まんすりいコラム:2011年

キネ旬のレビューコーナーが濃い!

2011/09/16 — 第239号

「キネマ旬報」9月上旬号の記事で、スピルバーグが監督ではなくプロデュースに回った時に、監督を担当する後輩に観ておくべき映画を教えるとあり、今まで薦めた約200本の作品が「スピルバーグのリスト」(←うまい)として羅列されていました。これがびっくりするくらい意外性のない王道であり、スピルバーグらしくて微笑ましかったです。◆ところでキネ旬が数ヶ月前にリニューアルしたことをご存知ですか? 全体のレイアウトがすっきりして、若々しい印象になりました。特筆すべきは今回のリニューアルの目玉と思われるレビュー(星取り)コーナー。レビュー自体は珍しくないですが今回キネ旬がとった方法は、毎号(月2回発行)24本の新作を各作品3人の評論家によって計72本(!)のレビューを掲載させるというもの。◆単純に考えて月に48作品・144本のレビュー。超話題作から低予算のドキュメンタリーまで幅広い作品が挙がっていますが、これはかなりの労力を要すると思われます。皆さんに紹介するのが遅れたのは、多分取り上げる本数が次第に減っていくだろうと思っていたからです(失礼)。◆毎月こんなに多くの映画が公開されているという驚きもさることながら、個人的には、記名の責任のもと「星取り」というシンプルな評価システムで多くの作品が論じられることが嬉しいのです。星取りという評価形態に賛同しない評論家も多いでしょうが、限られた予算で限られた作品しか観られない私たち観客にとっては非常にありがたい指針(のひとつ)です。劇場鑑賞派の減少を食い止めるというよりも、混沌とする映画界を再び盛り上げていきたいという意思表明にも感じられ、感銘を受けました。◆なお、独自の批評精神と映画愛に溢れる「映画芸術」「映画秘宝」も受付で大絶賛販売中なのは言うまでもありません。

— 花俟良王


正義 < 母の愛

2011/09/01 — 第238号

作家・海音寺潮五郎は、“人は自分に無いものを理解することはできない”という様な意味のことを書いています。なるほどと思いました。他人を信じることができない人は、人が人を信じる物語を読んだとしても理解はできないでしょう。損得勘定だけで物事を判断する人に、善意で行動すべきだと説いても徒労に終わるだけでしょう。また、人は正義だけを行なうべきだと考える人には、それが不正であれば他者にわずかな情けをもかけないかも知れません。■では自分はどうかというと、父親というものを知らずに育ったのでいわゆる“父もの”がまったくダメなのです。例えばエリア・カザンの「エデンの東」。初めて観たときは、あまりに何も感じないので自分の感受性に問題でもあるのかと思いました。いかに名作でも、どんなに多くの人に好かれている作品だとしても、私には父の愛に飢えたジェームズ・ディーンの気持ちを理解する素地がまったくないのでした。■逆に“母もの”には昔から滅法弱い。加えて、自分が父親になった今は子に対する親の思いの理解も若い頃とは違っています。そんな私のストライクゾーンど真ん中にきた映画が、9/4(日)〜8(木)に当館で上映する『八日目の蝉』です。そう長くは続かないであろうわが子との時間。その短い間だけでも、この世のすべての不幸からわが子を少しでも遠ざけていたい。どんな些細な心配も、わが子にはかけさせたくない。そういう思いが、切実に、本当に切実に伝わってくるのです。ただし、この物語の主人公の行動は正義かと問われれば、否です。正義より母の愛。これでよろしい! 前述の海音寺潮五郎の解釈でいえば、私が持っている正義の量は少ないようです。

— 関口芳雄


デジタルシネマと名画座の将来と「八日目の蝉」と「海炭市叙景」の二本立て

2011/08/16 — 第237号

デジタルシネマという大波が、いよいよ当館を含む中小の映画館やインディペンデント系の映画配給会社に迫って来ているようです。とは言っても分からないことだらけなので、先日、詳しい人に話を聞いてきました。▲デジタルシネマとは、デジタル撮影されたものをフィルムにすることなく、デジタル素材のまま映写することのようです。勿論35ミリ映写機は使えません。DCPというデジタル素材を、2Kと言われるブルーレイ水準よりさらに性能のいいプロジェクターで上映します。デジタルシネマ自体は2005年頃にハリウッドで統一規格が出来上がり、日本では3D映画「アバター」公開にあわせて多くの映画館に導入されましたが、しばらくは3Dを上映するシネコンなどに止まっていました。その最も大きな理由は、うん千万円するというコストの問題です。▲ところが、いよいよ大手配給会社が35ミリプリントを作るのを止めてDCPに一本化するという話が伝えられています。そうすると当館のようなロードショー館じゃない映画館も対応を考えなくてはならないのか、とか、また日本中がデジタルシネマが主流になったとき、3Dじゃないのに「八日目の蝉」「海炭市叙景」といった映画もDCPにしなければならないのか、といった懸念が各地で起こってきているようです。▲当館では「八日目の蝉」と「海炭市叙景」の二本立てを9月4日から上映します。勿論35ミリプリントです。両作品とも内容のある大変素晴らしい作品で、特にスクリーンに人間の体温が宿るような、映画ならではのみずみずしく繊細な演出と映像に、深く心を打たれます。全ての映画が「アバター」と同じような作品となる事態は貧しいと思います。▲映画ファンはデジタルとプリントのどちらを望んでいるのでしょうか。最も根本的と思えるこの検証が、あまり行われていないような気がします。

