まんすりいコラム:2013年

年の暮れ、シネマカーテンコールで“罪”について考える

2013/12/15 — 第293号

12/26(木)の「ビザンチウム」は、アイルランド出身のニール・ジョーダン監督が撮った、久しぶりの吸血鬼(ヴァンパイア)もの。昨今“青春ホラー映画”ともいうべきジャンルが確立しつつあるようですが、この映画はそれらとは一線を画した作品です。人が生きることは大変なことです。日々の生活だって楽じゃないのに、今の日本の社会保障制度では老後も明るいとはいえません。永遠に生命を持つ吸血鬼はもっと大変。吸血鬼だって、“衣・食・住”は大切です。吸血鬼の“食”事情については多くの映画で語られてきましたが、“衣”と“住”には現金収入が必要であるということをきちんと描いているというところがこの映画の優れたところです。吸血鬼とは、〈生きること=罪を犯すこと〉という存在。そのことを母と娘、ふたりのヴァンパイアの葛藤を通して描いています。佳作。■来年1/5(日)の『天使の分け前』は社会派として知られる、英国の巨匠ケン・ローチ監督の最新作。“天使の分け前”とは、ウィスキーを熟成させる過程で蒸発して失われる分のこと。「だったら僕にも少しくらい分け前を……」という落ちこぼれ少年たちの小さな罪の物語です。この監督、過去の映画を観れば分かりますが、社会的弱者の味方でして、弱者が犯す罪に寛大なお方です。私はといえば、誰も不幸にしない罪ならお咎めなしでOKと思うのですが、この映画をご覧になった皆様はどう感じるでしょうか? ■罪とはいえないまでも、人は生きているだけで他人に迷惑をかけるもの。是非この2本の映画をご覧いただいて、罪に対する自分の許容度を確認するというのも、映画のひとつの観方ではないかと提案する次第でございます。皆様、来年も良いお年を。

— 関口芳雄


小沢昭一さんの墓参りに行く

2013/11/29 — 第292号

墨田区鐘ヶ淵にリハビリのために通院している。池波正太郎原作『剣客商売』主人公の住まいや、落語『おせつ徳三郎』の二人が、休憩する料亭がこの鐘ヶ淵になっている。落語ではおせつが、徳三郎と逢瀬を楽しむために、お供の小僧さんを向島長命寺の「山本や」へ〈桜もち〉を買いに行かせる場面がある。長命寺は、昨年末に逝去した小沢昭一が眠っている弘福寺の隣にある。■大学、高校の落語研究会を「落研」と略称にしたのは小沢昭一さんである。診察の帰りに小僧さんと同じように歩いて、弘福寺の小沢昭一さんの墓参りをして〈桜もち〉を食べようと思った。■江戸時代の鐘ヶ淵は、大川(隅田川)の岸辺に葦が繁れる寂れた村であったが、謡曲『隅田川』縁(ゆかり)の地でもあった。現在は防災拠点に指定され、防火壁の役割を兼ねる13階建ての都営住宅が15棟連なっている。併設している都立公園には、野球場、テニスコート、学校と神社、梅若伝説の碑と木母寺(もくぼじ)の史跡もあるが、江戸時代の面影はない。■弘福寺は「隅田川七福神」の〈布施様〉が祀られて、立派な門構えの禅寺であった。向島花街の見番通りに面した寺院は、芸者が弾く三味線、太鼓の音や唄が、通りの向う側から聞えてくる所にある。用意周到に生前から粋な場所を選んだ『小沢昭一の小沢昭一的こころ』に感服する。■一周忌を追善して、小沢昭一出演映画を特集する。スクリーンから小沢昭一さんを偲んで、記憶に残して次世代に語り繋いで欲しいと思う。墓地には似たような墓石が並び、落語『お見立て』のように墓探しをしてしまった。〈桜もち〉は、「山本や」が定休日のため〈言問団子〉に変わった。

— 永田稔


ワールド・ウォーは“G”

