まんすりいコラム:2007年

突き抜けろ! トニー・スコット

2007/06/16 — 第166号

最近トニー・スコットが気になっている。芸術家的な評価を受ける兄・リドリーに対し、『トップガン』を皮切りに“これぞハリウッド!”テイストのド迫力な娯楽作を連発しているあの監督だ。個人的に“これぞハリウッド!”な映画とは、潤沢な予算と火薬を堪能して豪快に楽しんだ後はスカッと何も憶えていない、といったパターンなのだが、最近のトニー作品にはこれが当てはまらない。鑑賞後、忘れられない何かしらの感動を与えてくれるのだ。◆98年の『エネミー・オブ・アメリカ』ではリアルな国家的監視システムの中での徹底した“追いかけっこ”で活劇の真髄を知り、04年の『マイ・ボディガード』では平成の『わらの犬』とでも言わんばかりのデンゼル・ワシントンの大暴走に手を叩いた。そして05年の『ドミノ』では、トレードマークでもあったスタイリッシュな(チャカチャカして落ち着かない、という人もいる)画像処理を批判覚悟で徹底的に追求し、目が回る孤高の作品とした。そう、近年のトニー作品は見た目も中身もハリウッド的大作なのだが、どこかが清々しいほどに突き抜けていてスカッと忘れることなどできない。そこに私は感動する。◆そして最新作『デジャヴ』。今回はストーリーが既に突き抜けている。フェリー爆破事件が起こりデンゼル・ワシントン扮する捜査官が捜査を始めるが……これ以上書くともうネタバレ、というとんでもない事態。予告編からは想像つかないスリルとアイデアに満ちた怒涛の展開をトニー節で一気に見せる。職人と作家の絶妙なバランスが織り成す“ハリウッド的”作品の底力、そしてこの突き抜け具合。是非大画面で堪能していただきたい。6/30(土)から。

— 花俟良王


新自由人団塊世代(R60)に映画鑑賞の勧め

2007/06/01 — 第165号

昨年末の新文芸坐6周年記念番組にゲスト出演した俳優・山城新伍さんには、当時再起不能の重病説が流れていた。そんな噂を払拭するように和田誠さんと熱く映画談義に花を咲かせて、観客を楽しませてくれたことは記憶に新しい。その山城さんの“元気のひみつ”は、映画を観ることだという。今でもDVD、テレビで観るのを含めると月に30本ほど観ていると、紙面で語っていた。■今年から団塊世代が定年を迎える。団塊世代は高度経済成長時代の日本経済を支えてきた企業戦士たちで、限られた企業内、業界内だけの狭い社会で生きてきた。そんな団塊世代の人々が、企業社会から解放されて、肩書き人間から個人に変換され、今まで経験することのなかった空白で自由な時間が持てる自由人になる。■この団塊世代の人々は、“仕事”即“人生”であり、“家庭の幸福”と思ってきた。そして今、膨大な自由時間を得たが、その時間の活用方法に戸惑っているようで、定年後の世代を対象にした「R60」などの雑誌の新発刊により、様々な時間の過ごし方の情報が出始めたが、山城さんのように映画を観ることをお勧めする。■映画は身近にある最も高級な文化、芸術であり、元々、団塊世代は映画を娯楽として青少年時代を過ごしてきたわけで、還暦を機会に昔に戻って映画館に足を運んで欲しいと思う。新文芸坐もシニア料金は1000円で、かつ2本立ての上映なので、超割安で約4時間は十分に楽しめる。■冷暖房の完備した映画館の漆黒の暗闇の中で、ゆったりとした気分で“感動はスクリーンから”を再び体験して欲しい。そして、シニアが夫々の分野で培ってきた知識と知恵と経験からの意見を、近年アニメ、ヤング向けの作品が多くなっている映画界に発信して欲しいと思う。

— 永田稔


映画館の中の小さな本屋さん(2)

2007/05/16 — 第164号

『みうらじゅんの映画批評大全』が入荷しましたので早速買いました。取り上げている映画は『片腕ドラゴン』『ジェイソンX』『花と蛇』といったカップルが見に来ない映画ばっかし。しかも、ほとんどエロネタ、童貞ネタのオンパレード(でも笑えます)。『シークレット・ウィンドウ』という珍しくカップルが来る映画を取り上げていると思いきや、“ジョニー・デッパ”というくだらないオチでした。“そこがいいんじゃない!”(←みうらじゅんの決り文句)。●中には“京都のホテルのAV”や“中野の都こんぶ”(←旧文芸坐でも売っていた)といった項目も交じっていて、一体どこが映画批評大全なのか全然分かりませんが“そこがいいんじゃない!”。●でも時折忍ばせてくる、まるで中野の都こんぶのような安っぽく湿っぽい味わいが絶妙の配合となっていて、読み始めたら止められなくなりました。例えば美大時代、『スター・ウォーズ』に感動し、黒いビニール袋と着古しの柔道着でダース・ベイダーとルークの物マネをしていたら、美大の女の子に「子供だましの映画」と言われ怒った話(下ネタ&セクハラ表現で怒りを表現しています)。『ゾンビ』が公開された頃、みうらじゅんは美大を2度落ちた浪人生。高円寺の商店街をゾロゾロ徘徊し古本屋と中古盤屋を隅から隅までチェックする高円寺ゾンビと化していた話。でも「道行く人に飛びかかり、人肉を喰らう勇気」はなかったそうです。●「面白いに決まってる場合がある。特に映画の場合は。(中略)それは『REX 恐竜物語』だったり、『シベリア超特急』だったりする」。というわけで、でもないですが、その『REX 恐竜物語』は当館の6/9(土)のオールナイトで上映があります。

