まんすりいコラム:2004年

ヨン様が帰られた後に

2004/12/16 — 第106号

11月下旬、“ヨン様”ことペ・ヨンジュンの名前を聞かない日はありませんでした。成田空港始まって以来の壮絶な出迎えを受け、白い歯で爽やかに微笑むヨン様がメディアを席捲しました。◆仕事の合間によく利用するラーメン屋のお姉さん。無駄なくテキパキと動き、お客さんがいなくても調味料や割り箸の補充に余念がない。しかし、その日は違いました。普段は見向きもしない店内のテレビに釘付けとなり、会計するのもはばかれる程に立ち尽くす彼女が見ていたものは、韓国ドラマ『天国の階段』。◆私は春先に『殺人の追憶』で早くも今年一番の興奮を覚え、夏に『箪笥』の美に酔い恐怖に震え、年の瀬に『オールド・ボーイ』の荒技に唸らされました。チャプチェもよく食べました。◆2004年、日本では韓国エンターテイメント熱が沸点に達した感があります(毎年言っている気もしますが)。しかしその反面、私のようにスターや映画監督の名前と顔が、まだハリウッドのように一致しない、という人も多いのではないでしょうか。映画に限って言えば、『風の丘を越えて』が日本における韓国映画の受け皿を築いてから約10年、『シュリ』によってその裾野が拡げられてから約5年(!)しか経っていません。2005年初めての特集〈“韓流”シネマコレクション〉のラインナップをご覧ください。『殺人の追憶』を始め、自国の歴史と対峙しつつ娯楽へと昇華させた『ペパーミント・キャンディー』『JSA』『シルミド』『ラブストーリー』も、鮮烈な作家性で世界を驚かせた『魚と寝る女』『悪い男』も、そしてポップな『猟奇的な彼女』『ほえる犬は噛まない』までも、全てここ数年の出来事なのです。今回の特集では、多くのプログラムを監督・役者・ジャンルなどで関連付けました。この機会に、“韓流”ブームの源でもある現代韓国映画の輪郭に触れてみてはいかがでしょうか。◆なお、現在ヨン様唯一の映画主演作となる『スキャンダル』は、12/25(土)〜27(月)に一足早く上映します(併映は『4人の食卓』)。奥様、ご注意を!

— 花俟良王


制約があったほうが、いいものができる?

2004/12/01 — 第105号

「ドグマ95」なる10ヶ条の信条を基に映画を作る一派を、ご存知ですか? その信条は、かなりドグマチック(←独断的の意。by広辞苑)な内容で、一体これで面白い映画が撮れるのか!? と首を傾げたくなる。●以下がその主な内容。(1)撮影はロケーション。小道具などの持ち込みは不可。(2)背景にある音以外の音楽の使用は不可。(3)カメラは手持ち。(4)フィルターの使用などは不可。(5)殺人や爆破など故意的なアクションは不可。(6)時間的、地理的な乖離は不可。(7)ジャンル映画は不可、などなど。●「ドグマ95」公式ホームページによると、ドグマ映画は世界で今や35本に及ぶようだが、最近までわたしは1本も見ていなかった。が、この間ついにドグマ初体験をしてしまった。『幸せになるためのイタリア語講座』である。●デンマーク、コペンハーゲンのイタリア語講座に集まった6人の男女。仕事や恋愛、家族関係などに問題を抱え、うつむき加減に生きてきた彼ら。でも人々との出会いの中から、少しずつ勇気を取り戻し、そして恋をつかんでいく……。●なんて素敵な話でしょう! ドグマ映画とは思えない。本当に心温まる映画に仕上がっているのだ。例えば映画評論家・川口敦子さんは、この映画を評して「ウェルメイドなロマンティック・コメディ?」と書いているくらいだ。●一方で、センチメンタルに流されないところも、この映画の見所である。淡々としていながら、人物を温かい視線で見守っていくような描き方は、間違いなく「ドグマ95」の制約によって生まれたものだ。つまりここで、いいジャンル映画を撮りたいのなら「ドグマ95」を信奉すべし、という逆説が成立してくるように思えてくる。

— 矢田庸一郎


「スーパーマン」俳優の代表作

2004/11/16 — 第104号

図らずも、この2日間で観た3本の映画はすべて劇作家が主人公でした。■まずは三谷幸喜の舞台劇を映画化したコメディ「笑の大学」。三谷さんといえば自身もいうように“群像劇”が得意なのですが、「笑の大学」は劇作家と検閲官、たった2人の室内劇。大雑把にいえば「12人の優しい日本人」を1/6に煎じ詰めたような作品です。あ、大雑把過ぎましたか。で、これがかなり面白い。笑って泣けて大満足でした。昭和15年という時代設定が影を落とす、切ないラストがまたよいのです。■次にスリラー「デストラップ・死の罠」。以前にスクリーンで観たものをビデオで見直したのですが、名匠シドニー・ルメットの演出のもと、マイケル・ケインとクリストファー・リーヴが火花散る演技対決をみせています。とくに若き劇作家を演じたC・リーヴの演技は、感情の昂りと同時に血圧の上昇までが伝わってくるようで、うまい俳優だったんだなと……、彼の演技がもう見られないことが本当に残念です。■最後は、これまたC・リーヴ主演、劇作家と舞台女優の時を超えたSF悲恋物語「ある日どこかで」。これもビデオで再見。タイムスリップものの白眉といわれるこの映画をC・リーヴの代表作とこの私が断言しておきましょう! 私、旧文芸坐で2度観て2度泣きましたが、20年後に観るこの映画のラストシーン、ストップモーションで微笑む彼の端正な微笑みに、過去2回とは違う意味の涙を禁じえないのです。クリストファー・リーヴ、2004年10月10日心臓発作にて死去。享年52歳。