2013/11/15 — 第291号

11/26(火)から上映する『ワールド・ウォーZ』と『パシフィック・リム』の2本立て。またこの話題です(スタッフの支持率が異様に高いもので……)。■巨大ロボットに乗り込み必殺技を叫ぶ『パシフィック・リム』に、元ネタ国に住む我々が熱狂するのは当然ですが、そのあまりの評判に私が愛する『ワールド・ウォーZ』が霞んでいる気がしてなりません。■予め言っておきますがタイトルの“Z”は最終戦争を意味するZ、そして“ZOMBIE”のZです。予告編では曖昧にしていますがあのゾンビです。しかし血なまぐささはなく、日本でのレイティングは【R15+】でも【PG12】でもなく、なんと【G】。お茶の間の家族団欒の場で観て良い映画なのです。ゾンビは走る、血は出ない、で始祖ジョージ・A・ロメロを敬愛するゾンビマニアには反感を買いましたが、この作品の方向性は違います。■低予算・ワンシチュエーションが相場のゾンビ映画に莫大な製作費をかけ、原作取得から製作まで自分の会社で行い気合十分のブラッド・ピット主演の娯楽超大作。たった12秒で感染するウィルスの恐怖を、残酷描写の代わりに圧倒的なスリルと規模とスピード感で描き、掌の汗が乾くことはありません。そして普段この手の作品を観ないアート系な同僚が述べた「主人公が世界中を飛び回って凄かった」という小学生のような感想は正しく、まるでインディ・ジョーンズのように危機また危機の中世界を駆けるブラピは、アクションヒーローとして機能します。■実は難民・貧富問題など裏テーマも感じられますが、それはまた別の話。まずは大スクリーンでこのとんでもないスリルを堪能し、今の自分の境遇に感謝しましょう。

— 花俟良王


“人類存続の危機!”がやって来た。

2013/10/24 — 第290号

11/26(火)〜30(土)、『パシフィック・リム』と『ワールド・ウォーZ』の2本立てを上映します! どちらもテーマは“人類存続の危機!”。それゆえ舞台も地球規模のスケール。全編迫力満点です。世界のあちこちへとシーンが移り変わり、大都市や海が、ヘリコプターや巨大ロボットの視点で映し出されるのが、本当に壮大で爽快です。■『パシフィック・リム』は巨大怪獣から地球を守るため人間が巨大ロボットに乗り込み戦うというお話。日本のロボットアニメや特撮怪獣モノに対するギレルモ・デル・トロ監督のオタク的な愛が炸裂しており、時々出てくる変な日本文化の描き方などもひっくるめて面白いです。エンドロールで「本多猪四郎に捧ぐ」という字幕が出るのですが、日本人として心にグッときます。■一方の『ワールド・ウォーZ』はスピード感がものすごい映画です。わずか12秒で感染するウィルスで瞬く間に世界中の人々が感染者“Z”となっていく。人類絶滅の危機を回避するためにブラッド・ピットが世界中を奔走するのですが、この感染者“Z”の動きやストーリー展開が今までにない斬新な演出です。■この2本はいつになく当館スタッフも多くが観ており、何だかんだ言いながらも評判は上々。突っ込みどころは満載なのに、小さいことはとやかく言わせない満足感の残る2本です。地球市民なら観ないわけにはいきません!

— 釘宮あかね


錆びつかない 伝説の俳優・金子正次

2013/10/13 — 第289号

「『竜二漂泊1983』出版Presents 『竜二』公開30周年記念/金子正次没後30年 錆びつかない“30年”、さらに輝きを増して」と題したオールナイト企画が11月9日(土)に開催されます。公開から30年経った今でも決して色褪せることのない名作『竜二』。そして、自ら製作、脚本、主演を務め、映画が公開中の1983年11月6日に33歳の若さでこの世を去った伝説の俳優、金子正次。一人の男が総てをかけた魂の映画を是非、大スクリーンでご覧ください。個人的に『竜二』は大好きな映画で、自分の将来が見えなくなって不安になった時、この映画を見て何度も勇気をもらい、エンディングで流れるショーケン「ララバイ」に何度も泣かされました。他の上映作品は『竜二』の製作過程を中心に金子正次の生涯を描いた『竜二 Forever』。金子正次の遺稿シナリオを映画化した『獅子王たちの夏』。そして、金子正次の親友であり、奇しくも彼が亡くなってから6年後の同日11月6日にこの世を去った松田優作の初監督作品『ア・ホーマンス』も上映します。また上映前には、川島透監督(『竜二』)、高橋伴明監督(『獅子王たちの夏』)、細野辰興監督(『竜二 Forever』)、谷岡雅樹さん(映画評論家、『竜二漂泊1983』著者)をお招きし、トークショーも行います。どんな話が飛び出すのか、今から楽しみです。

— 宮路良平


2013年上半期 新文芸坐ベストテン“文テン”発表!