— 矢田庸一郎


元クレージーキャッツの植木等逝く

2007/05/01 — 第163号

3月27日の夜遅く、高校時代の友人からの携帯電話のメールで、元クレージーキャッツの植木等が亡くなったことを知った。つい1週間程前に試写で観た、宮藤官九郎脚本、水田伸生監督の「舞妓Haaaan!!!」(6月公開)という映画の中で、祇園遊びを知り尽くしている老舗の隠居という役で出演していた。往来で主人公と出会い言葉を交わすという僅か1シーンであるが、粋で颯爽としていて、役柄の雰囲気を十分に醸し出し、流石と感動したばっかりだったので驚いた。■半世紀前の高校生だった頃、クレージーが出演している月曜〜金曜日昼の12時50分から10分間のフジTVの生番組「おとなの漫画」を見るため、昼休みに校則を破って校外に脱出して、テレビが見られるラーメン屋、蕎麦屋、甘味処に行く程夢中になった。■4月1日日曜日、その時の仲間の一人からの呼び掛けで、8人が集まり郊外の満開の桜の下で想い出話に花を咲かせた。クレージーのメンバーの中で、ハナ肇派、谷啓派、植木等派と三派に分かれていたが、カッコ良く、ルックスも良く、都会的センスがあり、声が良く、歌が上手い植木等がお気に入りだった。■ラジオから流れる落語、浪曲、歌謡曲、ドラマなどで育った世代にとって、テレビから映像と共に流れる軽やかなジャズのリズムと、スピーディなコントのギャグとを一緒にしたクレージーの笑いは、今までに無く革新的で、衝撃的であった。■「お呼びでない?」のギャグや大ヒット曲「スーダラ節」映画「無責任シリーズ」「日本一シリーズ」で60年代に笑いを振りまいた植木等の死は、昭和を代表する喜劇役者を失ったばかりでなく、昭和の時代を一気に遠ざけた。植木等出演の映画を7月に追悼上映する予定である。乞う!ご期待!

— 永田稔


新聞記事から思ったこと

2007/04/16 — 第162号

3月16日の朝日新聞夕刊に、クラシック演奏会における客同士のトラブルが急増しているという記事が載っていた。人気漫画『のだめカンタービレ』の影響で若者が押し寄せて常連客とトラブルになっているものと思ったが、事実その通りの模様。しかし記事の論点は少々角度が違い「最近の特徴はごく普通にみえるクラシック好きの常連客が、周囲の音や行動に過敏に反応し、突如キレる客に変貌する点」と書いてあった。◆そのことについて楽団側は、従来のファンが気付かないうちに自分の聞き方を他者に強要しているのかも、と語り、精神科医は、最近はヘッドフォンなどで“公”の空間で“私”を知覚でき、公共空間における五感が妙に潔癖になり自分の空間を侵されることへの不安が強くなっている、と分析していた。当然映画館も他人事ではない。◆不特定多数の人々が様々な価値観を持って集うのだから、一人の理想の環境が100%達成されれば他の人には少なからずストレスが生じてしまう。「少しの雑音にも邪魔されたくない」「このくらいの音はしょうがないだろ」どちらの主張も理解できる。どこに線を引き、どうすればより多くの人に快適に映画を楽しんでもらえるか日々模索している。◆上の記事によると、関西では“キレる”お客さんは少ないらしい。「やめえや」と人々が注意し合い、注意された方も不快感を引かないらしい。妙に納得できるが、かつては東京にもそれに似た義理と人情の風情があったはずである。◆そんなことを思った矢先に植木等さんが亡くなった。追悼番組で豪快に笑う植木さんを見ながら、またひとつの時代が終わっていくことを痛感した。

— 花俟良王


小型映画

2007/04/01 — 第161号

小型映画というのをご存知でしょうか? この言葉は現在ほとんど死語に近いですが、主にアマチュアが8ミリや16ミリなどのフィルムを使って作る映画のことを指します。●現在主流の映画フィルムは35ミリ幅ですが、この規格はコダック社の70ミリ幅のフィルムをエジソンが半分にしたのが始まりといわれています。35ミリのカメラや映写機は大変大きく且つ重く、フィルムの消費量も馬鹿にならないことから一般に使えるよう小型の規格が考えられました。20年代に16ミリをコダック社が発売しましたが、アマチュアが使うにはフィルム代が高価で、小型映画全般の歴史としては業務用途が主だったようです。日本では80年代位までドキュメンタリー映画やテレビドラマ、アニメの撮影によく使われていました。16ミリには35ミリにブローアップすることが前提のビスタサイズのスーパー16という規格もありました。これはコストの問題で35ミリが回せない90年代の低予算映画に良く使われていましたが、現在この種の映画はデジタル撮影に取って代わられています。60年代にはスーパー8やシングル8などダブル8より取扱いが簡便な8ミリが登場し一般家庭にまで普及しました。また80年代までの学生映画は8ミリがメインでした。この他に28、22、17.5、9.5ミリなどもありました。●ピーク時の年間1200万本から現在1万本まで販売量が落ち込んでいることから、富士フィルムは昨年8ミリの生産中止を発表していましたが、今年になって数年継続することに変更したそうです。(個人的にはまだ1万本も売れていることに驚きましたが企業としては厳しい数字なのでしょう。)このご時世にこのような英断をするのは大変なことだと思いますが、映画=フィルムにとっては明るいニュースですね。

— 梅原浩二


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