まんすりいコラム:2008年

お気に入りのオヤジ俳優たち

2008/03/16 — 第184号

若いスタッフと話をしていると、ハリウッドの若手スターを知らずに恥ずかしい思いをすることがあります。しかし私も20年前は若者だったワケで、スターといわれる人々の栄枯盛衰も少しは分かっているつもりです。当時の映画雑誌のグラビアを賑わせていたスターのうち、現在も主役を張っている役者がどれほどいましょうか? ■今は、若手よりも、むしろ中年俳優がスクリーンで輝いているのを“発見”したときの興奮が大きいのです。好みの俳優を例えれば、クリス・クーパー。その名前を覚えたのは彼がオスカーを獲る2〜3年前で、これほどイイ顔のオヤジ俳優に今まで注目しなかった自分の不明を恥じたものです。それにも増してのお気に入りは、ウィリアム・H・メイシー。何本も出演作を観ているのに、『ファーゴ』以前の記憶がない……。「お前さんたち、その歳になるまでどこで何をしていたんだい?」と問いたくなるが、むしろ問題は彼らを発見できなかったこちらの眼力にあるのです。■そして最近発見した俳優が、ジョシュ・ブローリン。『グラインドハウス』で顔を覚え、『アメリカン・ギャングスター』(5/17(土)より当館で上映)で名前を覚えました。なぜこんなイイ役者を今まで知らなかったんだ? さてはニック・ノルティが若返ったな? と思っていたら、本年のオスカー作品『ノーカントリー』に主演するとは! さすがコーエン兄弟、役者を見るお目が高い!! ■『ノーカントリー』のオスカー4部門受賞を記念して、4/19(土)にコーエン兄弟のオールナイトを上映します。さらにJ・ブローリンと同じく『グーニーズ』で映画デビューしたショーン“サム”アスティン主演『ロード・オブ・ザ・リング』三部作一挙上映オールナイト、今年は5/3(土)です!

— 関口芳雄


今年の「気になる日本映画達2007」のイチオシは、

2008/03/01 — 第183号

『ヒロシマナガサキ』と『夕凪の街 桜の国』の二本立て。『ヒロシマ〜』は、記録映像などを交えながら、被爆者の方々や原爆に関与したアメリカ人たちの証言を捉えたドキュメンタリーです。圧倒的な映像の前に、見る者はほとんど言葉を失ってしまいます。声にならない声がふつふつと湧き上がってきますが、一つの言葉に収まりきらないのです。広島、長崎について様々なことを知ったことも勿論重要ですが、映画を見ながら、言葉にならない思いをずっしり抱えた自分自身と、否応なく向き合ったことも貴重だったと思います。■『夕凪の街〜』は文化庁メディア芸術祭大賞などを受賞した、こうの史代さんのマンガの映画化作品。原爆投下から13年後の広島を舞台に、健気に生きる被爆者の娘・皆実の姿を切なくも温かい眼差しで描いた「夕凪の街」。現代の東京で暮す皆実の姪が、広島を訪れ家族のルーツを見つめ直す「桜の国」。映画は、この2つの物語から構成されています。■実は私の場合、この映画の特に「夕凪の街」の部分で、もう滂沱の状態に……。■こうのさんは1968年広島生まれで、「被爆二世でもない」そうです。映画を見た後に原作を読んで思ったことは、こうのさんは、被爆者の方々の魂や思いを汚したり辱しめたりしないことを第一に思いながら、このマンガを描いたのではないか。この映画の佐々部清監督は、こうのさんの作品世界を汚さないことを第一に思いながら、映画を撮ったのではないかと。■こうのさんの伸び伸びとした柔らかいタッチのマンガから、佐々部監督の慎ましく温かい画面から、被爆者の方々の魂の声が聞えてきたように思えました。

— 矢田庸一郎


ブレードランナー ファイナルカット

2008/02/16 — 第182号

幾多のバージョンが存在するいわくつきの映画ですが、今回は何と新たにハリソン・フォードの息子が出演しているのです!! と言っても口元だけですが・・・。撮影時にハリソン・フォードが言った台詞が、後で変更されたため、画面の口の動きと話されている台詞が違っている場面があるのです。それを修正するため、当時のハリソンに口元が似ている息子に、台詞に合わせ口を動かしてもらい、後でハリソンの顔にデジタル合成し、出演と相成ったのです。他にもスローモーションのせいでスタントマンの顔がバレバレのシーンを役者本人の顔に差し替えたり、ワイヤーを消したりと、様々なデジタル処理が行われているようなのですが、取って付けた様なCGを入れるようなものではないので、マニアでない限りどの場面をいじっているのかよく判らないものが多いです。●個人的には「最終版」から変更となった、主人公のデッカードが実は○○○○○○だったというのは、どうにも後で取って付けたような印象が拭えず、馴染めないですし、英語が分からないのでどの程度「ひどい」のか判らないのですが、ナレーションもあったほうが編集上、間が抜けてないような気もします。また今回2Kのデジタル上映だったことも残念でした。●しかし公開当時不遇だった映画が25年たっても、監督本人が少なからぬ予算で映画を修正する機会に恵まれ、それが商売になるというのは極めて異例なことです。いまだハリウッドではこの映画に匹敵するSF映画を作りえていない状況がそれを可能にしているのならば、このことは少々不幸なことなのかも知れません。しかし久しぶりに優雅に飛ぶスピナーをスクリーンで見られただけでも幸福だというのもまた事実なのです。