2013/09/24 — 第288号

新文芸坐友の会会員だけで選ぶ“新文芸坐ベストテン”略して“文テン”。今年は2013年の途中経過として、上半期ベストテンを実施いたしました。

【洋画】
①ジャンゴ 繋がれざる者(130点)
②きっと、うまくいく(112点)
③ゼロ・ダーク・サーティ(100点)
④愛、アムール(77点)
⑤フライト(64点)
⑥クラウド アトラス(62点)
⑦天使の分け前(61点)
⑧セデック・バレ(第一部/第二部)(60点)
⑨テッド(58点)
⑩L.A. ギャング ストーリー(54点)
⑩リンカーン(54点)

【邦画】
①舟を編む(150点)
②横道世之介(133点)
③東京家族(110点)
④さよなら渓谷(89点)
⑤藁の楯 わらのたて(84点)
⑥はじまりのみち(74点)
⑦千年の愉楽(52点)
⑧ぼっちゃん(48点)
⑨フラッシュバックメモリーズ 3D(46点)
⑨探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点(46点)

11位以下の洋画は、⑫世界にひとつのプレイブック ⑬偽りなき者 ⑭ザ・マスター⑮嘆きのピエタ ⑯ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日  ⑰アウトロー ⑱グランド・マスター ⑲ヒッチコック ⑳シュガーマン 奇跡に愛された男 邦画は、⑪みなさん、さようなら ⑪リアル〜完全なる首長竜の日〜 ⑬奇跡のリンゴ ⑭フィギュアなあなた ⑮くちづけ ⑮真夏の方程式 ⑰オース!バタヤン ⑰言の葉の庭 ⑰中学生円山 ⑰脳男 という結果になりました。有効票数は63票。ありがとうございました。年明けには年間ベストテンもありますので、お待ち下さい。

※洋画の「レ・ミゼラブル」に46票が入りましたが、昨年の公開作品でしたのでランキングからは除外させていただきました。

— スタッフ


10/5より傑作『クラウド アトラス』を上映

2013/09/12 — 第287号

新文芸坐2013年上半期ベストテンに私も一映画ファンとして投票しました。私の洋画部門の一位は、文句なくこの映画『クラウド アトラス』、邦画部門は『横道世之介』でした。相通じるのは涙。奔流のごとくあふれ出た涙と、さりげなく静かにつたう涙……(笑)。●19世紀世界から、クローン人間が生きる未来社会、さらには文明が崩壊した後、人々は原初的は素朴な生活を送る時代まで、恐らく数百年に渡る時間軸の中、時代も舞台も、てんでばらばらな6つの物語が、平行して描かれます。壮大かつミステリアス。それぞれの物語が、見えない糸で結ばれているような緻密な構成と演出。悠久の時間の流れの中、人々が時代と物語を越えて織り成す、不思議な運命と愛の絆が、時にほのかに、時に残酷に、紡ぎだされます。●トム・ハンクス、ハル・ベリー、ジム・ブロードベント、スーザン・サランドン、ヒュー・グラントといった豪華キャストの面々は、まさに見応え十分。しかも本作では、彼らは、なんと6つの物語のほとんどに、様々に衣装やメイクを変えながら登場してくるという、斬新かつ心憎い趣向。心躍らずにいられません。●中でも最も心を打つ存在は、能面の如く無表情で、言葉にならないような悲しみを、そこはかとなく発するクローン少女役のペ・ドゥナ!! 彼女がラスト近く、啓示的な存在となって再登場してくるところなど、激しく感動して、ほとんど滂沱の涙でした(合掌)。●運命の波に歯向かっているつもりが、実は運命に操られていて、そんな中、一見ちっぽけな人間が、自身はそれとは気付かぬまま、壮大な使命を授かっているというような、「火の鳥」とか「12モンキーズ」とか「風の谷のナウシカ」とか、そんな物語が大好き。

