まんすりいコラム:2003年

マイ・ジェネレーション

2003/09/16 — 第76号

『ブギーナイツ』『マグノリア』で名を馳せた俊英ポール・トーマス・アンダーソンの最新作『パンチドランク・ラブ』を観て嬉しくなりました。キューブリックからジャック・タチ、果てはサム・ライミまでをも彷彿とさせ、ラブコメディなのに全編に緊張感がみなぎるという“期待どおりの”不思議な味わいの作品となっていたからです。◆僕はアンダーソン監督を“我が世代の旗手”として勝手に称えています。100年の映画史をランダムに咀嚼し、独特のセンスで再構築して完成する作品は紛れもなく現代的。幾多の名作をリアルタイムで観てきたオールドファンに羨望の眼差しを向ける僕のような“レンタルビデオ世代”にとっては、追体験を武器に作家性の強い作品を送り続ける同世代の彼は頼もしい限りです。ちなみにクエンティン・タランティーノにも同じことが言えますが『キル・ビル』は期待に応えてくれるでしょうか。◆さて、旧作洋画の上映が困難な中、大変お待たせしました「フランス映画社 BOWシリーズ特選」です。ズラリ並んだ秀作群は、いずれもその時代・世代に強烈な印象を与えた作品。比較的新しい作品が多いので、ご覧になった方も多いと思います。当館従業員の間でも、“ザンパラ”“パリテキ”などの言葉を久しぶりに口にする20年前の映画青年や、当時デートで観た『ピアノ・レッスン』のテーマ曲に過剰反応する者、まだ観ぬ『ウイークエンド』にファッション的嗅覚を反応させる者など、世代によって反応は様々。その様々な世代が一緒にスクリーンで感動を再確認・追体験するということは名画座の醍醐味のひとつであり、とても有意義で素敵なことだと思います。

— 花俟良王


池袋の映画館が結束

2003/09/01 — 第75号

当初、郊外の大規模な商業施設に併設されて誕生したシネコンも10年が経ち、最近では都内の施設にも併設されるようになった。今春開業したヴァージン・シネマズ六本木を中心に見ると、東にお台場シネマ・メディアージュ、109シネマズ木場、西にTジョイ大泉、南に品川プリンスホテルシネマ、平和島シネマサンシャイン、北にワーナーマイカル板橋などです。7サイト68スクリーンが増えたことになります。◆都心のロードショー館は、既に営業面で相当深刻な影響を受けているようです。ターミナル駅である池袋の映画館は、西武池袋線大泉学園にできた東映系のTジョイ大泉、東武東上線東武練馬にできたワーナー・マイカル板橋の出現と、来年豊島園にもシネコンが開業予定であり、事態を深刻に受け止めています。◆池袋には、池袋駅の東口に14館、西口に5館の19館の映画館がありますが、東宝、松竹、東映の大手映画会社の直営館はありません。総て独立興行会社の経営です。そのライバル興行会社同士が共通の危機意識を持ち、組織をつくってその対策を協議しようということになりました。如何にして映画を観る時に池袋の映画館を選んでいただけるかが命題です。◆シネコンが、一つの建物の中に複数のスクリーンを持つ映画館のことを言うのであれば、池袋駅を中心に19館の映画館が点在する池袋は、街がシネコンと言えます。この観点からすると、映画館だけの問題でなく、池袋の街の問題でもあります。行政、商店街など連携して取り組む課題と思いますが、映画館としては、映画ファンに喜んでもらえる方策を考えることから始めたいと思います。

— 永田稔


消耗しない、エラい映画

2003/08/16 — 第74号

7月の「ロード・オブ・ザ・リング」と「ロード…/二つの塔」2本立はとても多くのお客様にご来場いただき、興行的にも大成功でした。御礼申し上げます。■上映中、意外に思ったことがあります。ひとつは、新作の第2部だけを観る方よりも第1部から続けてご覧になるお客様が圧倒的に多かったこと。シリーズ物とはいえ2本で6時間を超える長尺。体力も要る。他館で〈1・2・2・2〉という変則2本立で上映している映画館がありましたが、当館では〈1・2・1・2〉と素直に上映して正解だったわけです。さらに、第2部よりも第1部の方が多くパンフレットが売れたということ、これも意外でした。第1部のパンフレットだけ買われたあるお客様になぜ1部だけなのか訊いてみると、第1部はDVDで第2部は映画館(ロードショー)で観たが、第1部をもう一度大スクリーンで観たくなった、というお答えでした。これはエラい。■下番館での番組作りでは、ビデオ・DVD化された作品は興行的にはマイナスと考えるのが普通です。ビデオで観たからわざわざ映画館では…、というワケです。ところが「ロード…」はDVDで観たあとに映画館で観たくなるという。そこがエラい。消耗して忘れ去られていく作品と、後世に残る作品、そこの違いです。■「ロード…/王の帰還」が新文芸坐で上映できるようになったら「3本立で観たいっ」ていう要望があるんだろうなぁ。9時間か…。どうする? 観る方も覚悟はあるのかっ!? あるならリクエストください。