— 矢田庸一郎


惜別

2011/08/01 — 第236号

故・原田芳雄さんのお通夜に行きお別れをしてきました。焼香者が大勢のために1時間30分も掛かって到達した式場を見た時、映画館に入るような錯覚になりました。真っ白い生花でスクリーンに模った祭壇の中央に、原田さんの遺影が花に埋まっていました。主役の悲しい最後のシーンです。■文芸坐時代の1978(昭和53)年に創業30周年記念企画として、男優の人気投票を行った時、原田さんが第一位に選ばれました。原田さんは、文芸坐ファンに選ばれたことを大変喜んでくださり、オールナイトコンサートなどのイベントに出演してくれました。■浅草の近くの下町育ちというご縁と、歳も近いことから、昨年亡くなった歌手の浅川マキを含めて、親しくさせてもらいました。原田さんの遺作となった『大鹿村騒動記』を涙しながら観ましたが、俳優座養成所15期生の卒業公演を観ているので、原田さんの俳優人生の最初と最後を観たことになりました。■『ぴあ』の最終号を見ています。72(昭和47)年に『ぴあ』が創刊された時、無料の情報で商売することに批判の声もありました。当時の映画興行界は、観客減少で経営面で厳しい時代が続いていましたが、今の時代と大きく違って、学生を中心とした若者たちが、映画を観てくれていました。■当時、東京と地方の文化の格差は大きく、上京して来た学生にとっては『ぴあ』は必需品でした。名画座としても『ぴあ』は、宣伝媒体として貴重な存在でしたので、創刊号から文芸坐の受付で発売いたしました。その後『ぴあ』は、情報のシステム開発ビジネスに成功して大会社になりました。『ぴあ』の最初と最後を知ることになりました。■俳優の原点から知っている原田さんを葬送することになったり、創刊から知っている『ぴあ』が休刊になるなど、親しい人、馴染みの物が身辺から消えてしまう惜別は、虚しく寂しく辛いことです。

— 永田稔


日常生活の中に映画を観る習慣を

2011/07/16 — 第235号

新文芸坐は、お陰さまでオープンから10年を超え、今、11年目を疾走中という状況です。先日10周年記念に、来場したゲストの写真、サイン色紙などが掲示、展示しましたが、大勢の方々にご協力いただいたことに心から感謝いたします。■映画は多くの観客に観られることによって、映画としての価値がある訳です。映画館は、映画と観客を結びつける接点の場所です。映画館に足を運んでいただくためのキッカケになればと思って、ゲストをお呼びするサービスを行なっています。スクリーンから“観て”映画を楽しむばかりでなく、ゲストからの話を“聞いて”映画を楽しみ、本から“読んで”映画を楽しんでもらえるように、書籍販売コーナーも設けてあります。■映画館の所轄の中央官庁は厚労省になり、地元の保健所から許可を受けて営業しています。映画館には、大勢の観客が来場して映画を観るので、公衆衛生面から厚労省が司るのでしょう。因みに、公衆浴場、理髪店、美容院、旅館などと同じ業種になります。日常生活をするのに必要なお店については、衛生上安心して利用できるように、厚労省が監督、指導している業界です。■皆さんは、週何回お風呂に入浴するのでしょうか。床屋に散髪に行く間隔、美容院に行く間隔はどれ程なのでしょうか。映画館の入場者は、昨年の統計によると、全国で1億7436万人で、人口は1億2751万人ですので、年間一人平均1.4回映画を観たという結果です。■数多く映画をご覧になる新文芸坐ファンにとっては、信じられない現状でしょう。年間に映画館に足を運ぶ回数を、入浴回数とまでは望みませんが、床屋に散髪や美容院に行く間隔並みに習慣になると嬉しいのですが……。多くの国民の日常生活の中で、映画を観るという習慣が定着して欲しいと願っています。

— 永田稔


恒例“7のチカラ”イベント

2011/07/01 — 第234号

新文芸坐は(株)マルハンの一店舗です。マルハンはパチンコチェーンであることは、皆様もご存知のことと思います。同じ会社でありながら、新文芸坐のスタッフにパチンコ愛好者がいないので正確なことは誰も知らないのですが、パチンコにおいて“7”という数字は意味のある数字らしいのです。それで、私どもマルハンは毎年7月になると全店舗(マルハンはパチンコ以外にも、ゲームセンターやカラオケ、ボウリング場などを経営しています)で特別なイベントを実施しているのです。■今年の“7のチカラ”では新文芸坐の10年を振り返るという意味で、ささやかですが2つのことを計画しています。ひとつは、「写真とサイン色紙の展示」です。これは新文芸坐の10年間にトークショーのゲストとして来館された著名人の写真やサイン色紙の一部を展示しようというものです。監督や俳優の他にちょっと意外なゲストもいたりと、愉しんでいただけるかと思います。■もうひとつは、「しねまんすりいバックナンバー販売」です。バックナンバーといいましてもコピーを製本したものなのですが、これを数十冊ご用意しました。オープン当時からの要望で「新文芸坐の上映作品リストが欲しい」というお客様の声に応えるべく、このようなものを作ってみました。今から見返してみると、誤植や初歩的な表記ミスが散見され、とても恥ずかしいものなのですが、新文芸坐が10年の間にどのような映画を上映してきたのかはこれ1冊でわかります。製作の実費≒1200円で販売いたします。ただし! 部数に限りがありますので、当面は新文芸坐友の会会員の方のみとさせていただきます。7月1日発売に間に合うか!? 鋭意作製中。

— 関口芳雄


2 / 5123...最後 »