— 矢田庸一郎


1973〜2013年の40年間を回顧する

2013/08/29 — 第286号

1973(S48)年9月に文芸坐に入社した。今年で40年になる。当時の文芸坐は、文芸地下劇場と二館だけの営業で、お客様の賑わいよりも、映画青年たちの出入りが多かった。映画青年は、16mmや8mmフィルムで映画を撮っていた。映画製作、撮影、評論など、シーン毎について熱く語り合い、議論が白熱して人生論、芸術、スポーツ、社会全般にまで話題が飛躍していった。■何年か経って、第一線で活躍する映画監督や、各分野で才能を発揮するクリエイターたちの中に、文芸坐に通っていた映画青年たちがいたことを知った。ちょっとした梁山泊の様相を呈していたと言えようか。■文芸坐の受付では、映画青年たちが作成した名画座のスケジュール表を売っていた。間もなく、小冊子「ぴあ」が書店に並び、若者たちのバイブル的存在になった。その「ぴあ」は、ITの発達で一昨年休刊になった。この40年間は、歴史的な情報革命の時代であり「ぴあ」の盛衰史でもあった。■文芸坐では、『文芸坐しねぶてぃっく』、小劇場『文芸坐ル・ピリエ』、『文芸坐の喫茶店』などが造られた。1997(H9)年3月に文芸坐が老朽化のために閉鎖することになったが、マルハンによって、2000(H12)年12月に新文芸坐として再開した。文芸坐の幕引き、新文芸坐の杮落としに立ち会った。■1975(S50)年に特集した『フィルムフェスティバル』では、文芸坐に集う映画青年たちの協力を得て、3分間の予告編を作った。二本立て一週間上映の常識から、日替わり、二日替わりの特集番組編成の原点は、この時期にあった。ハード、ソフト両面で“スクラップ&ビルド”の40年間であった。

— 永田稔


恐るべきシンクロニシティ

2013/08/12 — 第285号

「コーヒーと恋愛」という素敵なタイトルに惹かれ、最近復刊された獅子文六の小説を読んでみました。タイトル通り、コーヒーが縁で繋がれた男女の恋愛話で、『てんやわんや』『自由学校』などと同じく新聞小説として連載されていたものです(連載時のタイトルは「可否道」)。『可否道より なんじゃもんじゃ』というタイトルで映画化もされていて、主役の売れっ子テレビ女優に森光子、その同居人の演劇青年に川津祐介、恋敵となる新人女優に加賀まりこ、さらに茶道ならぬ“可否道”設立を目指す可否会会長に加東大介、とキャストも原作のイメージにピッタリ。これは何としても観てみたいと思い調べてみると、驚いたことに丁度このコラムが掲載される頃に、某名画座の森光子特集で上映されているのです。恐るべきシンクロニシティ(=偶然の一致)。■いささか極端な例ですが、このような偶然があるとその事自体に意味を感じてしまいます。皆さんもそんな経験ありませんか? しかし、旧作の上映を行なう名画座としては、お客様のニーズを拾い上げ、偶然ではなく必然として、大多数の方にとっての“丁度観たかった映画”を上映できるようでなくてはなりません。「丁度観たいと思ってたんだ。ありがとう。」と言われるのは、名画座にとって最高の褒め言葉なのです。■ちなみに『可否道〜』は過去には文豪映画特集で獅子文六映画として上映されていた事もあったようで、同じ映画でも様々な角度から上映ができる訳ですが、今度は『珈琲時光』『コーヒー&シガレッツ』などと共に〈コーヒー映画特集〉なんていうのはいかがでしょうか?

— 後藤佑輔


『ロード・オブ・ザ・リング』の次は、『ホビット』をよろしく

2013/07/28 — 第284号

当館で毎年恒例となった『ロード・オブ・ザ・リング』三部作一挙上映ですが、今年は去る7/14(日)に上映いたしました。今回も大盛況になり、ご来場されたお客様には御礼申し上げます。特に毎年ご来場されている方々、本当にありがとうございます。■皆さまご存知のとおり『ロード・オブ・ザ・リング』は有名なファンタジー小説「指輪物語」の何度目かの映像化作品であり、そのテーマはなかなか深いものがあります。タイトルの“指輪”。これは全てを超越した“力”の象徴であり、人類がこの力を持つことへの怖れや疑問が物語を動かしていきます。原作者のJ.R.R.トールキン自身は否定していますが、指輪が核兵器の暗喩であろうことは多くの人が指摘しています。日本内外の情勢を鑑みるに、2013年の今観ても、この作品が描くテーマは全く古さを感じさせません。人類が進歩していないということでしょうか。■さて、当館では8/11〜14、『ロード…』の前日譚にあたる『ホビット』の第1部、『ホビット 思いがけない冒険』を上映します。『ホビット』は『ロード…』と比べるとテーマは単純です。勇気、成長、友情、責任、信頼……。原作の「ホビットの冒険」が児童文学であることを考えれば納得です。分かりやすい分、大団円のカタルシスは、きっと『ロード…』以上なのではないかと今から期待しています。■『ホビット』シリーズも3部作の超大作です。その全貌を知るには、今年と来年の冬を待たねばなりません。『ホビット』が3本揃ったら、また一挙上映をやりたいですね。皆さんの世論の後押しがあればきっと実現しますよ!