— 関口芳雄


1,500円興行と友の会入会のお勧め

2004/11/01 — 第103号

映画館に行かなくても、映画を観ることができることは今や常識です。地上波、衛星放送、DVD、ビデオなどをTVの画面から観ることができるばかりでなく、IT通信によるPCの液晶画面からも観ることができる時代です。映画館としては、営業上好ましい状況ではありませんが、時代の流れを容認せざるを得ません。◆映画を観る方法は多様化していますが、新文芸坐としては、映画は映画館で観るために作られ、映画館で観ることがホンモノであると思っておりますので、《感動はスクリーンから》をモットーにしています。◆RS終了後の新作二本立ての番組から、旧作を特集する番組まで幅広く選択して、創意と工夫を凝らした番組を提供し、映画の持つ魅力、良さを伝えるよう心掛けています。10/30からの『魅惑のシネマクラシックス Vol. 5』もそのひとつです。今回は、近年リバイバルロードショー公開された旧作映画を主体にして特集番組を編成しました。配給会社から、この時期に上映する条件として一般入場料金を1,500円にするように要請されてしまいましたので、友の会会員、シニア料金以外は値上げさせていただきました。ご理解下さい。◆新文芸坐では、数多くの映画を低料金でご覧いただけるように、友の会制度を設けています。会員は通常番組を何時でも1,000円で観ることができます。毎日が映画の日、映画ファン感謝デー、レディスデー料金で観られ、入場する度にポイントが加算され、招待券が獲得できるお得な制度になっています。また、1年間DMでスケジュールをお知らせいたします。この機会にご入会下さいますようお勧めいたします。

— 永田稔


吐夢の言葉

2004/10/16 — 第102号

1960年(昭和35年)—当時の私は東映企画本部脚本課に在籍していたが、これから管理職の道を歩むか、あるいはシナリオライターとして独立するか、人生の半ばで一つの岐路に立たされていた。

巨匠・内田吐夢監督から『宮本武蔵』全5部作のシナリオライターとして指名されたのは、ちょうどそんな迷いの時期である。全くの新人である私の抜擢を周囲は無謀とも受け取ったが、吐夢の意志はあくまで堅かった。「『宮本武蔵』は人間成長の物語です。1年1作、5年かけて創りあげてゆく中で君たち自身も成長していってほしい」クランクインの日、吐夢からスタッフに下された宣言は、私自身に対する励ましとも脅しともとれる、重い言葉だった。

それからの5年間、私は吐夢という巨大な怪物と闘い、ボロ屑のように打ちのめされながらも『宮本武蔵5部作』を、『飢餓海峽』を書いた。吐夢の盟友である田坂具隆監督と『ちいさこべ』『五番町夕霧楼』『鮫』『冷飯とおさんとちゃん』『湖の琴』。社会派の巨匠・今井正監督と『武士道残酷物語』。同年代の篠田正浩、加藤泰監督とは『あかね雲』『遊侠一匹』……。他の監督と組む時、吐夢は「ちょっと武者修行して来いよ」といつも笑ったが、そこには息子を送り出す父のような厳しさと慈愛があふれていた。今回、新文芸坐で特集される私の作品群を眺めて、天国の吐夢は果たしてどう呟くことだろう。

— 鈴木尚之


『茶の味』

2004/10/01 — 第101号

読後感という言葉がありますね。ところで映画を見終わった直後の、読後感に対応するような言葉って、ないのだろうか。●『鮫肌男と桃尻女』、『PARTY7』に続く石井克人監督、4年ぶりの新作『茶の味』の、読後感はというと、ふかふかのソファーに座ったまま宙を漂うような感じ。要するに、すこぶる気持ちよいのである。●映画というのは、ものを実際以上に美しく見せるもの。この映画は、主に栃木県の茂木(もてぎ)という所でロケをしたというが、多分、実際に行ってみたら、なんでもない田舎の風景に違うまい(茂木の皆様すみません)。しかし映画になってみると、田園が、川原が、ごく普通の橋まで、なんとも懐かしいような心地よさ。田舎の新鮮な風が胸の中を吹き抜けるようではないか。●主人公の一家、春野家の長男、一(はじめ)は、恋の幸福な予感に包まれ、自転車を止めるのを忘れてこぎまくる。小学生の妹は、時には一軒家ほどの大きさもある、巨大な自分の分身を消すために、鉄棒の逆上がりを一人でこっそり練習している(←映画を見れば君も納得)。それぞれの人物が、ほほえましい愛嬌の持ち主。見ていて自然と頬が緩む。●春野家の庭に面した縁側は、いつも開け放たれていて、庭から居間をわたり、その向こうの台所まで、丸見え。まるでこの縁側から、映画の開放感、おおらかさが、画面いっぱいに溢れ出しているような印象を受けた。●劇中で歌われる、楽しいコミックソング(?)も見どころ、聞きどころのひとつ。「なんで、アナタは三角定規なの?」というのが、わたしは好き。とってもカワイイよ。

— 矢田庸一郎


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