まんすりいコラム:2004年

「吉良は大石一味に殺される」はネタバレか?

2004/09/16 — 第100号

映画を観るとその内容や感想を人に話したくなりませんか? お帰りの客様の中にはそのウズウズ感が顔に出ている方も多く見受けられます。しかしその映画を未見の人に対して、結末を語ってはいけません。いわゆる“ネタバレ厳禁”、これ映画ファンのマナーです。◆しかしネタバレがそれほど罪ではないというジャンルの映画もあります。歴史ものや原作があまりに有名な場合がそれにあたります。ハムレットや吉良上野介の末路をバラしてしまったところで、誰も怒らない(怒れない)でしょう。◆当館で上映する「トロイ」にしても、たとえほとんどの日本人がトロイ戦争には詳しくないとしても、トロイの木馬と戦士アキレスの弱点くらいは知っているのでは? 当然そういったエピソードも劇中登場しますし、ファンはそれを映像で観るのを楽しみにしているのです。◆横溝正史「獄門島」の映画化で犯人を原作とは変えてみたり、真田十勇士の霧隠才蔵や三好清海が女だったりと、意表を突く脚色も少なくありませんが、それも原作が有名だからこそ観る側の驚きにつながるわけで、原作を尊重しているといえなくもありません。◆最近観た映画である意味最も驚かされたのは「キング・アーサー」でした。ランスロット卿、グウィネヴィア妃との国を滅ぼす三角関係もなければ、聖剣エクスカリバーのくだりもない。アーサー王伝説を語ったところでまったくネタバレにならないという、伝説とは関係ない物語でした。一応アーサーが王になる前の物語ということですが、○○○○○○が△△した時点で続編製作も無理。おっとネタバレ注意だっ!

— 関口芳雄


映画と自転車

2004/09/01 — 第99号

映画と自転車と言えば『晩春』の原節子、『ニュー・シネマ・パラダイス』のトトとアルフレード、『プロジェクトA』のジャッキーのアクロバット、本格的なレースを扱った『アメリカン・ゼネレーション』や『茄子 アンダルシア』、またその名もズバリ『自転車泥棒』等々ありますが、具体的なお話をいくつか。

現在公開中の『茶の味』で主人公の少年が乗っている一風変わった自転車はタルタルーガのTypeFという自転車で、セミリカンベントと呼ばれる体を仰向けにして乗るタイプのものです。劇中ではかなり必死に漕いでいるので走行性能が悪そうに見えますが、実際には楽に走れる性能の良い自転車のようで、石井克人監督の御指名でこの自転車の登場と相成ったとの事です。映画史に出てくる最も古い自転車はリュミエールの世界初の商業映画『工場の出口』の群集の一部としての自転車ですが、最も自転車が活躍する映画はジャック・タチの「のんき大将」でしょう。スクリーン狭しと縦横無尽に走り回るプジョーの1911年製の自転車は撮影当時(’49)既にレア物で映画完成後プジョーが自動車と交換して欲しいとタチに申し入れ、そのお陰でこの自転車は現在もプジョーの博物館に保存されているそうです。また自転車で最も有名なシーンは『E.T』のクライマックスではないでしょうか? 監督が子役の少年自身に乗ってみたい自転車は? と訪ねたところ選ばれた自転車は日本のKUWAHARA製。E.T.はエリオット少年と共に日本製の自転車を月夜に飛ばせたのでした。

— 梅原浩二


最近の社会的話題から思うこと

2004/08/16 — 第98号

最近、日本のトップリーダーの言動が変である。首相は、外国でイラクへの自衛隊の多国籍軍への参加を表明したり、年金問題では、強硬に法案を通した後で、基礎数値を後出しにしたために、7月の参院選では国民の厳しい審判が下された。国民、国会を軽視した結果である。◆一方、三菱自動車のリコール隠しは、ユーザーの安全を蔑ろにしただけでなく、企業の倫理、存在そのものが問われる重大事であり、UFJ銀行の組織ぐるみの監査妨害、合併交渉の不手際も、上場企業としてはお粗末過ぎる。又、国民的スポーツであるプロ野球では、経営の合理化から球団合併、削減を行おうとして、一部のオーナーが強引に事を運ぼうとしている。事情を知ったファン、選手たちが立ち上がり、国民的関心事に発展している。◆これらの政治、企業、プロ野球の共通している欠点は、国民、ユーザー、ファンという一番肝心の主役の存在を忘れ、社会的立場を失念し、“今”置かれている状況だけを考えて、自己の利益を優先した結論を引き出していることで、“将来”を見据えた理念、理想が欠落していることである。◆このように不条理、不道徳が日常的になってしまっては、人心の荒廃、社会の秩序が錯乱するのは必定です。昨今の多発している吃驚するような事件の遠因になっているように思う。社会の興味は、日常の出来事に向けられ、非日常的な娯楽である映画、演劇、文学などが忘れ去られ、文化、芸術の停滞を招きかねない。各界のトップリーダーは、政策、事業に明確なビジョンを持たなければならない。その言動は、社会生活全般に影響を及ぼすという責任を自覚して欲しい。