— 関口芳雄


黒沢清の見つめた世界をより理解するために

2013/07/17 — 第283号

静かな喫茶店で関係者も連れずに私と向かい合って座っている映画監督は、こちらの質問や提案の一つ一つに真摯に対応してくれる。マスコミに登場する時の印象と何も変わらない。思慮深く、哲学的で、そして映画を愛する黒沢清監督だ。■『神田川淫乱戦争』で商業映画デビューを飾って30年。規制が比較的緩いオリジナルビデオ作品で作家性を磨き、『CURE』でその名は爆発的に広がった。その後は代名詞とされる恐怖演出を用いぬ作品群でも高い評価を得ている。当館のオールナイト上映では7/27、8/3の2夜に分けて黒沢監督の軌跡をトークも交えて振り返る。■今回は監督本人に上映作品を選定してもらうことにこだわった。「『ドッペルゲンガー』『LOFT』などは思い入れの割りには観客にスルーされた印象」と監督は語る。重層的な物語、散見されるメタファー、独特のユーモアなど、時として難解と評される黒沢作品の全貌を私たちは理解できているのか、という想いは強い。■豪華なトークゲストは全員出演を快諾してくれた。第一夜は『CURE』以降の黒沢作品の顔でもある役所広司さんと、共著などもある理解者・篠崎誠監督。第二夜は立教大学が繋ぐ盟友、万田邦敏監督と青山真治監督(余談だが、青山監督は本企画が立ち上がる前に「黒沢清監督生活30周年を記念して新文芸坐で1ヶ月特集を組むべし」という旨のツイートをしている)。■黒沢作品を初見の方は勿論感動と充実の夜になるだろう。しかしこのオールナイトは「入門編」ではない。鬼才の本質を理解し31年目からの活躍をより楽しむ映画ファンのための「応用編」である。詳細は裏面を。

— 花俟良王


仲代達矢役者生活60周年記念《仲代達矢映画祭》

2013/06/29 — 第282号

■今年のカンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督作品『そして父になる』が審査員賞を受賞した。その時パリでは《仲代達矢特集》が開催されていて、本人も渡仏した。仲代達矢が出演した市川崑監督作品『鍵』が、1960年に同じ賞を受賞している。他に仲代達矢が出演した作品が、世界の三大映画祭、アカデミー賞で複数回受賞している。日本が世界に誇れる映画俳優である。■昨年暮れに80歳になった仲代達矢は、今年、役者生活60周年という節目の年を迎えた。仲代達矢は、演劇に対して強い気概から、映画出演と平行して舞台に立ち続けている。舞台俳優として芸術選奨文部大臣賞を始め、各演劇賞を複数回受賞している。又、75年から俳優を育成する「無名塾」を主宰し、役所広司、若村麻由美などの俳優が巣立っている。舞台俳優としても世界に知られている。仲代達矢は日本の文化功労者であり、仏国から勲章を受章するなど数々の褒章を受けている。■60周年記念の演劇公演は、不条理劇の名作イヨネスコ原作の『授業』であった。「不条理」を辞書で調べると、「筋道が通らないこと、道理に合わないこと」と書いてある。論理的思考による劇作を否定して、演技力、表現力が見所の芝居のことである。汗を流し、台詞でつばを飛ばし、名優仲代達矢を全て曝け出して、小劇場でのニヶ月に亘る公演を完遂した。傘寿で、役者で還暦の仲代達矢は、体力、気力、知力等々心身共に健在であることを顕示した。■60周年を記念した《仲代達矢映画祭》は、7/6〜20まで開催する。仲代達矢は、演劇で培われた演技力を見込まれて、巨匠作品に多く出演している。巨匠+名優=不朽の名作。映画ファン必見である。

