まんすりいコラム:2008年

「スクリーンで観ておきたい! 珠玉の名編」(6/28〜)に注目

2008/06/16 — 第190号

名前だけを聞いても気付かれない方が多いと思いますが、旧文芸坐時代から続いている意外に歴史のある特集があります。前年の日本映画の秀作を振り返る特集「気になる日本映画達」、社会派映画を通して日本の社会や歴史を考える「社会を告発する!!」、そして今度お送りする「珠玉の名編」も、実はそういった歴史のある特集の一つなのです。●この特集の第1回目は1990年。上映作品というと、まだJ・ロバーツが初々しかった『マグノリアの花たち』や、パンク・ムービーの旗手A・コックス監督の、J・ストラマーやJ・ジャームッシュまで出てた『ストレート・トゥ・ヘル』など。懐かしぃ〜。●今回の「珠玉の名編」も、伝説の歌手の生涯を綴った『エディット・ピアフ』や、天才ピアニストと老教師の魂の交流を描く『4分間のピアニスト』など、映画ファンなら見逃せない感動作がズラリ。●ここで私がこっそりおススメしたい映画は『ONCE ダブリンの街角で』『俺たちフィギュアスケーター』。『ダブリン〜』は路上ミュージシャンと移民の娘の触れ合いを描くアイルランド映画。1時間27分と今どき珍しい短い作品ですが、全編さり気なくほろ苦くキュート! 彼らがCDを制作する音楽シーンは凄くパワフルで感動的。CGばかりの大作に食傷気味の貴方、必見ですよ。『俺たち〜』は男同士のフィギュアペアの、馬鹿馬鹿しくて暑っ苦しくて何も考えないで笑わせてくれるコメディ。こんな馬鹿映画を精魂込めて作り上げたスタッフ・キャストの美しい映画魂を思い、私は思わずエンドロールで泣きました! ビデオストレートになりかけたこの作品を映画会社GAGAの有志が体を張って劇場公開に漕ぎ着け、またその熱意に答えるように劇場では満席が続いたという曰くつきの作品。まさにスクリーンで観ておきたい一作です。

— 矢田庸一郎


デビュー60年目を迎えて

2008/06/01 — 第189号

このたびは、私が出演させて頂いた映画のなかから沢山の作品を上映して頂けることになり、この機会を与えて下さった「新文芸坐」の皆様に心から感謝致しております。

子供の頃には夢にも思わなかった“女優”の道を歩んで、もう半世紀以上も過ぎたとは、とても信じられません。これも、ひとえに不器用な私を支え、励まして下さった数え切れないほど多くの方々のお力添えを頂いたお陰でございました。

この長い道のりを振り返れば、何度か仕事に自信を失って悩んだこともありました。でも、そんな時「優れた作品に触れて、その感動を表現できるようになれたら」と夢見ていた頃を思い出し、未熟な自分にムチ打つ思いで、歩いてきたのでした。

私にとって何より幸運だったのは、仕事を通じて実に多くの優れた先輩たちに出会えて仕事だけでなく、人間として生きてゆく上で、貴重な導きを頂くことができたことです。そして、私を励まし、支えて下さったファンの皆様方。ほんとうに数え切れないほど多くの素晴らしい方々に心から感謝を申し上げずにはいられません。

このたび、お忙しいなかをわざわざお越し下さった皆様に心からお礼を申し上げます。私も、久しぶりに昔の自分に再会できることを、皆様とともに楽しませて頂きたいと願っております。

— 香川京子


フィルム雑感2008年5月

2008/05/16 — 第188号

最近フィルムカメラ市場の終焉についてのニュースを見ました。業界団体によると、生産台数の統計が一定の数値を下回ると発表しないそうで、ついに発表できない数にまで減ってしまったとのことです。かつて35ミリ一眼レフカメラの市場を日本メーカーが独占していたことを思うと寂しい限りです。各メーカーがデジタルカメラでも市場を独占するため、競争した結果なので仕方がないのかもしれませんが、この間いくつものブランドが消えてしまいました。また医療費削減のためにデジタル画像のレントゲン機器を国が推奨しているそうで、医療現場でもフィルムの需要が減っていきそうです。(世界中の病院で日常的に使われるので結構市場が大きかったようです。)●フィルムメーカーもフィルム事業の縮小に関係なく、以前から経営を多角化していてフィルム生産のみに頼っていたわけではないのですが、今後さらに縮小が加速するので設備や価格の維持が大変になってくるでしょう。しかし既に極端に需要が少なく、設備の老朽化で「大変」になっているシングル8(8ミリフィルム)の生産延長を英断したフジフィルムには、今後ともコダックの向こうを張って頑張って戴きたいです。(コダックのスーパー8もまだありますので。)●さて例年ピンク大賞の監督賞の副賞には撮影用のフィルムが贈られます。通常厳しい予算で作られるピンク映画は予め撮影できるフィルムの尺数もかなり制限されています。そこで「このフィルムをお使い下さい」という粋な計らいのなのですが、これでお分かりの通り一般映画の撮影ではデジタル化が進んできた昨今ですが、ピンク映画では今も当然の如く35ミリフィルムが健在なのです。