— 関口芳雄


8月15日終戦の日、特別企画『社会派映画特集』

2003/08/01 — 第73号

8月15日は終戦の日です。数ある記念日、祝日の中で最も重大に扱わなければならない日ではないでしょうか。新文芸坐では、映画上映を通して過去を語り継いでいくことにより、現在を顧みるヒントになればと考えて、文芸坐時代の昭和54(1979)年から、8月は反戦映画や社会悪を描いた映画の特集にこだわって番組してきました。昨年は、有事法案が審議中でしたので、反戦映画特集を上映しました。◆昭和20(1945)年8月15日敗戦を知った人々は、戸惑いながらも「戦争はもうこりごりで、これからは明るい平和な社会にしたい」と思ったことでしょう。高い理想と理念に基づいて創られた平和憲法の下で、日本は今日の平和と繁栄を築いてきました。◆しかし、近年の情報技術の進歩によって、グローバル化が急速に進んだことにより、日本は国内ばかりでなく外国に対しても、政治力、経済競争力などの脆弱さを露呈し、経済不況を引き起こし、社会秩序の乱れ、人心の荒廃へと波及しているような感じがします。戦争放棄に対する考え方も、殺伐とした社会状況も、日本の進路はUターンして逆戻りしているような気がしてなりません。◆そんな杞憂から、今年の特集は、《社会派映画特集─スクリーンが告発する社会の歪み─》のタイトルで、山本薩夫、大島渚、今井正監督など日本を代表する名匠たちが撮った“社会派”映画を8月2日から3週間にわたり31作品を連続上映いたします。何れの作品もエンターテイメントとしても超一級品で、次世代に受け継がれて欲しい名画です。楽しみながら、スクリーンが告発する歪みを喝破し、“今”を考えるきっかけになればと思います。

— 永田稔


二度目の旅は日本語で

2003/07/16 — 第72号

唐突ですが、私の頭の中では名優・ジェームス・スチュアートは声優・小川真司さんの声をしています。中学生の頃テレビで放映された『裏窓』や『めまい』の印象が強かったせいでしょう。もちろんクリント・イーストウッドは故・山田康雄さんでショーン・コネリーは若山弦蔵さん、マイケル・ホイは広川太一郎さんという不動のキャスティングは言うまでもありません。◆今までは“吹替え=テレビor子供”というイメージでしたが、最近はDVDの普及(大半の洋画作品には日本語吹替え版が収録されています)や、大作映画の吹替え版同時公開などにより、吹替えは映画を楽しむ上でのひとつの選択肢となってきました。その主なメリットは……(1)「字数制限がない」。どんなに早口でもOK。会話の微妙なニュアンスまで伝わります。(2)「画面に集中できる」。美しい衣装や風景、巧妙な特撮などを堪能すれば作品の印象も深まります。(3)はズバリ「疲れない」。2時間字を読み続けるという行為は意外に重労働だったのです。私の選択理由はもっぱらコレ。◆そのメリットを最大限に生かせるのがご存知『ロード・オブ・ザ・リング』。IとII合わせて6時間のこの超大作は、ニュージーランドの雄大な自然と2年連続アカデミー視覚効果賞受賞のCGを融合させて、重厚なドラマと人間関係を紡いでいきます。熱烈なファンによれば、吹替えの口調によって主人公フロドと使用人サムの関係性や、指輪に魅せられたゴラムのキャラクターが明確になるとの意見もあります。当館では吹替えと字幕を1日1回ずつ上映するので、前日の気分と体調(?)に合わせてチョイスしてください。◆追記 山田康雄さん亡き後、先日テレビ放映されたイーストウッドの近作『トゥルー・クライム』では野沢那智さんが吹替えを担当。プロの技を“聴かせて”くれました。

— 花俟良王


夏休み親子優待フェア

2003/07/01 — 第71号

映画館の愉しみのひとつに“大人数で同じ映画を観る”というのがあります。みんなでドッと笑ったり、観客の悲鳴にびっくりさせられたり、カタルシスのあるシーンでは歓声や拍手が起こったり…。こういった観客の反応というのは決して不愉快ではなく、作品の力が増幅されたような感じがしてこれはお得です。ビデオで観てもこんな体験はできません。作品との最初の出会いはぜひ大人数で観る映画館をお勧めします。■新文芸坐では今年も夏休み親子優待フェアを行います。期間は「ロード・オブ・ザ・リング」1&2の始まる7/19(土)から8/31(日)まで。中学生以下(3歳以上)のお子様をお連れになった大人の方は、ご入場料金をお一人1000円(2名様まで)に割引いたします。夏休みです。ご家族お誘い合わせのうえご来場ください。みんなの歓声や悲鳴で映画を盛り上げましょう。ただしオールナイトは18歳未満の方はご入場できませんので対象外です。■映画というのは配給会社にとっては大切な商品で、入場料の高い映画館で優先的に上映し、当館のような低料金の劇場が上映できるのは最後になります。入場料が下がるということは商品としての作品の価値が下がるということなのです。ですから上記の「ロード…/二つの塔」も配給会社からは入場料金をもっと高くしてほしいという要望がありました。でも当館としては通常料金で上映したい。そこで折衷案として、ラスト1本割引を1000円にすることにいたしました。どうかご理解ください。

— 関口芳雄


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