— 永田稔


いまふたたびの、是枝裕和

2013/06/14 — 第281号

皆様ご存知かと思いますが、今年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で是枝裕和監督の『そして父になる』が審査員賞を受賞しました。個人的な映画史において、是枝監督は語るのに欠かせない映画人の一人です。■生まれて初めて一人で観に行った映画が是枝監督の『ワンダフルライフ』でした。『ワンダフルライフ』をご覧になった方はご存知でしょうが、この作品はフィクションとドキュメンタリーが融合した、「ふつう」の映画とはちょっと違う雰囲気の映画です。それまで映画といえば、ほとんどテレビで放映しているものしか観たことなかった中学生にとっては衝撃的でした。どうやら映画というのは何でもありらしい、という認識がこの映画によってしっかりと刻み込まれました。その後、当館で開催された是枝裕和ナイトで人生初のオールナイトを体験するなど、映画人生の節目で是枝監督がひょいと顔を出しているような気がします。■是枝作品で有名なのはやはりカンヌで賞を取った『誰も知らない』かと思いますが、私が好きなのは『DISTANCE』。オウム真理教の事件をモチーフに加害者遺族を描いた作品として語られることが多いですが、ミステリ好きにはミステリ映画にしか見えません。見え隠れする過去の断片と謎のピースが最後にぴったりとあるべき場所へ収まってゆくあの快感をミステリと言わずしてなんと言おうか!■そしてなんと! 是枝監督オールナイト企画が現在進行中です。詳細は未定ですが、手作りおにぎりが忘れられない『DISTANCE』や、枝豆みょうがご飯が食べたくなることで有名な『歩いても 歩いても』なども上映するかもしれませんので、お腹を空かせて乞うご期待!

— 小澤麻梨子


DCP徒然 〜旧作とDCP〜

2013/05/28 — 第280号

前号でもお伝えしましたが、当館はデジタル素材であるDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)上映対応のためデジタル映写設備を導入しました。テレビの“地デジ化”のように、上映も全てデジタルになってしまうの? と心配する方がいますが、従来通りフィルムの作品はフィルムで上映しますのでご安心ください。■ですが、旧作をめぐる上映環境にも変化が起こっています。6/1(土)からの特集〈木下惠介生誕100年祭〉で上映する『二十四の瞳』『楢山節考』『カルメン故郷に帰る』の3本はデジタルリマスター版&DCP上映です。“デジタルリマスター”というのはフィルムをデジタルデータに読み取って修復する作業の事で、今まではこのリマスターを施したものを劇場で公開するにあたって再度フィルムにしていたのですが、最近ではデジタルのままDCPで上映するケースが増えてきました。いまや全国ほとんどのスクリーンがデジタル化されており、もはやフィルムで上映することの方が稀になっています。このような環境では、上映素材として新たにフィルムが作られる事はどんどん難しくなっているのです。洋画名作のリバイバル上映で好評の「午前十時の映画祭」もこれまではフィルム上映でしたが、今開催されているものは全作DCP上映になりました。■また、木下惠介生誕100年プロジェクトの一環として、カンヌ映画祭での『楢山節考』の上映をはじめ、各国の映画祭での特別上映が行なわれていますが、字幕入りのフィルムをわざわざ作らなくても字幕のデータだけを加えればよいDCP上映は、他国での上映にも最適です。小津安二郎監督の生誕110年&没後50年プロジェクトでも『彼岸花』『お早よう』『秋日和』『秋刀魚の味』の4作品のデジタルリマスター&DCP化と共に、各国での上映が決定しています。■このように旧作の上映においてもデジタル化の波は確実に影響を及ぼしていますが、新旧洋邦問わずあらゆる映画を上映するという当館のスタンスに変わりはありません。

— 後藤佑輔


初のDCP上映は5/25より大ヒット、フランス映画『最強のふたり』

2013/05/13 — 第279号

2012年末の時点で日本全国の映画館の数は601館、総スクリーン数は3290です。そのうちほぼ9割のスクリーンが、デジタル・シネマ・パッケージ(DCP)というデジタルデータを上映する“デジタル対応”となっています。●2009年のデジタル3D映画「アバター」以来、日本でも急速にデジタル映写設備の導入が進み、それに応じて新作映画は35ミリ・プリント(フィルム)とDCPが両方用意されるようになりました。そして、いよいよ今年になると、まったくプリントを作らずDCPだけで公開をする映画も多くなりました。新作映画を上映するロードショー館のほとんどは、従来の35ミリ・プリントではなくDCPというデータを専用の映写機で映写しているわけです。●当館は、主に古い日本映画の名作上映と、世界で今、製作されている新作映画の上映の二本柱で活動を行っています。旧作と新作のどちらかだけでいいというものではありません。古今東西の全ての映画を映画ファンの皆様に見ていただくのが新文芸坐の使命と考えています。●そういうわけで、当館もデジタル映写設備を導入し、今後はさらに一層、新作上映にも力を入れていきたいと思います。また古い日本映画の名作も、従来どおり35ミリ・プリントで上映を行っていきます。●当館での最初のDCP上映は、東京国際映画祭グランプリ・最優秀男優賞、セザール賞主演男優賞、そして2012年度新文芸坐ベストテン洋画部門第3位の大ヒット作品『最強のふたり』です。5/25より他の名画座に先駆けて上映します。大金持ちの白人男性と貧しい黒人の青年との、心と心の触れ合いを笑いと涙で描く感動作です。今まで以上のクリアーでシャープな映像をお楽しみください。

