まんすりいコラム:2003年

映画フィルム—日々雑感、「超大作」

2003/06/16 — 第70号

かつて超大作と言えば、巨大なオープンセットと大群衆が付き物でしたが、最近はデジタル技術の発達で必ずしもどちらも実物が必要ではなくなっているようです。「マトリックス」は2作目と3作目合わせて3億ドル以上の制作費が掛けられているそうですが、前述の古典的な意味での超大作という雰囲気はありません。実際には2km以上にわたる高速道路を建設して撮影しているそうですが、のっぺらぼうな高速道路のセットでは今ひとつ夢がありません。が、しかし、かつて映像化できなかった、夢のようなアクションシーンをひたすら追い求める映画にあっては却って背景はシンプルにした方が良いのでしょう。■最後の(と思われる)古典的な超大作は「ギャング・オブ・ニューヨーク」でしたが、CG全盛の現在に暴挙と思われるチネチッタの夢のような巨大セットは実に感動モノでした。ただ最近見た「プレイタイム」のモダンなセットの街“タチヴィル”の方が、スコセッシのような映画史やらチネチッタやらに対する自覚や郷愁がない分、暴走の度合いがより激しかったです。で、最近の超大作らしい超大作と言えば当館で7/19(土)より上映する「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズです。最新のCG(例、キャラクターを一体一体動かさなくてもプログラムで自分で勝手に戦ってくれる群集シーンなど)が多く使われている映画ですが、実は監督の意向で意外にもミニチュアやオープンセットがかなり使われている映画なのです。CGと渾然一体となって分かりにくいシーンもあるのですが、やはり実写(ミニチュアも含む)の存在感というのは捨てがたく、今後ともCG一本槍ではなく、このような手法で映画が撮られることを切に願ってやみません。

— 梅原浩二


変革する映画興行

2003/06/01 — 第69号

明治36年(1903)、浅草の電気館が入場料金5銭で常設映画館になった。これが映画興行の始まりで、今年が100年目になります。映画は、戦後“娯楽の王様”と言われ、映画館数は、昭和33年(1958)のピーク時には7,000館以上に達していました。その後、TVの普及、娯楽の多様化などにより、映画館は1/3近くまで減少しましたが、シネマコンプレックス(シネコン)の出現により、社会不況にもかかわらず映画館は増加傾向にあります。◆シネコンとは、一つの建物の中に複数のスクリーンを持つ映画館のことです。シネコンが登場したのは、10年前の平成5年(1993)開業のワーナー・マイカル・シネマズ海老名が最初です。そのシネコンは、郊外の大規模な商業開発の際に併設されてきました。これは、従来の都会に映画を観に行くという非日常的な行為から、観客の生活する範囲に映画館があることによって、映画を観る行為を生活習慣の一環にしてしまうという発想に基づくものです。◆しかし、最近ではシネコンが、都心の様々な“街”に出現するようになってきた。東京では、品川プリンスホテルシネマであるとか、この4月にオープンした六本木ヒルズ内のヴァージン・シネマズ六本木ヒルズであるとか、豊島園内にもシネコン建設の計画がある。地方都市でも札幌シネマフロンティアが既に開業しているし、名古屋駅前、大阪球場跡地の再開発にシネコンを併設しようと言う動きがある。◆その時代の社会状況、映画ファンのニーズに対応しながら、ホテル、商業施設、オフィスビル、マンション、遊園地などに併設する多様な選択肢の中から映画館が誕生しています。一方では、デジタル化の動きが急速に進行しています。デジタル化に移行することは必至でしょう。このように映画興行界を取り巻く環境は刻々と変革しています。新文芸坐は、時代の流れに乗り遅れないように対処していきたいと考えています。

— 永田稔


ほろ苦さと甘酸っぱさ
『SWEET SIXTEEN』と『僕のスウィング』(6/14〜20上映)

2003/05/16 — 第68号

『SWEET SIXTEEN』の監督、ケン・ローチの映画に共通するのは労働者階級、貧困、抑圧といったテーマであろうか。人間の自由と尊厳を見つめる姿勢ともいえるかもしれない。一方で彼の映画には、どことなくユーモラスな人間が必ず出てくる。けっこう辛い話の時でも、そういった人物たちのクスクス笑いが見る方の体の緊張感を解きほぐしてくれる。■ケン・ローチは決してハリウッドで映画を撮ったりしないと思う。きっと生涯、貧乏人や抑圧された人々の映画を撮り続けるのだと思う。ケン・ローチが素晴らしいのは理想をふりかざさないことと、映画の中で間抜けな人間を描いても、彼らを決してしからないことだ。揺るぎない信念と人間への優しさ。彼の映画はこれに尽きる。■『僕のスウィング』の監督、トニー・ガトリフのキーワードは、自身のルーツでもある“ロマ”。ロマとはジプシーの自称である。彼らは約千年前に北西インドからヨーロッパに移動し、各地に分散、定住する。彼らへの呼称は地域で異なりドイツではシンティやツィゴイネル、フランス南部ではジタン、スペインではヒターノ、イギリスではジプシー。今では差別的なジプシーの名を嫌い人間という意味のロマを名乗る人が多い。■夏休みにフランス北部の祖母の下に預けられた少年と、土地のロマの少女との触れ合いをほとばしるような瑞々しい映像で綴る一編だ。この映画の一番の魅力は、映画の中で常に響き渡る個性豊かな音楽たち。中でもこの地方のロマの呼称、マヌーシュに由来する軽やかでいて物悲しい“マヌーシュ・スウィング”の旋律に心を奪われる。■1枚のチケットでいろんな味わいを楽しめる二本です。でも見終わると、ちょっと胸が痛くなる、そんな二本立てでもあります。

