まんすりいコラム:2020年

テレキネシスに呼び起こされた私のプロムパーティー

2020/06/08

緊急事態宣言の中、『キャリー』(76)を初めて観た。

学校ではいじめられ、家ではキリスト教信者の母から虐待を受けていた主人公のキャリー。プロムパーティーのキャリーの止まらないテレキネシスは気持ちが良かった(あまり声を大きくして言えないが)。

『キャリー』を観て、アメリカの学校に通っていた学生時代を思い出した。もともと、友達も少なく、恋人もいない。人と話したり、コミニュケーションが苦手で、学生時代の思い出は多くない。アメリカの学校では、いじめはないがアジア人差別を受けてきた。苦い思い出の方が多い。どちらかと言えば、私もキャリーのようなタイプだった。

高校1年生の頃、友達からの誘いで初めてプロムパーティーに行った。私もキャリーのように誘われた事が嬉しかった。苦い思い出が多い中でも、輝かしい学生時代の思い出を作りたかった。

プロムパーティー当日。その日の為に用意した、黒のレースのドレスを着て、ヒールの高いショートブーツを履き、馴れない格好に着心地は決して良くなかったが、おめかしをして夜の学校へと向かう車内で内心とてもワクワクしていた。

学校に到着した時には緊張していたが、学校の中庭で流れるダンスミュージック、外壁に投影された映像、様々な装飾に心が踊った。全てがキラキラしていた。

内向的だが思い出作りにちょっと踊ったりした。気になっていた男の子には軽い挨拶しかできずモヤモヤした。ソフトドリンクにお酒が入ってると聞いてビビって飲めなかった事も今となっては良い思い出だ。思い返せば、プロムパーティーは輝かしい思い出になっていた。

キャリーにとってのプロムパーティーの輝きは一瞬で終わり、悲しみと怒りをもたらしたが、手作りのピンクのドレスを着て、男の子と幸せそうに踊り、キラキラとした笑顔のキャリーを思い出すと、あの一瞬には私のプロムパーティーの思い出は到底敵わないと、映画を観終えてそう思った。

— 矢内さくら


忘れ得ぬ美しき戦慄と婆ばの顔

2020/03/31

マリオとダリオと聞くと、のりお・よしおのような漫才師に聞こえるが、ツクツクボーシ!の方ではなく、ご存知イタリアンホラーの巨匠マリオ・バーヴァとダリオ・アルジェントのことである。■バーヴァはジャーロ(イタリア製猟奇スリラー)の父と呼ばれその起源は『知りすぎた少女』(63)からと言われる。アルジェントもジャーロ特有の残酷描写や色彩、黒ずくめの犯人、革手袋などの表現や美意識の文化を興隆させた1人だ。アルジェントの『サスペリア』(77)『インフェルノ』(80)の美しい極彩色はバーヴァの『モデル連続殺人!』(64)の影響が大きく、実際バーヴァが『インフェルノ』では特殊効果を担当。これがバーヴァの最後の仕事で、80年4/27に死去。今年は没後40周年だ。■バーヴァはもともと撮影監督として知られ、R・ロッセリーニやR・ウォルシュなどの撮影を経て、魔女ものゴシック・ホラーの傑作『血塗られた墓標』(60)で長編初監督。後の『バンパイアの惑星』(65)は『エイリアン』(79)の元ネタの1つ。オチが驚愕の『血みどろの入江』(71)は『13日の金曜日』(80)の元ネタだ。数多の作品で影響を与え、フェリーニ、ティム・バートン、タランティーノなども影響下にあり、如何に偉大かが伺える。■個人的にはオムニバスホラー『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』(63)の「一滴の水」がトラウマ。屋敷の主の交霊術好きの婆ばが亡くなったと呼び出された看護師のヒロインが、魔が差したのか婆ばの指輪を盗んだことで、亡霊婆ばに襲撃される話。原色を配した空間が幻想的で不安を煽るなか、断然この婆ばの顔が恐怖!現世に存在しない厭な悍ましさは悪霊そのもので、生涯忘れ得ない。(AKIRAのキヨコに激似!)■先述したジャーロの起源『知りすぎた少女』はヒッチコックの『知りすぎていた男』(56)が由来だが、バーヴァの2日後の4/29にそのヒッチ・コックが死去した。■この40年の節目で願わくはバーヴァの世界を劇場で享受したい。ホラーが苦手な人も虚心坦懐の想いで望めばこれ幸いである。そして、何の因果もないが想起すれば、のりお・よしおが活躍した漫才ブームは80年に始まるのであった。