— 矢田庸一郎


ほろ苦い大人のファンタジー、『ミッドナイト・イン・パリ』

2013/04/25 — 第278号

当館では5/25〜31、ウディ・アレン監督作『ミッドナイト・イン・パリ』を上映します。大人のファンタジー映画です。新文芸坐のお客様は圧倒的に大人が多いはずです。是非ご覧ください。■思い出すのは、同じくウディ・アレンの『カイロの紫のバラ(1985)』という、ミア・ファローがヒロインを演じた作品。映画のスクリーンから憧れのヒーローが飛び出して、生身のヒロインと恋に落ちる……という、まあ言ってみれば荒唐無稽なファンタジーではあります。しかし結ばれるはずのない二人は、それぞれの世界に戻るのが定め。皆様が想像するとおりの、ほろ苦いラストが待っています。これが普通の大人の映画というものでしょう。■ほぼ同時期に『コクーン』という老人と宇宙人の交流を描いたSF映画がありまして、これには驚きました。老いがテーマであるにもかかわらず、人生の渋味も深みもまったくない、『カイロ…』とは真逆のラスト! 監督はロン・ハワードで、現実逃避のハッピーエンドとしては『スプラッシュ』で前科がありました(これは好き)。今でこそ立派なオスカー監督ですが、そんな時代もあったわけです。■さて『ミッドナイト・イン・パリ』は無論、大人の映画です。しかも苦くて甘い、毒のある映画です。ネタバレできないのでまずは本編をご覧いただくとして、ひと言申し上げておきたいのは、「私には無限の可能性があるんだ。いつか時機が来れば私の実力を世に問うてやる!」というタイプの御仁は、怪我をするぞ、ということであります。自分探しの旅の途にある人は、観ないが賢明です。人生の苦味を知る大人にこそ観て欲しい映画です。

— 関口芳雄


その原動力となった監督とは

2013/04/11 — 第277号

昨年のゴダールオールナイトにて、もっとゴダールを身近に感じてもらおうと、かつて池袋の映画館マガジン『buku』に執筆されていた映画評論家・大寺眞輔さんに上映前の“作品解説”をお願いした。大寺さんは「そうだ、ゴダールになろう!」という突飛な切り口で、見事難解の権化ともいえる作家の敷居をグンと下げてくれた。■その日の控え室で大寺さんは「今、ポルトガルに面白い監督がいる。どうにか日本でも上映したい」「既存の上映システムを変えていきたい」と熱く語っていたのが印象的だった。果たして大寺さん主宰の「DotDash」という上映団体が立ち上がる。誰も輸入しないのなら、その“面白い監督”の映画を自分で上映してしまえということだ。■スポンサーなし、自費とクラウドファンディング(ネット上での融資募集)で経費をまかない、本国との交渉も字幕付けも自分たちで行った。その試みはいつしかDIY(Do It Yourself)映画祭と呼ばれていた。私は(傍観者として)フリーメールやツイッターで進捗を見ていたので、少数のスタッフも含めかなりの苦労があったのを知っている。だからこそ監督の招聘が実現し、上映会の盛況を聞いたときは勝手に歓び、胸をなでおろした。さて、いったい大寺さんたちをそこまで突き動かした映画監督とは何者なのか。■それでは皆さん、ポルトガルの異才、ジョアン・ペドロ・ロドリゲスを紹介します。その才能を5/11のオールナイトで目に焼きつけてください。

