まんすりいコラム:2004年

世界の日本映画たち

2004/06/16 — 第94号

14才で男優賞を史上最年少で受賞した柳楽優弥をはじめとして今年のカンヌ映画祭は、アジア映画がたくさん注目を集めました。グランプリを受賞した韓国映画の「オールド・ボーイ」は日本の同名漫画が原作だとか、タランティーノが審査委員長なので「イノセンス」の受賞が有力だとか、上映終了後の拍手が何分間だとか、キムタクがどうとか・・・仕方がないのかもしれませんが、マスコミの取り上げ方を見ると一瞬日本映画を中心に映画祭が動いているような錯覚を覚えます。●「注目を受けた」といってもそもそも日本映画のマーケットは世界的に見るとまだそんなに大きくはなく、当時日米英同時公開と謳っていた『攻殻機動隊』も押井守監督が渡米して見た劇場は、大きなロードショー館ではなく「アートシアターみたいなところで、そう言えば聞こえがいいが実際は文芸坐だ」みたいなことを言ってました。これは旧文芸坐の建物のことを言っているのだと思われますが、元映画青年の監督はそれはそれで嬉しいとも言ってました。●もっとも市場の大きさと映画の質は必ずしも一致するわけでもなく、却ってそれが日本映画を“自由”にしているとの説もあります。日本では映画監督という職業は大儲けもできない代わりに大当たりも期待されてない分だけ、リスクが少なく自由だということです。確かに興行的にはどうかな?という映画にも監督に惚れ込んだ製作者がいて、コンスタントに撮れる状況を作っています。「大当たりを狙わない」ことの善し悪しはいろいろ意見があると思いますが、「作家」的な意味合いで日本映画が世界から注目される一因であることは間違いないようです。

— 梅原浩二


娯楽と芸術、クリント・イーストウッド特集

2004/06/01 — 第93号

◆クリント・イーストウッドは65年に「荒野の用心棒」で初主演を飾り、71年には「恐怖のメロディ」で監督デビューを果たす。以後大きなブランクもなくコンスタントに出演・監督作を発表し続け、90年代以降は1本を除く全ての作品を監督している。◆……と、サラリと書いたが、私がイーストウッドの“作家性”に気付いたのは「スペース カウボーイ」(2000年、遅い!)。ロマンと哀愁がブレンドされた、粋としか言いようのないあのラストシーンに痺れたクチだ。何十回と観た「ダーティー・ハリー」に始まり、常にイーストウッドはスクリーンやブラウン管の中にいた。あまりに身近すぎて作家性や映画技法などは気にしていなかったのだ。◆慌てて近作を見直すと、職人と芸術家を巧みに使い分けるアメリカを代表する映画作家の姿があった。自身のルーツである西部劇の形を借り、飯の種であった“暴力”と向き合ったオスカー作品「許されざる者」(92年)。大ベストセラーの原作イメージを塗り替える完成度の「マディソン郡の橋」(95年)。無駄を省き見せるべきことを見せる、娯楽サスペンスのお手本のような「目撃」(97年)や「トゥルー・クライム」(99年)。改めてどれも見事だ。そしてこの春の賞レースを賑わせた最新作「ミスティック・リバー」(03年)では再び“暴力”と対峙するが、完璧な演技陣を得て、今までにない凄みを帯びた重厚な演出を見せた。◆1930年生まれ。偉大なる映画監督は真摯に歩き続けている。充実の90年代以降の特集は6月12日から。

— 花俟良王


予告編と本編は別物「マスター・アンド・コマンダー」

2004/05/16 — 第92号

■長いこと映画を観ている方なら「予告編に騙された」と思ったことが少なからずあると思います。画的に面白い部分を予告編ですべて見せてしまい、本編よりも予告編のほうが面白かったということがよくあります。また予告編のウリと本編の内容が全然違う場合もあります。ラブ・コメだと思い込んで観たらサスペンス映画だったり、家族の絆を描いたホームドラマかと思ったら犯罪アクション映画だったとか。■「マスター・アンド・コマンダー」も然り。予告編では戦争の悲惨さや戦場に駆り出された可哀想な少年たちを描いた湿っぽいストーリーのように思えますが、本編は全く別物。パトリック・オブライアンの原作を名匠ピーター・ウィアーが映画化した真面目で骨太な海洋アクションです。■1805年、大西洋。仏国の私掠船による海賊行為(もちろん皇帝のお墨付)に悩まされる英国が、自国の艦船を守るべくこの私掠船の拿捕をひとりの軍人に託す。彼こそが、不敗神話を誇る伝説的な名艦長ジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)! 物語はフィクションですが、この年に仏=西連合艦隊を撃破し戦死した英雄ネルソン提督の指揮下にいたことのある歴戦の勇士という設定がイイじゃないですか。■物語はオーブリー率いる英国戦艦と仏国私掠船の一騎打ち、この一点につきますが、登場人物も魅力的でとくにポール・ベタニー演じる軍医が良い! この役者「ビューティフル・マインド」ではラッセル・クロウのルームメイト(!)でしたね。少年士官候補生? 予告編では重要そうでしたが……。