— 矢田庸一郎


レスリー・チャンの追悼オールナイトを開催

2003/05/01 — 第67号

レスリー・ファンというほどでもない私も、4月1日のレスリーの訃報を聞いたときはかなりショックを受けた。香港映画ファンの映画ライターがわざわざ電話を掛けてきて教えてくれた。彼女にはメールで友達から連絡が入ったそうだ。だからとっさに私は、何かの誤報、あるいはネット上での巧妙な悪戯ではないかと思った。信じられないという思いだったのかもしれない。「香港のラジオがちゃんと伝えているの。間違いない」。彼女の小さな悲痛な声が電話口から漏れた。■6/14(土)にレスリー・チャンの追悼オールナイトを行なうことになった。昼間にやる案も出たが、それだと遅くなる。できるだけ早くということでオールナイトになった。オールナイトでは行きにくいという方も多いと思うが、どうかご理解願いたい。■上映作品は『欲望の翼』、『君さえいれば 金枝玉葉』、『さらば、わが愛 覇王別姫』、『ブエノスアイレス』。レスリー・ファンでなくとも見ごたえ十分、傑作4本立てである。そしてレスリーの魅力が結晶し、きらめき、ついには爆発する4本立てである。■レスリー特集は開館の時から常に頭にあった。いつでもできると呑気に構えてたところもあった。そしたらこんなことに。初めてのレスリー特集は追悼上映になっちゃった。■享年46歳はあまりに若い。歳を取るごとにさらに素敵な顔を我々に見せてくれたはずだ。数年前からレスリーは監督業への進出の夢を語っていた。だがそれも実現することはなかった。なにか映画の未来に大きな穴が開いたような気がする。本人が一番辛かったり、虚しかったり、無念だったのかもしれないが……。本当に残念無念で仕方無い。

— 矢田庸一郎


4月のオールナイト

2003/04/16 — 第66号

4月のオールナイトは、アニメとトークショーてんこ盛りです。4/12(土)「クレしん」のゲストは我々スタッフもまだ知らされていませんが、あの方は今年も来るのではないでしょうか。リベンジのため…。(昨年の「クレしん」ナイトをご覧の方はお分かりですよね。)■19(土)は「機動戦士ガンダム」。昨今のガンダム・ブームは、ガンダム世代が社会の中で占めるポジションの推移と大いに関係があります。これからの日本を支える中心的な世代。彼らは多かれ少なかれ「ガンダム」の洗礼を浴びているわけで、初見・再見を問わず、今ここでファースト・ガンダムを観ておくことは日本人に必要なのでは? 当日はグッズ販売なども予定しています。オールナイトは18禁です。みなさん、オトナ買いの準備はよろしいですか? ゲストは、漫画家の北爪宏幸さんと雑誌「ガンダムエース」編集長の古林英明さん。■26(土)は「機動警察パトレイバー」。ゲストは漫画家の、ゆうきまさみさんと、とり・みきさん。おふたりは一時期、女優H・Tに御執心で、ヘッド・ギアの出渕裕さんらとともに「バースデイ本」なる同人誌を作りご本人の誕生日にプレゼントをした…、などという仲です。いや、パトレイバーとは関係ないですが、私もあの夏「♪ヒトデと出逢って 億万年♪」などと口ずさんでいたクチですから。■オチが深い、とり・みきさんのマンガに倣って、説明過少の文章にしてみました。リベンジ? オトナ買い? ヘッド・ギア? ヒトデと? 分からない人は近くのおにいさん、おねえさんに聞いてみましょう。

— 関口芳雄


祝 卒寿記念 銀幕の天才 森繁久彌映画祭

2003/04/01 — 第65号

通信機器をはじめ科学の発達により私たちの生活は、前世紀の数倍の早さで変化し、便利になっています。一方では、バブル崩壊後の社会不況は延々と続き、株価(3/12現在)は20年前に戻ってしまい、閉塞感を抱いたままで日常生活を余儀なくされています。生活が便利になった割には心豊かな気分ではない。◆スローライフの勧めが叫ばれているこんな時代だからこそ観ていただきたいのが4/26からの「祝 卒寿記念 銀幕の天才 森繁久彌映画祭」です。森繁映画の時代は、スタッフ、キャストなど撮影現場が一丸となった手作りで、スクリーンから温もりが伝わってきますので心を癒してくれると思います。◆5月4日に卒寿を迎える森繁は、ご存知の通り平成3年に文化勲章を受章するなど、わが国の文化、芸能の分野における巨人です。「屋根の上のバイオリン弾き」などの演劇俳優として、テレビ、ラジオのタレントとして偉大な存在でありますが、森繁の真骨頂は映画俳優として、名匠が撮った芸術作品、野心作から数多くシリーズ化された喜劇映画など240本に主演、出演した銀幕上での存在感あふれる天才的演技にあるのではないかと思っています。◆この映画祭を企画するにあたり、森繁さんにお目にかかりました。開口一番「オレの映画なんかに客なぞ来ないゾ!」と言いながら結構嬉しそうにしていました。記憶力は確かです。さすがにスクリーンで観せる森繁節といわれるリズミカルな話し方、間に往年の冴えとまではいきませんでしたが、「映画とはデタラメとウソの積み重ねだが、その中に小さな真実を見つけていい映画という」など印象的な話をしてくださいました。◆陽気で軽妙なペーソスあふれる森繁映画で笑って、泣いて、楽しんで心のゆとりを取り戻してください。3月12日現在、ゲストに女優・淡島千景さん、演出家・久世光彦さん、放送作家・高田文夫さん、映画監督・松林宗恵さんが来館する予定です。

— 永田稔


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