— 梅原浩二


「気になる日本映画達2007」を振り返って

2008/05/01 — 第187号

旧文芸坐時代から続く毎年春の恒例企画「気になる日本映画達(アイツラ)」が無事終了しました。例によってほぼ日替わりというタイトなスケジュールで、生活リズムを滅茶苦茶にされながらも何度も足を運んでいただいたお客様、本当にありがとうございました。◆この特集、私たち裏方としては往年の白黒作品を上映する時と違い、コマがずれていたりフィルムが切れるという心配はかなり減って助かるのですが、ポスターやパンフレットなどの宣伝材料・販売物があったり(数年以上経った旧作のものはまずありません)、ドルビーのデジタル音声のチェックをしたり、最近作ならではの作業もまたありました。◆そしてロビーにいるとお客様の反応も旧作特集とは少々違うことに気付きます。「○○監督特集」や「○○傑作選」といったある程度評価の固まっている旧作特集でよく頂く声としては「やっぱりいい映画だね」といった"やっぱり"的な称賛が多いのに対し、この特集では「こんなに面白いとは思わなかった! 凄いねコレ」という臨場感溢れるまるで何かを発見したかのような感想を多く頂きました。逆に「最低の2本立てね!」という旧作特集ではあまり聞かない感想も頂いているのですが……。◆いずれにせよ昨年の邦画界を賑わせた作品です。往年の名作ではなく現在進行形の日本映画の姿です。褒めるも叱るも観て頂かなければ始まりません。その感想こそが更なる発展の糧となるのではないでしょうか。また来年もお付き合いください。

— 花俟良王


節目の4月&新文芸坐の人事異動

2008/04/16 — 第186号

日本の社会において、年度初めの4月は一年の内で最も節目にあたる月に当ります。新入学一年生、新入社員の人たちは、希望に心躍らせる門出の時になりますが、その新入生を迎える先輩たちにしても心構えを新たにする時でもありますので、4月は希望に満ちた明るい月と言えます。■しかし、今年は4月からの制度の見直しによる保険料の負担増や穀物相場の急騰により牛乳、醤油、ビール、パン、麺類などの食料品やガス、電気料金など生活必需品の値上げラッシュが始まり国民生活を直撃して、暗い話題の節目の4月となりました。■東洋の小さな島国日本ですが、否応なしに世界自由主義経済の荒波に巻き込まれています。役所、企業にとっても新年度のスタートの4月ですが、お役人は利権、既得権の死守よりも、企業人は会社利益第一主義よりも、国民の利益を優先した施策を、この時期だからこそ考えて欲しい。■民意によって出現した“ねじれ国会”ですが、日銀総裁の人事もすんなりと決められず、無為無策に党利党略だけに奔走している政治家たちに、このような混乱している日本経済を救出する能力はあるのだろうか。甚だ心許ない。■(株)マルハンの一部門である新文芸坐も新年度から次の通り人事異動がありましたのでお知らせいたします。[店長]矢田庸一郎、[マネージャー]関口芳雄、[顧問]永田稔。60代から40代の店長に若返りましたが、スタッフの顔ぶれは変わりません。従来通り、お客様に快適に映画を鑑賞していただけるよう工夫していきますので、今まで通りご来場くださいますよう宜しくお願い申し上げます。

— 永田稔


オーストリア・ドイツ発のドキュメンタリー『いのちの食べかた』

2008/04/01 — 第185号

昨今何かと話題の“食”に関するドキュメンタリーなので、きっと扇情的な作品かと思ったら一風変った作風でした。一口で説明すると、野菜から魚、肉といった食品の生産から加工まで全てが、最新技術と大規模な機械化によって徹底的に合理化されている、そんな現場の様子……。カメラは黙々と作業をする人や機械を淡々と映します。ナレーションや解説は一切なし。画面はほとんど左右対称の構図になっていて、幾何学的な美しさも感じられます。■何をやっているのかよく分からないシーンもあります。例えばこんなシーン。大きな牛の横に白衣を来た男。男はやおらナイフで牛の横っ腹を裂き始めます。牛は平然と立っています。局部麻酔をしているのでしょうか。男は今度は牛の腹に手を突っ込み、なんと子牛を取り出したのです。マッドサイエンティスト!? パンフを読むと実は帝王切開での出産でした。この種の牛は子牛が大きいので、この方法がよく採られるそうです。読めば納得ですが、いきなり牛の腹を裂き始めたら、そりゃビックリです。■一匹の生き物が肉製品になっていく映像には、思わず目を伏せたくなるところもあります。また一方には、例えば私たち日本人は1年に300万トンの肉を消費するという現実。果たして、この映画を見ることの意義とは。映画監督・森達也はこう言っています。「矛盾は矛盾として受容せねばならない。」「意識におくこと。目をそむけないこと。凝視すること。そのためにこの映画はある。」■当館でも「秀作映画特集」のような形で上映したいと思っています。見ることが試練である、そんな映画もあっていい。森監督の言葉をもう一つ。「映画はやがて終わる。あとは観終えたあなたの問題だ」

— 矢田庸一郎


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