— 永田稔


映画を通して戦争を語り継ぐ

2004/08/01 — 第97号

1945(昭和20)年8月15日、日本の無条件降伏を告げる昭和天皇の玉音放送が流れ、太平洋戦争は終戦となりました。昭和初期から続いた長〜い戦争が終わりました。悲惨な戦争でしたが、終戦から半世紀以上が経過し、戦争を知らない世代が多くなりました。沖縄では、今のイラクと同じように地上戦が繰り広げられ、軍人ばかりでなく、多くの一般島民が命を落としました。又、広島市、長崎市の市街地には、原爆が投下され多くの市民と街が一瞬にして消えてしまう人類初の惨禍に遭いました。◆毎年8月になると、非人間的な戦争体験を風化させないために、再び戦争に巻き込まれないために、戦争があったこと、戦争に負けたこと、原爆による世界唯一の被爆国であることを、[芝居][朗読劇][体験談][テレビドラマ][読書会]などで語り継がれています。◆映画の中にも、そんな戦争時代を背景にして、“生”“死”“愛”“友情”“家族”“国家”“個人”“運命”など戦争という異常な状況下での様々な人間ドラマを描いた名作、傑作が数多くあります。新文芸坐では、映画上映を通して戦争を語り継いでいきたいと思っています。◆戦前に製作されたドキュメンタリー映画、戦争中に製作された作品、戦後映画全盛時代の名作、傑作、この戦争の核心に触れる長編記録映画『東京裁判』、そして、昨年度キネ旬1位の黒木和雄監督の『美しい夏キリシマ』まで、劇映画、記録映画、アニメも含めて、新旧取り混ぜて27作品を7/31から3週間にわたり特集上映いたします。映画を楽しみながら、今の日本の状況と戦争について、ちょっと考えてみましょう。

— 永田稔


夏なんです。

2004/07/16 — 第96号

夏です。刺すような日差しの中を歩いていると、“はっぴいえんど”の「風をあつめて」を口ずさんでしまいます。特に夏の歌という訳ではないけれど、防波堤、碇泊、青空、といったフレーズを細野晴臣風に囁けば涼しい風も吹いてくるのです。◆時代を超えた名曲らしく、「ロスト・イン・トランスレーション」でもスカーレット・ヨハンソンのお友達の日本人がカラオケで歌っていました……。が、しかし、これがロックスターのような“絶唱”。違うだろ、囁くんだろ、世界中が誤解するぞ、とハラハラしていたら、エンドロールで原曲が流れて一安心。ソフィア・コッポラも何かが違うと思ったのでしょう。◆夏です。暑い夏とエモーショナルな音楽は相性が良いのです。“夏フェス”という言葉も定着した日本各地の音楽フェスティバルや、「LIVE FOREVER」「炎のジプシー・ブラス」「エルヴィス・オン・ステージ」など音楽映画も続々公開されて、夏の音楽ファンは忙しいのです。◆当館でも7/24(土)に〈真夏の夜のクロスオーバー〉と題したオールナイトを催します。ミカ・カウリスマキ(アキさんのお兄さん)が大好きなブラジル音楽を活写する「モロ・ノ・ブラジル」、ヴェンダースが辿るキューバ音楽との感動的な旅「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」、ライブドキュメンタリーの名作「真夏の夜のジャズ」、そしてエミール・クストリッツァが“ごった煮”音楽集団を追う「SUPER 8」の4本立て。◆誰も指摘してくれないので書きますが、タイトルの“クロスオーバー”は異なるジャンルの競演、という意味の他にも、洒落た音楽をしっとりと聴かせてくれた往年のラジオ番組「クロスオーバーイレブン」にもひっかけております…。はい。◆夏です。池袋発、程よく力の抜けた、ささやかな“夏フェス”にお越しください。

— 花俟良王


「転校生」を追いかけていた頃

2004/07/01 — 第95号

◆大林宣彦監督の「転校生」は私の学生時代に公開され、若者を中心に圧倒的な支持を得て大ヒット、学園祭シーズンともなると多くの大学で上映されたものです。私もこの映画にはまったクチで、ビデオも持っていなかった当時、学園祭をハシゴして「転校生」を観まくりました。大林監督の特集上映などで旧作やアマチュア時代の8ミリ、16ミリ作品を知り、その後も「廃市」「時をかける少女」と新作を観つづけることになるわけです。ハイ、大林ファンの一丁あがり。◆「転校生」の小林聡美を見ると思い出す人がいます。大学時代、私はオーケストラに在籍しており、1年先輩のチェロに、風貌も雰囲気(入れ替わった後の!)も小林聡美に良く似た人がいたのです。もちろん女性。陽気な女性で男女問わず周りから人気がありました。私とも仲良くしてくれて、就職してからもよく一緒に映画を観にいったものです。大学時代の思い出を語れば、その80%に登場するくらいに親しい、友達のような先輩でした。その後、それぞれ別の配偶者を持つこととなり、付き合いも疎遠になっていたのですが……。彼女の訃報が届いたのは昨年の夏のことでした。数年間の闘病生活の末だったと聞きます。◆2004年春の叙勲で大林宣彦監督が紫綬褒章を受章されました。これを記念して当館では特集「大林ワールド・ベストセレクション」を上映いたします。◆この機会に「転校生」を再見して故人を偲ぼうか。破顔一笑する姿しか思い出せない、そういう人でした。

— 関口芳雄


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