まんすりいコラム:2002年

リンチ・ワールドの楽しみ方——「マルホランド・ドライブ」

2002/06/16 — 第46号

◆世界に数多(あまた)ある映画賞の中で最高の権威を誇っているのがカンヌ映画祭。意外にもD・リンチ監督はカンヌ映画祭の受賞&ノミネートの常連なのだ。◆日本人は海外の映画賞(ブランド)に実に弱く、カンヌで賞を獲ったりするとリンチ・ファンのみならずリンチに免疫のない人も劇場に大挙押しかける。そしてその何割かは、“?”状態で映画館を後にする。リンチ作品を「難解だ」などという御仁も少なからずいるようで…。◆リンチは難解ではない。確かにリンチ作品には謎が多い。しかし謎は謎のままで、解決はしない。伏線もなければオチもない。正解のない長文読解問題のようなもの。正解があると思うから難解なのだ。◆リンチ・ワールドの楽しみ方、それはストーリーは二の次、“今スクリーンに映っているモノを楽しめ”ということに尽きる。観終えたら、人と好きなシーンについて語り合ってみるといい。暗い穴、マイク、金髪と黒髪の美女ふたり、カーテンで仕切られた部屋、苦いコーヒー、謎めいた老人、意味もなく怯える男……。ストーリーと関係ない部分ほど面白いことに気づくはず。(リンチは映画毎にストーリーは変えてはいるが、撮りたいモノ(=オブジェ)は変わっていないんだということにも気づくだろう。)◆私が今年観た映画で、最も頭を使った映画は新鋭C・ノーラン監督「メメント」(当館にて6/15〜21上映)。最も頭を使わなかった映画が我らがD・リンチ監督のカンヌ映画祭監督賞受賞作「マルホランド・ドライブ」(6/29〜7/5)。

— 関口芳雄


大林監督から名画座へのメッセージ

2002/06/01 — 第45号

映画監督大林宣彦が文を書き、イラストレーター小田桐昭が挿し絵を描いた『五風十雨日記—日日世は好日2001—巻の一同時多発テロと《なごり雪》』(たちばな出版)という長い題名の本が、監督のサイン入りで送られてきました。明治31(1898)年創刊というローカル新聞の老舗中の老舗〈山陽日日新聞〉に連載していたエッセイをまとめたものです。◆〈人と語る〉〈旅に出る〉〈映画を作る〉からなり、歴史的世相感があったり、時事評論があったりと示唆に富んだ内容です。やや難しい用語がありますが、ルビが打ってあり読みやすく、監督の魅力的なバリトンが聞こえてきそうな感じがする楽しい本です。◆新文芸坐のオープン記念特集の中で監督の「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の尾道三部作に「異人たちとの夏」の四本立でオールナイト上映した時に舞台挨拶をしていただきました。その時に感じられたことを「私説・名画座」と題して掲載されています。◆新文芸坐を名画座の老舗中の老舗と称してくださり、『名画座で上映される映画は“文化”であり、映画の“初心”に回帰するから映画作家冥利に尽きる』と書いています。身に余る光栄で、これこそ興行者冥利に尽きると言うものです。大雪の日で監督に大変ご迷惑をかけたのですが、そんな状況には触れずに……です。◆大林監督の優しいお心づかいは、新文芸坐に対する応援メッセージと受け止め、他の映画監督にも映画の“初心”に回帰できるような名画座らしい上映を心がけたいと思います。時々、二番館的な新作二本立ての番組を組み入れながら………。

— 永田稔


記憶喪失の疑似体験「メメント」

2002/05/16 — 第44号

まあとにかく観てください。こんなに知的でスリリングな映画はそう滅多にはないぞ。
◆まず前向性健忘という症状を説明しなくては。この障害、発症する以前の記憶は完全なのだが、新しい記憶を覚えていられないというもの。主人公は妻が殺されたときのショックで発症、10分以上の記憶が続かないのだ。脳裏に刻まれた“犯人への復讐心”が最後の記憶で、それ以降は10分前のことは覚えちゃいない。そんな男の復讐劇とは如何なるものか…。◆監督・脚本のクリストファー・ノーランは、主人公の記憶障害を観客にも疑似体験させるという試みに挑戦し、成功している。観客に見せるシークエンスを並び替えることによって、観客は記憶喪失を体験できるのだ。図に示すと以下のとおり。

時間の流れ ─────────────────────→
場面の順番 — … → ─(4)→ ─(3)→ ─(2)→ ─(1)→

例えば(2)の場面が始まる時点で、主人公は直前の(3)の記憶がない。観客も(3)は見せられていないから知らない。自分がなぜそこにいて、一体何をしようとしているのか? 主人公も観客も“???”状態。「ここは何処?」「オレは今、誰と話している?」「オレは何故走ってる?」「オレはこのメモに何を書こうとしていたんだ?」 各場面は概ねこんな始まり方をする。そして映画の最後=物語の最初には衝撃の…。◆全世界でリピーター続出の「メメント」。7日間の上映ですので、最低2回はご覧くださいね(営業モード)。「メメント」は6/15(土)〜21(金)、「キリング・ミー・ソフトリー」と2本立上映。