— 平山晋也


『キャッツ』と猫と夢

2020/02/27

タイトルの通り今月のコラムは話題沸騰の映画『キャッツ』についてです。■名曲『メモリー』をはじめとした音楽、ダンス(タップダンスのシーンは見ごたえ抜群!)、展開、演出など、『キャッツ』について語りたいことはたくさんありますが、ここでは『キャッツ』に出てくる「猫」について取り上げようと思います。■この作品に出てくる猫たちは、人間とは別種の生き物であり、人間の想像や理解が及ばない存在です。SNSやテレビで日々消費される「可愛いネコちゃん」は一匹も出てきません。常識も、倫理も、嗜好も、私を含めた観客たちはほとんどついていけないでしょう。自分の場合、次々と繰り出される猫たちの歌と踊りと狂気の世界に、いつの間にか酔いしれてしまいました。■中途半端なジェンダーフリー要素もなければ、ご都合主義の恋愛要素もなく、人間に都合のいい猫が出てこない本作は、最初から最後まで猫たちの狂宴を見事に描き切りました。狂気の夢そのもののような作品のため、好き嫌いは確実に分かれます。それでも、観に行くのを悩んでいる方は、常識と偏見、それから映画の知識と猫への幻想を捨てて、『キャッツ』の世界にぜひ飛び込んでみてください。

— 浜本栄紀


エビス・ラビリンス

2020/01/31

秋刀魚のカレーを食べて恵比寿駅に向かう。20分歩いたところで立ち止まる。地図を見て駅からカレー屋に辿り着いたときは、10分もかからなかった。迷っている。これから映画を見る予定だが開映まで余裕がある。偶然行き着くかもしれないので、見覚えがある気がする道を行く。更に10分経つ。駅に近づく気配はない。スマートフォンの地図を開く。現在地が表示され即座に電源が落ちる。4年くらい使っているので寿命が近づいている。コンビニでは古い機種の充電器を扱っていないし、見渡す限り電気屋はない。歩き出すしかなかった。地図を一瞬見た感じではこっちだった気がする。自分を疑いながらも進む。映画に間に合わなかったらどうしようという不安が生まれる。時計を持っていないので時間が確認出来ない。気楽に迷っていた時間は終わってしまった。誰かに道を聞くしかない。シャイなので、全くの他人には話しかけられない。コンビニで水を買い店員のお姉さんに尋ねることにした。お姉さんは「ずっと、まっすぐまっすぐ。10分くらいかなあ」と教えてくれた。今までグネグネ好き勝手歩いていたのに、直進するだけでつくのかな。モタモタ足を動かす。お姉さんの言う通りに、駅はあった。お姉さんに、わんさか幸運が訪れますように。無事に『去年マリエンバートで』を見ることが出来た。上映中、道に迷っている時と同じ様な気持ちになった。今度は四次元の迷宮だった。

— 山下萌


明けましておめでとうございます

2020/01/01

日頃より、新文芸坐をご愛顧いただきまして誠にありがとうございます。

2020年も変わらず皆様にとって新たな感動や発見、出会いに満ちた場所でありたいと願っております。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

新文芸坐

矢田庸一郎 関口芳雄
梅原浩二 花俟良王 後藤佑輔
柳原弘 小澤麻梨子 山下萌 濱本栄紀 泉未来
藤井叶衣 新井暁介 笠原伊織 小池桔平 平山晋也 矢内さくら
松田恵理加 星野依子 西川由里子 多田優香 鹿取晋哉

— スタッフ一同


まんすりいコラム

2020/06/08
テレキネシスに呼び起こされた私のプロムパーティー
2020/03/31
忘れ得ぬ美しき戦慄と婆ばの顔
2020/02/27
『キャッツ』と猫と夢
2020/01/31
エビス・ラビリンス
2020/01/01
明けましておめでとうございます
2019/12/30
贅沢すぎる映画納め

年別アーカイブ