— 梅原浩二


いつか壊したい壁なのです

2008/02/01 — 第181号

日に何十件と問い合わせの電話をいただきます。一番多いのは上映時間と場所の確認ですが、最近増えたのが時間を確認した上で「で、今何やってるの?」という流れ。はたから聞けばあべこべかも知れませんが、これは大変嬉しい。作品の内容は二の次で、ある種の信頼で当館へ足を運んでいただける。商売的なことよりも、日々の上映を通じてこのような関係が築けたことが私たちのささやかな誇りになるのです。この信頼を維持しなければと自分に渇を入れながら「『インランド・エンパイア』という洋画です!」と何度も答えた正月でした。◆しかし、そんな素晴らしい関係をぶち壊すジャンルがあるのです。それはホラーとアニメーション。血肉飛び散るホラーを拒絶するのは人道的に納得がいきますが、「○○というアニメ作品……」と言った瞬間に「じゃあいいや」の言葉をいただく時の切なさ。もちろん好き嫌いは十人十色、ましてお客様に好みを押し付けるなど以ての外。しかし現在の、特に日本のアニメ映画のレベルの高さ・面白さを伝える機会を逃したと思うとやはり切ないのです。◆今敏(こん・さとし)というアニメ映画監督は、オタク文化を痛烈に皮肉った『パーフェクトブルー』でデビューして以来、アニメ“を”見せるのではなく、アニメ“で”見せることを常に意識してきた作家です。作品世界を堪能させるだけではなく、なぜアニメなのか、という問いの答えを探す喜びを与えてくれます。その典型的な傑作『千年女優』は今回事情により上映できませんが、まずは現在の集大成的作品『パプリカ』をご覧ください。「じゃあいいや」で済ますにはあまりに惜しい、先進的な“映画”がそこにあります。2/16は今敏監督(来館!!)の特集オールナイトです。

— 花俟良王


涙の理由は

2008/01/16 — 第180号

フィクションの世界のヒーローたちは問答無用の最終兵器を持っています。例えばウルトラマンのスペシウム光線。フィクション故にその威力の程は不明ですが、たいがいの怪獣はあの光線でイチコロです。これを避けて逆襲に転じるなど、良識ある怪獣ならできないことです。水戸黄門の印籠も然り。平成の世に暮らす我々には理解不能な「三つ葉葵の紋所がでたら、逆らっちゃダメ」という掟が、悪党どもには効力を発揮するのでしょう。■諺に“泣く子と地頭には勝てぬ”というものがあります。道理の通じない者と権力者に勝負を挑んでも、勝ち目はないという意味です。もうひとつ、我々オトコが勝てないものに、“女の涙”というものがあるのではないでしょうか。決まった時間帯に出されるスペシウム光線や印籠と違い、予測不能なタイミングで繰り出されるのが“女の涙”の特徴です。昔、数人グループでディズニーランドへ行ったときのこと。突然ひとりの女の子が泣き出して「もう帰りたい!」と言いだし、誰もその涙に抗えず全員で帰路についたことがありました。涙の理由も不明でしたが、その突然さにも驚かされたものです。■「河童のクゥと夏休み」を観て、とても印象的な場面がありました。息子が初めての一人旅に出る日。家の前から見送った母が涙を見せるのです。傍らの夫は涙の意味が分からず理由を訊くと、息子がこちらを振り向きもせずに角を曲がってしまったからだと答えます。私は、ヘェー女ってこういうことで泣くんだ!と感心したものです。鑑賞後に妻にそのことを話すと、その涙はよく理解できるというのです。この脚本を書いた男は凄い! というわけで、女の涙を解する原恵一監督のオールナイトは、2/2(土)。

— 関口芳雄


あけましておめでとうございます

2008/01/01 — 第179号

旧年中は、ご愛顧いただき心より御礼申し上げます。

本年も、〈感動はスクリーンから〉をモットーに、皆様が映画を通して感動、興奮するような、心豊かになる番組を提供していきたいと考えております。

どうぞ宜しくお願い申し上げます。

2008年1月1日

新文芸坐
支配人 永田稔
関口芳雄 矢田庸一郎 梅原浩二 花俟良王 後藤佑輔 柳原弘
佐野久仁子 髙橋悦子 西本布美子 髙橋夏枝 釘宮あかね 浅香ノリ

— スタッフ一同


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