— 関口芳雄


『阪妻映画祭』で活弁に初挑戦する講談師・神田北陽

2002/05/01 — 第43号

“阪妻”生誕100年を記念して5/18より4週間『阪妻映画祭』を開催いたします。上映作品の中には、昨年ロシアから里帰りした『鍔鳴浪人』前後篇、『狼火は上海に揚る』やGHQから返還されたフィルムを始め、大正時代のサイレント映画からトーキーに移行して剣戟王と謳われた戦前、現代劇にも新境地を開いた戦後と、映画全盛期時代の阪妻主演作品など57本を連続上映いたします。◆イベントには、阪妻の遺児で俳優の田村三兄弟(高廣、正和、亮)の長男、高廣さんの舞台挨拶、映画評論家山根貞男さんのトークショー、サイレント映画には、澤登翠と講談師・神田北陽の活弁付き上映もあります。◆活弁に初挑戦する北陽は、講談界衰退の象徴的出来事であった講談定席「本牧亭」が閉場する日に入門した変わり者です。修行の場を演芸界だけでなく、演劇、音楽など広範囲に求め、旺盛な向上心と好奇心によって現代的感覚を磨きました。自演の新作を創り、リズミカルで歯切れの良い口調と明るい芸風で紀伊国屋ホールをひとりで満員にする人気者です。この夏、抜擢されて師匠の名跡〈神田山陽〉(三代目)を襲名して真打ちに昇進する実力を兼ね備えた芸人です。大衆古典芸能界では将来を嘱望されている一人です。◆お年寄りが大好きな北陽は、80歳を超えていた先代に入門し、今は、96歳の島田正吾にハマっていて、毎年舞台を見ては感激に涙している好男子です。活弁には前々から興味を持ち、老弁士を静岡まで訪ねたこともあり、念願が叶い張り切っています。まずは、『阪妻映画祭』予告篇のナレーションをお聞きください。

— 永田稔


『阪妻映画祭』で講談師・神田北陽、活弁に初挑戦!!

2002/04/16 — 第42号

◆“阪妻”の愛称で親しまれ日本映画史上に燦然と輝く大スター阪東妻三郎は、今年生誕100年にあたります。これを記念して5月18日から4週間にわたって「阪妻映画祭」を企画いたしました。阪妻が活躍した大正時代から亡くなった昭和28年にかけて映画は、〈大衆娯楽の王様〉と例えられた最も隆盛の時代でした。艶やかな容姿と豪快な殺陣によって“剣戟王”と称された阪妻は、人気No.1のスターでした。◆『阪妻映画祭』は、邦画五社が結集しマツダ映画社、京都映画祭の協力を得て、阪妻主演作品など57本を連続上映いたします。その中には、昨年ロシアから里帰りした幻の映画と言われた『鍔鳴浪人』前後篇と『狼火は上海に揚る』を始め、GHQに接収され返還されたフィルムや、ネガが消失してしまったサイレント映画の断片を集めて復元したフィルム上映など大規模な映画祭です。◆イベントは、阪妻の長男で俳優の田村高廣さんの初日舞台挨拶と、中日には映画評論家山根貞男さんのトークショーがあり、サイレント映画には澤登翠と講談師・神田北陽の活弁付き上映もあります。◆北陽は、活弁に初挑戦です。現代的な感覚で自演の新作を創り、リズミカルで歯切れのよい口調と明るい芸風で新宿紀伊国屋ホールをひとりで超満員にしてしまう実力者です。この夏、抜擢されて〈三代目神田山陽〉を襲名して真打ちに昇進します。映画ファンには馴染みの薄い芸人ですが、大衆古典芸能界では将来を最も嘱望されている若手の一人です。まずは、『阪妻映画祭』予告篇のナレーションで初見参(?)いたしますので、お聞きください。

— 永田稔


『バニラ・スカイ』『板妻映画祭』の入場料金について

2002/04/01 — 第41号

今年のゴールデンウィークは、4/27からUIP配給『バニラ・スカイ』『ブリジット・ジョーンズの日記』の〈二本立〉の上映をいたします。又、阪妻の愛称で親しまれてきた大スター阪東妻三郎の生誕100周年を記念して5/18より4週間にわたり『阪妻映画祭』の特集上映をします。◆この2番組は、配給会社から一般入場料金を1,500円に設定するように要請されました。『バニラ・スカイ』は、ロードショー(RS)終了直後の上映になるため、『阪妻映画祭』は邦画5社初めての共同企画で、新文芸坐を皮切りに全国展開しますので統一料金を、という理由からです。お客さまには大変恐縮でございますが、ご了承の上ご来場いただきたいと存じます。◆全盛時代の映画は、RS公開後は下番館と言われる二番館、三番館、名画座と順序よく流れ、〈二本立〉〈三本立〉と上映本数が増え、それに反比例して入場料金が安くなっていきました。現在は、ビデオ、DVD、BS、CSの衛星放送などTV画面で映画が観られるようになり、下番館は全国でも数館だけになってしまいました。映画はRS館で観るか自宅TVで観るかの状況にあります。◆映画を観る環境は急激に変化していますが、新文芸坐は《感動はスクリーンから》をモットーにRS終了直後の映画から旧作の特集番組まで幅広く上映し、お客さまの要望に応えたいと考えています。配給会社からの条件によっては入場料金を変更せざるを得ない場合もあります。ご理解いただきたいと存じます。

— 永田稔


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