「パッチギ!」の在日映画が話題を呼ぶなど、ハリウッド、韓国に押されている日本映画が、アジア映画として逆襲を始めている』という趣旨である。◆それを裏付ける記事が、同時期の同紙の文化欄に載っていた。02年の小泉首相の施政方針演説の[知的財産立国]宣言に基づき、政府は科学分野の特許などとともに、映画などのソフトを知的財産の柱に位置づけ、《知的財産戦略本部》を作った。経団連は、映画などのソフトの競争力を上げるために、この3月にNPO法人《映像産業振興機構》を発足させる。◆民間企業も、角川出版事業振興基金信託が主催する《日本エンジェル大賞》では、新進プロデューサーの企画を、映画の形になるまで支援したり、キネマ旬報映画総合研究所と経済産業省は、プロデューサー養成講座を開いたり、既存の大学も、現役で活躍中の映画監督、プロデューサー、漫画家、映画関係者を教授に据えて、映画にかかわる人材の育成に乗り出した。◆日本映画は、年間300本弱が公開されているが、一握りの作品以外は採算が合わない現状を、健全ビジネスに転換させようとして、官・民・学が夫々に一斉に動き始めた。国境が低くなる新しい時代に、日本映画が世界各国の映画館で上映されるのも夢ではない。まず、私たちが、日本映画から沢山の感動を得られる年になることを期待したい。

— 永田稔


「モダニスト増村保造」

2005/01/16 — 第108号

傑作『巨人と玩具』は(当館で2月6日上映)、旧来の叙情的な日本映画に対しクールでスピーディー且つ、膨大な情報量を詰め込んだ演出で、キネ旬ベストテンにも選出された作品でしたが、興行的にはそれほど振るわず、「オレは十年早過ぎた」というのが増村の口癖だったそうです。実際、後年には常に彼の代表作の一本に数えられますし、戦後のモダニズムという言葉は、このダイナミックな映画にこそ似つかわしいように思います。

しかし、一般に彼の代表作に選ばれる他の作品は、むしろ若尾文子の主演作品に見られるような「情念たっぷり」型の題材の物が多いようです。前述の映画のイメージとは世界が異なるようですが、一貫しているのは「個」の存在とその主張です。難解なストーリーなど無い彼の映画は、見ている最中は強固な演出力も相まってその世界に入って行くことができます。しかし鑑賞後改めて思い返すと、登場人物の愚直ともいえる不自然なまでの一途さ、己の信念に基づく温度の高すぎる生き様、こういった印象ばかりが残り、それが異様にすら感じられることがあります。「イタリア留学でヨーロッパ的人間観を形成した」というのが、それらに対する回答の一つとしてありますが、果たしてそれだけでしょうか?

ひたすら己の発するベクトルに突き進む増村、このことをして彼を「モダニスト」と言わしめているのですが、その異様さには、それをはみ出す違う何かを感じずにはいられません。

— 梅原浩二


あけましておめでとうございます

2005/01/01 — 第107号

旧年中は、ご愛顧いただき心より御礼申し上げます

本年も、映画を通して皆様が心豊かに過ごせるような番組を提供していきたいと考えております。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

2005年1月1日

新文芸坐

支配人 永田稔
関口芳雄 矢田庸一郎 梅原浩二 花俟良王 後藤佑輔 柳原弘
佐野久仁子 高橋悦子 西本布美子 小形雅子 浅香ノリ

— スタッフ一同


ヨン様が帰られた後に

2004/12/16 — 第106号

11月下旬、“ヨン様”ことペ・ヨンジュンの名前を聞かない日はありませんでした。成田空港始まって以来の壮絶な出迎えを受け、白い歯で爽やかに微笑むヨン様がメディアを席捲しました。◆仕事の合間によく利用するラーメン屋のお姉さん。無駄なくテキパキと動き、お客さんがいなくても調味料や割り箸の補充に余念がない。しかし、その日は違いました。普段は見向きもしない店内のテレビに釘付けとなり、会計するのもはばかれる程に立ち尽くす彼女が見ていたものは、韓国ドラマ『天国の階段』。◆私は春先に『殺人の追憶』で早くも今年一番の興奮を覚え、夏に『箪笥』の美に酔い恐怖に震え、年の瀬に『オールド・ボーイ』の荒技に唸らされました。チャプチェもよく食べました。◆2004年、日本では韓国エンターテイメント熱が沸点に達した感があります(毎年言っている気もしますが)。しかしその反面、私のようにスターや映画監督の名前と顔が、まだハリウッドのように一致しない、という人も多いのではないでしょうか。映画に限って言えば、『風の丘を越えて』が日本における韓国映画の受け皿を築いてから約10年、『シュリ』によってその裾野が拡げられてから約5年(!)しか経っていません。2005年初めての特集〈“韓流”シネマコレクション〉のラインナップをご覧ください。『殺人の追憶』を始め、自国の歴史と対峙しつつ娯楽へと昇華させた『ペパーミント・キャンディー』『JSA』『シルミド』『ラブストーリー』も、鮮烈な作家性で世界を驚かせた『魚と寝る女』『悪い男』も、そしてポップな『猟奇的な彼女』『ほえる犬は噛まない』までも、全てここ数年の出来事なのです。今回の特集では、多くのプログラムを監督・役者・ジャンルなどで関連付けました。この機会に、“韓流”ブームの源でもある現代韓国映画の輪郭に触れてみてはいかがでしょうか。◆なお、現在ヨン様唯一の映画主演作となる『スキャンダル』は、12/25(土)〜27(月)に一足早く上映します(併映は『4人の食卓』)。奥様、ご注意を!

