まんすりいコラム:2005年

『戦後60年企画』

2005/06/16 — 第118号

今年は戦後60年“還暦”の節目の年に当たります。映画は、映画館に行かなければ観ることのできなかった戦後しばらくの間“娯楽の王様”と称せられ、最盛期には年間10億人を超える人々が映画館に足を運びました。時が移り、映画館に行かなくても様々な方法で映画を観ることのできる今、映画鑑賞者は数十億人に達していると思われます。娯楽が多様化する現在でも、映画が身近な娯楽であることは昔と変わりなく、むしろ、日常生活に不可欠な存在になっていると思います。◆新文芸坐では、戦後の時代を反映した映画、次世代へ語り繋いでいきたい映画などを選んで、『戦後60年企画』として特集上映を考えました。第一弾は、既に『世界の巨匠 黒澤明監督』を特集上映しました。第二弾は、6/18より2週間『美空ひばり映画祭』を特集上映いたします。◆“歌謡界の女王”“歌姫”として17回忌を迎える今でも、歌声が流れ、容姿が見られます。一方、映画には子役時代から165本出演しています。日本映画史の中でも記憶に止めておく映画スターの一人でしょう。◆特筆すべきは、競演の男優陣が豪華多彩なことです。嵐寛寿郎、長谷川一夫、片岡千恵蔵の御大から、エノケン、アチャコの喜劇人、当時の若手花形スターの高倉健、石浜朗、佐田啓二、大川橋蔵、市川雷蔵、中村錦之助、東千代之介、里見浩太郎…等々です。超売れっ子であったために、各映画会社から請われて出演しているからです。◆7月に第三弾として、今年生誕100年になる『成瀬巳喜男監督』特集を、8月には第四弾として、終戦の日に因んだ毎年恒例の特集上映を予定しています。ご期待ください。

— 永田稔


『タイガー&ドラゴン』に何かを感じた方へ

2005/06/01 — 第117号

4月から放送が始まった“ヤクザが落語家を目指す”という奇抜な設定のドラマ、『タイガー&ドラゴン』にハマッております。脚本は今をときめく人気脚本家(兼監督)、クドカンこと宮藤官九郎。主演はジャニーズの人気者、長瀬智也と岡田准一……とくれば、完全な若者向け。しかしこのドラマ、各話タイトルに「芝浜」「饅頭怖い」「権助提灯」など古典落語の題目を拝借し、無知な主人公が噺を教わるという形でその古典の内容が丁寧に描かれるのです。即ちテレビを見ている若者が、毎週楽しんで古典落語の知識を得られる仕組みになっているのです。この敷居の低い文化の継承行為、素晴らしいではありませんか。◆すぐに影響されるのが私の長所。落語に関しては全くの素人ですが、こう見えても江戸っ子の端くれ。長瀬智也が西田敏行扮する師匠(絶品!)に吐いた「俺も粋でゲスとか、乙でゲスとか言われてえんだよ」という名台詞に感銘さえ受け、今ふつふつと落語熱が高まっています。◆そして当館では怖いくらい絶好のタイミングで、立川志らくさんの〈シネマ落語〉が今月(6/6)から隔月間で催されます。皆さんもご存知の名作が落語に変身するというのだから映画好きにはたまりません。第一夜は『ローマの休日』、第二夜は『ダイ・ハード』(!)。……ものすごく楽しみです。

— 花俟良王


岡本喜八監督作品の追悼上映と「シネマ落語」の開催

2005/05/16 — 第116号

“活動屋”“アルチザン”と畏敬の念をもって呼称され、慕われた岡本喜八監督が、2月19日食道がんのため、亡くなりました。幅広いジャンルの映画を撮り、リズミカルな躍動感溢れるエンタテインメントに徹した映像で、映画ファンを魅了しました。◆文芸坐時代の84年9月に、監督自身が28本を選び特集上映したとき、監督は毎日川崎から舞台挨拶に通ってくださいました。新文芸坐なってからも、40作目が完成した暁には、全作品を上映する予定にしていました。その矢先、40作目の準備中にあの世に旅立って行きました。◆急遽、5/21から3週間にわたり、劇中使用映像の著作権問題で上映できない『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』を除く38本を上映いたします。全作品を上映できないのは残念ですが、映画館で上映することで、多くの観客によって岡本作品が次世代へ受け継がれていくことが、岡本監督への供養になり、監督も喜んでくださると思っています。ご遺族、喜八プロダクション、大勢の映画関係者のご協力により、百箇日前にも拘らず、追悼上映をすることになりました。◆6月から隔月で、立川志らくの《シネマ落語》を開催します。志らくは、立川談志の弟子で真打の落語家です。映画好きが高じて、映画を撮ったり、「キネマ旬報」にエッセイを掲載中ですし、洋画を、江戸を舞台にした落語=シネマ落語にしてしまいました。初回は『ローマの休日』です。映画を観ている人は、その変換の妙にうなずきながら笑えるし、観ていない人は、新作落語として楽しめます。“感動はスクリーンから”ばかりでなく、ライブの“生”の魅力も新文芸坐でお楽しみください。

