まんすりいコラム:2013年

10/5より傑作『クラウド アトラス』を上映

2013/09/12 — 第287号

新文芸坐2013年上半期ベストテンに私も一映画ファンとして投票しました。私の洋画部門の一位は、文句なくこの映画『クラウド アトラス』、邦画部門は『横道世之介』でした。相通じるのは涙。奔流のごとくあふれ出た涙と、さりげなく静かにつたう涙……(笑)。●19世紀世界から、クローン人間が生きる未来社会、さらには文明が崩壊した後、人々は原初的は素朴な生活を送る時代まで、恐らく数百年に渡る時間軸の中、時代も舞台も、てんでばらばらな6つの物語が、平行して描かれます。壮大かつミステリアス。それぞれの物語が、見えない糸で結ばれているような緻密な構成と演出。悠久の時間の流れの中、人々が時代と物語を越えて織り成す、不思議な運命と愛の絆が、時にほのかに、時に残酷に、紡ぎだされます。●トム・ハンクス、ハル・ベリー、ジム・ブロードベント、スーザン・サランドン、ヒュー・グラントといった豪華キャストの面々は、まさに見応え十分。しかも本作では、彼らは、なんと6つの物語のほとんどに、様々に衣装やメイクを変えながら登場してくるという、斬新かつ心憎い趣向。心躍らずにいられません。●中でも最も心を打つ存在は、能面の如く無表情で、言葉にならないような悲しみを、そこはかとなく発するクローン少女役のペ・ドゥナ!! 彼女がラスト近く、啓示的な存在となって再登場してくるところなど、激しく感動して、ほとんど滂沱の涙でした(合掌)。●運命の波に歯向かっているつもりが、実は運命に操られていて、そんな中、一見ちっぽけな人間が、自身はそれとは気付かぬまま、壮大な使命を授かっているというような、「火の鳥」とか「12モンキーズ」とか「風の谷のナウシカ」とか、そんな物語が大好き。

— 矢田庸一郎


1973〜2013年の40年間を回顧する

2013/08/29 — 第286号

1973(S48)年9月に文芸坐に入社した。今年で40年になる。当時の文芸坐は、文芸地下劇場と二館だけの営業で、お客様の賑わいよりも、映画青年たちの出入りが多かった。映画青年は、16mmや8mmフィルムで映画を撮っていた。映画製作、撮影、評論など、シーン毎について熱く語り合い、議論が白熱して人生論、芸術、スポーツ、社会全般にまで話題が飛躍していった。■何年か経って、第一線で活躍する映画監督や、各分野で才能を発揮するクリエイターたちの中に、文芸坐に通っていた映画青年たちがいたことを知った。ちょっとした梁山泊の様相を呈していたと言えようか。■文芸坐の受付では、映画青年たちが作成した名画座のスケジュール表を売っていた。間もなく、小冊子「ぴあ」が書店に並び、若者たちのバイブル的存在になった。その「ぴあ」は、ITの発達で一昨年休刊になった。この40年間は、歴史的な情報革命の時代であり「ぴあ」の盛衰史でもあった。■文芸坐では、『文芸坐しねぶてぃっく』、小劇場『文芸坐ル・ピリエ』、『文芸坐の喫茶店』などが造られた。1997(H9)年3月に文芸坐が老朽化のために閉鎖することになったが、マルハンによって、2000(H12)年12月に新文芸坐として再開した。文芸坐の幕引き、新文芸坐の杮落としに立ち会った。■1975(S50)年に特集した『フィルムフェスティバル』では、文芸坐に集う映画青年たちの協力を得て、3分間の予告編を作った。二本立て一週間上映の常識から、日替わり、二日替わりの特集番組編成の原点は、この時期にあった。ハード、ソフト両面で“スクラップ&ビルド”の40年間であった。

— 永田稔


恐るべきシンクロニシティ

2013/08/12 — 第285号

「コーヒーと恋愛」という素敵なタイトルに惹かれ、最近復刊された獅子文六の小説を読んでみました。タイトル通り、コーヒーが縁で繋がれた男女の恋愛話で、『てんやわんや』『自由学校』などと同じく新聞小説として連載されていたものです(連載時のタイトルは「可否道」)。『可否道より なんじゃもんじゃ』というタイトルで映画化もされていて、主役の売れっ子テレビ女優に森光子、その同居人の演劇青年に川津祐介、恋敵となる新人女優に加賀まりこ、さらに茶道ならぬ“可否道”設立を目指す可否会会長に加東大介、とキャストも原作のイメージにピッタリ。これは何としても観てみたいと思い調べてみると、驚いたことに丁度このコラムが掲載される頃に、某名画座の森光子特集で上映されているのです。恐るべきシンクロニシティ(=偶然の一致)。■いささか極端な例ですが、このような偶然があるとその事自体に意味を感じてしまいます。皆さんもそんな経験ありませんか? しかし、旧作の上映を行なう名画座としては、お客様のニーズを拾い上げ、偶然ではなく必然として、大多数の方にとっての“丁度観たかった映画”を上映できるようでなくてはなりません。「丁度観たいと思ってたんだ。ありがとう。」と言われるのは、名画座にとって最高の褒め言葉なのです。■ちなみに『可否道〜』は過去には文豪映画特集で獅子文六映画として上映されていた事もあったようで、同じ映画でも様々な角度から上映ができる訳ですが、今度は『珈琲時光』『コーヒー&シガレッツ』などと共に〈コーヒー映画特集〉なんていうのはいかがでしょうか?

