まんすりいコラム

二匹目のどじょうは、たまにいる

2006/01/16 — 第132号

2005年を振り返ってみると、極私的ベストワン映画は『ビフォア・サンセット』と相成りました。1995年に公開された『恋人までの距離〈ディスタンス〉』(原題:ビフォア・サンライズ)の続編です。前作は、イーサン・ホークとジュリー・デルピー演じる男女が列車の中で出会い、意気投合し、朝までウィーンの街を歩き、語り、再会を約束して別れるまでの物語。粋な会話を通して、恋が芽生える瞬間の高揚感を伝えてくれました。続編では、あの時再会できなかった二人が9年後のパリで偶然出会い、またしても歩き、堰を切ったように語り合います。しかも今回は飛行機の搭乗までの85分がリアルタイムで経過し、既に生活を抱える二人のゴールなき微妙な心の揺れに、一体どうして決着を付けてくれよう、と恋愛映画なのに手に汗握ってのめり込んだ次第です。新たな挑戦をしつつも前作のファンの期待を裏切ることなく、登場人物と同じだけ年を重ねた観客にも納得のいくセンスの良いラストを用意した本作に、続編の理想を見た気がします。◆続編というトピックで昨年を振り返れば、傑作密室スリラーの続編『ソウ2』も外せません。低予算を逆手に取った前作のトリックが痛快だった故に募る不安。しかし、新たに抜擢された監督が別に温めていたという脚本を改訂して撮り上げた本作は、前作の物語と巧妙に絡み、『CUBE』やアガサ・クリスティー(ここでは作品名は伏せておきましょう)までもの要素を盛り込んだ残虐かつ知的な充実作となっていたのです。ラストに何かあると思ってはいたのですが……ああ、またやられた! この作品もまた、(“この手”の映画では稀な)続編の成功作ではないでしょうか。『ソウ2』は1/28(土)から。

— 花俟良王


あけましておめでとうございます

2006/01/01 — 第131号

旧年中は、ご愛顧いただき心より御礼申し上げます。

本年も、〈感動はスクリーンから〉をモットーに、皆様が映画を通して感動、興奮するような、心豊かになる番組を提供していきたいと考えております。

どうぞ宜しくお願い申し上げます。

2006年1月1日

新文芸坐

支配人 永田稔
関口芳雄 矢田庸一郎 梅原浩二 花俟良王 後藤佑輔 柳原弘
佐野久仁子 高橋悦子 西本布美子 高橋夏枝 加藤有里 浅香ノリ

— スタッフ一同


お陰様で、5周年を迎えました。

2005/12/16 — 第130号

新文芸坐は、20世紀末の2000(平成12)年12月12日にオープンしました。開場記念日を忘れないように、[12]並びのゾロ目の日を選びましたが、巨匠・小津安二郎監督の誕生日であり、命日であることを意識して決めました。今年で満5年になりました。ご来場いただいたひとり、ひとりのお客様のお陰と、心から感謝致しております。▲さて、今年も早いもので、あと数日を数えるだけになり、一年間を振り返る季節になってしまいました。今年の新文芸坐は、〈戦後60年企画〉を含めて、例年と同じように多くの特集番組を上映してきましたが、結果的に“追悼”特集上映が多くなりました。▲岡本喜八監督、石井輝男監督が亡くなり、百カ日も過ぎないうちに“追悼”特集上映を行ないました。また、11月の〈撮影監督・高村倉太郎〉特集の時は、高村さん本人が初日直前に亡くなるという突然の訃報が届いたり、17回忌の美空ひばり特集を含めると“追悼”上映が多かったことに納得させられます。そして、昨年〈脚本家・鈴木尚之の仕事〉で特集上映した鈴木さんも先月26日に亡くなりました。映画界、映画ファンにとっては、悲しい年になってしまいました。▲ところで、映画ファンの皆さんは、今年どんな映画に出会ったでしょうか。感動、興奮、刺激を受けた素敵な映画に巡り会えたでしょうか。新文芸坐は、今年600本近くの映画を上映しましたが、皆さんの心に残る映画が、その中にありましたでしょうか。これからも《感動はスクリーンから》をテーマに、様々な映画を上映していきたいと思っていますので、ご来場の程を宜しくお願い申しあげます。