— 関口芳雄


第一回文化庁映画賞(映画功労賞)受賞御礼

2004/05/01 — 第91号

《我が国芸術文化の普及に多大な貢献をされました》として、第一回文化庁映画賞(映画功労賞)を受賞いたしました。推薦文には、『創意と工夫に満ちたプログラムを企画し提供する、いわゆる名画座の支配人として、長年、映画の多様な魅力を観客に伝えてきた。時機を捉えた作品の選択、トークやシンポジウムを伴う上映、会員制度の運営など、常に意欲的な上映を続けた。観客の中から青山真治、黒沢清、周防正行など現在日本映画の第一線で活躍する監督たちが輩出しており、同館は広い意味で《映画の学校》の役割を果たしてきた。また、一度は閉館を余儀なくされた「文芸坐」を「新文芸坐」として再開させ、映画文化の底を支える存在として存続させるなど、斯界におけるその功績は明らかである』と記されています。◆文芸坐の時も新文芸坐の現在も責任者をしている私に授与されたのですが、元より、私個人だけの功績ではありません。功労者は、昭和23年創業の人世坐から文芸坐を経て、平成12年マルハンが経営する現在の新文芸坐まで歴代の従業員全員ですが、真の功労者は、ご来場いただきましたお客様です。お客様のご声援が文化行政に届き、今回の受賞に繋がったものと思っています。お客様に心より厚く御礼申し上げます。

— 永田稔


がんばれ、日本映画

2004/04/16 — 第90号

「気になる日本映画達(アイツラ)2003」は、おかげさまでまずまず順調な入り。初日の黒沢清監督&青山真治督トークショーも盛況で、監督、それにお客様の皆様、ありがとうございました。■今年は早くもヒット作、傑作が数多く登場し、例年以上に賑わっている感じの日本映画界。その中でたまたま見た2作品がなかなか個性的で、次回の「気になる日本映画達」で上映したくなる内容だったので、ちょっとご紹介を。■岩井俊二監督の新作『花とアリス』。話は簡単に言うと、一人の男子学生と二人の女学生の、三角関係の物語。物の輪郭が背景に溶け込むようなビデオっぽい画面や、いかにも装飾的な音楽が耳につく点など、気になるところもある。が、しかし、そんなことはどうでもよい。映画の中の二人の少女の、一挙手一投足に至るまで、全てが愛くるしいことといったら。特に鈴木杏が素晴らしい。バネのある動作に、伸びやかで張りのある、ちょっと低めの中性的な声が、もう、ホント、たまらなく心地よい。■もう一本は『東京原発』。カリスマ都知事が東京に原発を誘致しようとする珍騒動。前半は、『12人の優しい日本人』を思わせるひねりの効いた愉快な会話劇を軸にしながら、日本の原発政策の問題点を浮かび上がらせる手際は上手い。後半、トラック輸送されているプルトニウムが核ジャックされ都庁に向かってくるあたりから、映画の息が荒くなり、最後の着地はちょっと乱れたか。惜しい。■いずれにせよ、いい脚本を丁寧にきっちり演出したということが十分うかがえる2本だ。でも次回の「気になる日本映画達」は来年。随分、先ですな。上半期、下半期で年二回開催というのは、皆様ならびに支配人、どうですかね?

— 矢田庸一郎


ファンよ集え! 新選組オールナイトだぁ!!

2004/04/01 — 第89号

■今年はNHK大河ドラマ「新選組!」の影響で、東京や京都を中心に新選組関連のイベントが目白押しです。というわけで新文芸坐でも5/22(土)「新選組オールナイト」を上映します。当夜は、TVシリーズ「新選組血風録」(1965)で土方歳三役を演じ当り役となった栗塚旭さんが京都から来館、トークショーがあります。新選組は何度も映像化され、幾人もの俳優が土方を演じていますが、往年のファンにとっては「土方歳三といえば栗塚旭さん」というくらいの当り役。大河「新選組!」でも栗塚さんは歳三の兄・土方為次郎を演じていて、栗塚さんへの大河スタッフの想いが伝わってくるキャスティングです。■上映作品はまず「土方歳三・燃えよ剣」。国民作家、司馬遼太郎原作の映画化で、主役はもちろん栗塚さんです。■次は出目昌伸監督の「沖田総司」、主演は草刈正雄。沖田といえばきれいに剃られた月代が青々しているイメージですが、草刈=総司は前髪残しのポニーテールです。この二枚目が労咳(結核)に血を吐きながら人を斬る……。カッコイイです。■最後は日本アカデミー作品賞他に輝く「壬生義士伝」。中井貴一演じる吉村貫一郎(新選組ファンしか知らない無名隊士)と佐藤浩市演じる斎藤一(大幹部で局中屈指の剣客)、ふたりの男のドラマです。それぞれが主演&助演男優賞も受賞した2時間超の力作。「新選組!」の芹沢鴨役の佐藤浩市が斎藤を、山南敬助役の堺雅人が沖田を演じているのも、大河ファンには面白いかもしれません。詳細を待て!

— 関口芳雄


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