— 後藤佑輔


『ロード・オブ・ザ・リング』の次は、『ホビット』をよろしく

2013/07/28 — 第284号

当館で毎年恒例となった『ロード・オブ・ザ・リング』三部作一挙上映ですが、今年は去る7/14(日)に上映いたしました。今回も大盛況になり、ご来場されたお客様には御礼申し上げます。特に毎年ご来場されている方々、本当にありがとうございます。■皆さまご存知のとおり『ロード・オブ・ザ・リング』は有名なファンタジー小説「指輪物語」の何度目かの映像化作品であり、そのテーマはなかなか深いものがあります。タイトルの“指輪”。これは全てを超越した“力”の象徴であり、人類がこの力を持つことへの怖れや疑問が物語を動かしていきます。原作者のJ.R.R.トールキン自身は否定していますが、指輪が核兵器の暗喩であろうことは多くの人が指摘しています。日本内外の情勢を鑑みるに、2013年の今観ても、この作品が描くテーマは全く古さを感じさせません。人類が進歩していないということでしょうか。■さて、当館では8/11〜14、『ロード…』の前日譚にあたる『ホビット』の第1部、『ホビット 思いがけない冒険』を上映します。『ホビット』は『ロード…』と比べるとテーマは単純です。勇気、成長、友情、責任、信頼……。原作の「ホビットの冒険」が児童文学であることを考えれば納得です。分かりやすい分、大団円のカタルシスは、きっと『ロード…』以上なのではないかと今から期待しています。■『ホビット』シリーズも3部作の超大作です。その全貌を知るには、今年と来年の冬を待たねばなりません。『ホビット』が3本揃ったら、また一挙上映をやりたいですね。皆さんの世論の後押しがあればきっと実現しますよ!

— 関口芳雄


黒沢清の見つめた世界をより理解するために

2013/07/17 — 第283号

静かな喫茶店で関係者も連れずに私と向かい合って座っている映画監督は、こちらの質問や提案の一つ一つに真摯に対応してくれる。マスコミに登場する時の印象と何も変わらない。思慮深く、哲学的で、そして映画を愛する黒沢清監督だ。■『神田川淫乱戦争』で商業映画デビューを飾って30年。規制が比較的緩いオリジナルビデオ作品で作家性を磨き、『CURE』でその名は爆発的に広がった。その後は代名詞とされる恐怖演出を用いぬ作品群でも高い評価を得ている。当館のオールナイト上映では7/27、8/3の2夜に分けて黒沢監督の軌跡をトークも交えて振り返る。■今回は監督本人に上映作品を選定してもらうことにこだわった。「『ドッペルゲンガー』『LOFT』などは思い入れの割りには観客にスルーされた印象」と監督は語る。重層的な物語、散見されるメタファー、独特のユーモアなど、時として難解と評される黒沢作品の全貌を私たちは理解できているのか、という想いは強い。■豪華なトークゲストは全員出演を快諾してくれた。第一夜は『CURE』以降の黒沢作品の顔でもある役所広司さんと、共著などもある理解者・篠崎誠監督。第二夜は立教大学が繋ぐ盟友、万田邦敏監督と青山真治監督(余談だが、青山監督は本企画が立ち上がる前に「黒沢清監督生活30周年を記念して新文芸坐で1ヶ月特集を組むべし」という旨のツイートをしている)。■黒沢作品を初見の方は勿論感動と充実の夜になるだろう。しかしこのオールナイトは「入門編」ではない。鬼才の本質を理解し31年目からの活躍をより楽しむ映画ファンのための「応用編」である。詳細は裏面を。

— 花俟良王


仲代達矢役者生活60周年記念《仲代達矢映画祭》

2013/06/29 — 第282号

■今年のカンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督作品『そして父になる』が審査員賞を受賞した。その時パリでは《仲代達矢特集》が開催されていて、本人も渡仏した。仲代達矢が出演した市川崑監督作品『鍵』が、1960年に同じ賞を受賞している。他に仲代達矢が出演した作品が、世界の三大映画祭、アカデミー賞で複数回受賞している。日本が世界に誇れる映画俳優である。■昨年暮れに80歳になった仲代達矢は、今年、役者生活60周年という節目の年を迎えた。仲代達矢は、演劇に対して強い気概から、映画出演と平行して舞台に立ち続けている。舞台俳優として芸術選奨文部大臣賞を始め、各演劇賞を複数回受賞している。又、75年から俳優を育成する「無名塾」を主宰し、役所広司、若村麻由美などの俳優が巣立っている。舞台俳優としても世界に知られている。仲代達矢は日本の文化功労者であり、仏国から勲章を受章するなど数々の褒章を受けている。■60周年記念の演劇公演は、不条理劇の名作イヨネスコ原作の『授業』であった。「不条理」を辞書で調べると、「筋道が通らないこと、道理に合わないこと」と書いてある。論理的思考による劇作を否定して、演技力、表現力が見所の芝居のことである。汗を流し、台詞でつばを飛ばし、名優仲代達矢を全て曝け出して、小劇場でのニヶ月に亘る公演を完遂した。傘寿で、役者で還暦の仲代達矢は、体力、気力、知力等々心身共に健在であることを顕示した。■60周年を記念した《仲代達矢映画祭》は、7/6〜20まで開催する。仲代達矢は、演劇で培われた演技力を見込まれて、巨匠作品に多く出演している。巨匠+名優=不朽の名作。映画ファン必見である。

— 永田稔


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