— 花俟良王


映画を楽しむ重要な条件

2013/03/28 — 第276号

■三寒四温と思っていたら一気に暖かくなり、あっという間に桜の季節も過ぎてしまいました。3月は気温の変化が激しかったですね。3月の半ばには当館でも今年初めて空調で冷房を入れました。■当館ではお客様が快適に映画を鑑賞できるように、毎日空調の調節に気を付けております。休憩時間に毎回スタッフが場内に入り前方と後方に設置している温度計で気温を確認します。そして気温チェック表に記入して日々管理しています。■「快適な空調の調節」というのは実は意外に難しいです。業務用だからか細かい設定もできず、寒いので設定を一段階上げると今度はすごく暑くなったりします。また外気温にも左右され、同じ設定温度でも冷房や暖房の効き方が違ったりします。また感じ方も、同時に暑いと思う方や寒いと思う方がいたり、男性や女性、個人によってもかなり違います。■そういうわけでそれらをすべて考慮した上でベストを追求して空調の調節に励んでいます。しかし至らないこともありますので「寒い」「暑い」は積極的にスタッフにお申し出ください。ひざ掛けの貸出しやお座席のアドバイスなど、皆さまが心地よく映画を鑑賞できるようお力添えいたします。

— 釘宮あかね


3/28より「気になる日本映画達2012 Part 2」を開催

2013/03/15 — 第275号

『桐島、部活やめるってよ』が日本アカデミー賞最優秀作品賞など3冠! には正直ビックリ。「気になる日本映画2012」も旬の日本映画の勢いを感じながらお送りしたが、意外に日本映画、熱いじゃん。●この「Part2」の注目の4作品をご紹介。●『ニッポンの嘘』というタイトルからして何か人を不安にさせるものがある。学生運動、自衛隊、公害などニッポンの真実の姿を撮り続けた報道写真家・福島菊次郎90歳。2011年9月、彼は人生最後の取材場所として福島に向かう。一見、可愛いお爺さんの中には絶えることのない反骨精神がみなぎっている。淡々と語られる戦後史の真相の数々も衝撃的。キネ旬文化映画1位だが「文化映画」という枠をぶち破る感動作なのだ。●併映は『フタバから遠く離れて』。福島県双葉町の住民約1200人は町役場機能とともに遠く離れた埼玉県の高校に避難する。そんな避難住民たちの日常に寄り添った9ヶ月の記録である。テレビや新聞で見聞きしていたものは上っ面に過ぎなかったと思い知らされる。上映日3/28、19:45から両作品の監督のトークショーを開催。●3/30〜4/2はキネ旬1位『かぞくのくに』とキネ旬読者選出1位『鍵泥棒のメソッド』の二本立て。●『かぞくのくに』の監督はドキュメンタリー『ディア・ピョンヤン』などで世界的な評価を受けたヤン・ヨンヒ監督。北朝鮮に移住した彼女の実際の兄が、病気治療のため25年ぶりに来日し家族と過ごした数日間を劇映画として撮った。国境と家族、政治と人の絆など様々なことを考えさせる問題作。3/31、13:35よりヤン・ヨンヒ監督のトークショーを開催。●一方『鍵泥棒〜』は内田けんじ監督ならではの完璧に作り込まれたシナリオと演出が存分に楽しめる。読者選出1位も納得の出来だ。騙される快感に身も心も委ねてみては。

— 矢田庸一郎


故・大島渚監督の新文芸坐への「思い」「願い」

2013/03/01 — 第274号

■世界の映画監督・大島渚が亡くなった。その訃報は、一般社会にも大きな衝撃を与え、世界中の映画人からも悲しみのコメントが送られてきた。■新文芸坐開場の時には、大島監督から次のメッセージが寄せられた。

『日本の夜と霧』(60年)の再上映に始まって、ことあるごとに僕を呼び映画を上映してくれた文芸坐は、日本映画館のなかで一番縁が深かった映画館だ、と言っていい。

ひとつの映画館とこれほど結びつきがあったということは、ひとりの映画人として幸福なことだったと思う。そういう意味で文芸坐はいわば僕の映画の原点であり、また時には、一種、魂のふるさとのようにも感じられたものである。

たんにひとつの映画館というだけでなく、日本映画の礎となって文芸坐は池袋の地にありつづけてほしいと願う。

大島渚

■60年安保闘争を題材にした『日本の夜と霧』は、封切して4日目に起きた浅沼社会党委員長刺殺事件により、突然上映中止になり、大島監督は松竹を退社した。その後、63年に文芸坐で再上映されたことが、大島監督の復活を早める切っ掛けになった。半世紀前の出来事を大島監督が恩義に感じて、文芸坐(新文芸坐)に対する心情が吐露された言葉で光栄に思う。新文芸坐は、世界の映画監督・大島渚の思いと願いを肝に銘じて、邁進していくことを「大喝無量居士」に誓う。合掌。

— 永田稔


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