— 永田稔


充実のラインナップ、「シネマカーテンコール」

2005/12/01 — 第129号

演劇などで、最後に観客が拍手で出演者を舞台に呼び戻すことを、カーテンコールといいますね。年末恒例「シネマカーテンコール」は喜びや感動を与えてくれた映画をスクリーンに呼び戻す特集です。●今年の目玉はヨーロッパの巨匠の二本立て『ヴェラ・ドレイク』&『ライフ・イズ・ミラクル』。市井の人々の日常をじっくりと緻密に描くM・リー監督と、政治や歴史に翻弄される人々を寓話的祝祭的手法でパワフルに描くE・クストリッツァ監督。正反対の手法の両巨匠、まさに見応え十分の二本立てです。●娯楽映画を気楽に、という方には『フライト・オブ・フェニックス』『セルラー』『50回目のファースト・キス』。●『フライト〜』は発想が面白い。砂漠に不時着した飛行機の乗客たちが危機を脱出する唯一の方法は、機体の残骸から新しい飛行機を造ること。えっ、そんなぁ〜。でもそこが映画。奇想天外なサバイバル・アクションが展開します。実はこの作品、名匠R・アルドリッチ監督作品のリメイクなのです。●『セルラー』はもっと面白い。青年の携帯電話に、誘拐された見ず知らずの女性から助けを求める悲痛な声が。彼女の命の希望は彼の携帯電話だけ! 状況がめまぐるしく変るノンストップ・スリラーですが、所々に笑いを織り交ぜるのが憎い。原案は『フォーン・ブース』の脚本ラリー・コーエン。なるほどって、感じです。●最後は笑って泣ける感動ラブコメ『50回目の〜』。主演はA・サンドラー&D・バリモアの黄金コンビ。ルーシーは前日のことをすべて忘れてしまう短期記憶喪失障害。そんな彼女に一目惚れしたヘンリーは毎日、彼女と初対面の出会いから始めて、愛の告白を……。上映日は12/29〜30の2日間、『セルラー』と二本立て。幸せな気分で年越しできること間違いなし。

— 矢田庸一郎


スモーキング ルーム(喫煙所)が完成しました

2005/11/16 — 第128号

私が、自宅近くの3本立映画館で映画を見始めた1950年頃の映画館は、場内に入ると、まず、たばこの匂いが鼻腔を刺激し、紫煙に揺らめく1本の太い光線が暗闇を切り裂いて走るのが目に飛び込んできました。たばこの火が、蛍のように所々で光っていました。その時代の映画館の普通の光景でした。◆1973年に文芸坐に入社した頃には、消防法により場内は禁煙になっていましたが、その頃、お客様からの苦情で一番多かったのは喫煙に対してであり、お客様同士のトラブルに発展する原因も喫煙でした。◆今、喫煙のマナーが社会問題になっています。街頭でのたばこのポイ捨ては、条例で罰金を取られ、新幹線では車両を、レストラン、喫茶店などでは場所を区別するようになりました。新文芸坐でもロビーの一角に喫煙コーナーを設けてきましたが、紫煙はあちこちに漂うもので、「全館禁煙にしろ!」という意見が多くなってきました。◆小泉首相のように郵政民営化に反対の者を党から追い出すような、喫煙者を映画館から締め出す“全館禁煙"という選択はできませんので、喫煙コーナーを仕切って喫煙所=スモーキング ルームを造ることにしました。ガラスで仕切り、自動ドア、エアコン、空気清浄機付きの豪華設備です。◆新文芸坐は、今年12月に5周年を迎えますので、特別企画を考えていたのですが、会社の社員教育にスタッフが順次参加を義務づけられ、日程が重なってしまい計画を断念しました。その代わりに喫煙所を設けました。今、映画館への苦情で一番多いのは、携帯電話に関することです。これからも映画を快適にご覧頂くための努力をしていきたいと思っています。お客様には、マナーを守って映画をお楽しみいただきたいと思います。

— 永田稔


アメリカに渡ったアイリッシュたち

2005/11/01 — 第127号

アイルランド系アメリカ人は約4000万人いて、これは全米人口の18%にものぼります。ちなみにアイルランド本国の人口はたったの400万人。移民の方がはるかに多いのです。米国への移住の主な理由は貧困(19世紀ジャガイモ飢饉)で、映画では「タイタニック」「遥かなる大地へ」などでその様子が描かれています。◆では米国に渡ったアイリッシュたちの暮らしぶりはどうだったかというと、「アンジェラの灰」のように、相変わらずの貧しさです。米国はプロテスタントの国。多くがカトリックであるアイリッシュは社会的差別を受けて、就く職業も限られていたようです。アイリッシュといえば“警官”“消防士”そして“ボクサー”がそのステロタイプで、映画でも「静かなる男」「ギャング・オブ・ニューヨーク」「バックドラフト」と枚挙にいとまがありません。◆そこで「ミリオンダラー・ベイビー」です。舞台は米国ですが、こてこてのアイルランドの匂いがします。ゲール語(≒アイルランド語)、カトリック教会、緑のガウン……。ヒロインの名“マギー・フィッツジェラルド”にしても聞けばそれととわかる典型的なアイルランドの姓です(アイリッシュ系初の米大統領J・F・Kのミドルネーム)。もちろん、ハリー・キャラハンもアイルランド系刑事(映画が違う!)。◆アイルランドはバチカンに次ぐ敬虔なカトリック国といわれ、子沢山で家族のつながりが強いことでも知られています。そういう背景を知れば、主人公ふたりの置かれたそれぞれの孤独感への理解も違ってきます。またアイルランド本国は中絶を憲法で禁止するような国であるということを知っていれば、主人公のとった命の選択もより重く感じられるでしょう。◆アイルランド話、次回は「シンデレラマン」でお会いしましょう。

— 関口芳雄


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