— 永田稔


人間の長生きには意味がある

2005/05/01 — 第115号

昆虫の場合。カマキリのオスは交尾のあとメスに喰われてしまいます。これは産卵前のメスの栄養になるのが最良の生き方(=死に方)だからで、交尾後のオスに余生はないのです。◆魚類の場合。ある種の熱帯魚は、卵をオスがその口の中に入れて外敵から守るという。卵がふ化するまではオスも死ねません。◆これが鳥類となると親は雛が独り立ちするまで子の面倒を看るようになり、哺乳類ともなるとさらに親の仕事は増えてきます。こうして見ると、動物は一般的に進化するほど次世代誕生後の寿命が長くなっていることがわかります。そして、長生きするにはそれなりの意味があるわけです。◆さて人間はどうでしょう? 人の一生は子どもが独立する歳になってから後の方が長いですね。これにも意味があるのです。人間は知力・体力が衰えても、子孫に“知識や体験を伝える”ことができるんです。これが人間の寿命が長い理由です。だから人生の先輩を軽んじるということは、知識や体験、大袈裟に言えば人類の遺産を軽んじることです。◆さらに人間の中でも、ある種の偉大な人たちは死んでなおこの世に何かを残し、後世の人々を愉しませています。この国では、広く国民から親しまれた分野で特筆すべき業績をあげた人には国民栄誉賞というものが与えられ、映画の分野では、美空ひばり、渥美清、黒澤明が受賞しています。これら偉大な人々は、亡くなった後も、その業績によって生きているのだと言えないこともありません。◆渥美清、美空ひばりとそれぞれ同年に亡くなった“神様”手塚治虫と“国民作家”司馬遼太郎。両氏のファンの私としては、国民栄誉賞と聞くと内心穏やかではいられないということを最後に記しておきます。

— 関口芳雄


これはこれでいいと思う

2005/04/16 — 第114号

見てきましたよ『アナコンダ2』(笑)。●振り返ってみると1997年の1作目は、なかなかの豪華キャスト。エリック・ストルツ、ジェニファー・ロペス、アイス・キューブにオーウェン・ウィルソン。さらに、仲間を縛り上げ巨大アナコンダ(全長14メートルらしい!?)の餌にしようとする、あぶない蛇ハンターにジョン・ヴォイト!●しかし一番の見所は、アニマトロニクスとCGIが融合した驚異の映像。巨大アナコンダが、10メートルぐらい、目にも止まらぬ速さですっ飛んで来て、人間をがぶり、そのまま丸のみ……。怖かった。●さて新作『アナコンダ2』の方はといえば、はっきり言って、ほとんど全ての面で前作を越えていない。キャストは知らない人ばかりだし、話の骨子はほとんど前といっしょ。この新作のウリは、巨大アナコンダがいっぱい出てくるだけではないか(原題は『ANACONDAS』)。●このいかにもありがちな方法で、キャストと物語の薄さが補われたかというと、多分、チープな印象を強めただけではないかという、残念な結果に終わっている。●でも映画って、その出自からして、見世物という一面もあるのでは。だから1作目のネームバリューにあやかり、アナコンダの数を増やしただけでもう一度売り出す商売気も、ある意味、映画的ともいえるのではないか。まあでも、こうしてみると、『ALIENS』がいかに素晴らしかったかと、思わずにはいられませんね。●奇想天外な(!?)生き物が大暴れする“2”映画オールナイトを考えました。『アナコンダ2』『スターシップ・トゥルーパーズ2』『ミミック2』『ジーパーズ・クリーパーズ2』の4本立て。どう?

— 矢田庸一郎


『カンフーハッスル』→『ああ爆弾』

2005/04/01 — 第113号

『カンフーハッスル』はご覧になりましたか? 面白いですね。笑いましたね。今回チャウ・シンチーと共に市井の人々が大活躍しますが、私が最も気に入ったのは“半ケツ青年”でも“オカマ達人”でもなくギャング団。何故かと言うと、冒頭の“ダンス”がイカシていたからです。◆どのくらい前のことか、多分高校生の頃。洋画ばかり見て、根拠もなく「邦画はダサい」と決めつけていた頃です。入り浸っていたビデオ屋で、風変わりな題名というだけで手にした岡本喜八監督の『ああ爆弾』。いきなりの歌舞伎調のオープニングに何だこれは、と思っていたら一転、モダンな雰囲気の中でクセのある人物たちが右往左往、その軽快なテンポに身を乗り出したことを覚えています。そして運命のシーン。ヤクザの親分を迎えるために整列する子分たち……。こう読むと普通ですが、画面の中の子分たちは音楽に合わせて“ステップ”を踏んでいたのです。ミュージカルでもないのに踊っている! しかもヤクザが! 決して長くはないそのシーンに、私は雷に打たれたように感動しました。「観客が楽しめれば、映画は自由」、映画を観る際の私の大原則は岡本監督がこの時教えてくれたのです。と同時に他の岡本作品はもちろん、分け隔てなく“映画”を観出すきっかけともなりました。◆『カンフーハッスル』の踊るギャング団を観ながら当時を思い出したその一ヵ月後、岡本監督は亡くなりました。そして私は今、新旧・洋邦問わない名画座で働いています。5/21からの〈岡本喜八追悼特集〉の詳細は後程お伝えするとして、今は監督に「ありがとうございました」とだけ言わせていただきます。

— 花俟良王


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