— 花俟良王


制約があったほうが、いいものができる?

2004/12/01 — 第105号

「ドグマ95」なる10ヶ条の信条を基に映画を作る一派を、ご存知ですか? その信条は、かなりドグマチック(←独断的の意。by広辞苑)な内容で、一体これで面白い映画が撮れるのか!? と首を傾げたくなる。●以下がその主な内容。(1)撮影はロケーション。小道具などの持ち込みは不可。(2)背景にある音以外の音楽の使用は不可。(3)カメラは手持ち。(4)フィルターの使用などは不可。(5)殺人や爆破など故意的なアクションは不可。(6)時間的、地理的な乖離は不可。(7)ジャンル映画は不可、などなど。●「ドグマ95」公式ホームページによると、ドグマ映画は世界で今や35本に及ぶようだが、最近までわたしは1本も見ていなかった。が、この間ついにドグマ初体験をしてしまった。『幸せになるためのイタリア語講座』である。●デンマーク、コペンハーゲンのイタリア語講座に集まった6人の男女。仕事や恋愛、家族関係などに問題を抱え、うつむき加減に生きてきた彼ら。でも人々との出会いの中から、少しずつ勇気を取り戻し、そして恋をつかんでいく……。●なんて素敵な話でしょう! ドグマ映画とは思えない。本当に心温まる映画に仕上がっているのだ。例えば映画評論家・川口敦子さんは、この映画を評して「ウェルメイドなロマンティック・コメディ?」と書いているくらいだ。●一方で、センチメンタルに流されないところも、この映画の見所である。淡々としていながら、人物を温かい視線で見守っていくような描き方は、間違いなく「ドグマ95」の制約によって生まれたものだ。つまりここで、いいジャンル映画を撮りたいのなら「ドグマ95」を信奉すべし、という逆説が成立してくるように思えてくる。

— 矢田庸一郎


「スーパーマン」俳優の代表作

2004/11/16 — 第104号

図らずも、この2日間で観た3本の映画はすべて劇作家が主人公でした。■まずは三谷幸喜の舞台劇を映画化したコメディ「笑の大学」。三谷さんといえば自身もいうように“群像劇”が得意なのですが、「笑の大学」は劇作家と検閲官、たった2人の室内劇。大雑把にいえば「12人の優しい日本人」を1/6に煎じ詰めたような作品です。あ、大雑把過ぎましたか。で、これがかなり面白い。笑って泣けて大満足でした。昭和15年という時代設定が影を落とす、切ないラストがまたよいのです。■次にスリラー「デストラップ・死の罠」。以前にスクリーンで観たものをビデオで見直したのですが、名匠シドニー・ルメットの演出のもと、マイケル・ケインとクリストファー・リーヴが火花散る演技対決をみせています。とくに若き劇作家を演じたC・リーヴの演技は、感情の昂りと同時に血圧の上昇までが伝わってくるようで、うまい俳優だったんだなと……、彼の演技がもう見られないことが本当に残念です。■最後は、これまたC・リーヴ主演、劇作家と舞台女優の時を超えたSF悲恋物語「ある日どこかで」。これもビデオで再見。タイムスリップものの白眉といわれるこの映画をC・リーヴの代表作とこの私が断言しておきましょう! 私、旧文芸坐で2度観て2度泣きましたが、20年後に観るこの映画のラストシーン、ストップモーションで微笑む彼の端正な微笑みに、過去2回とは違う意味の涙を禁じえないのです。クリストファー・リーヴ、2004年10月10日心臓発作にて死去。享年52歳。

— 関口芳雄


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