スタッフコラム

沸点

2021/07/15

■オールタイムベストである『3-4X10月』を新文芸坐で観た。中毒性が高くて何回でも観たくなる。すごく面白い映画だが、言語化出来ない異様さに心がひかれる。■耳に入る台詞は決して多くなく、音楽は流れない。それに相反して目に入るのは、一面に広がるバード・オブ・パラダイスの花々、爆破するタンクローリーなど目を引く映像。引き算的で、無駄のない演出、そして撮影技法は他に類を見ない。撮影中、9割は台本通りに行かず咄嗟に出たアイデアで演出が変更。その場の判断で荒削りで行われていたはずだ。万が一、時間を掛けて綿密に台本を作り撮影をしても、この映画の持つ絶妙なバランス感覚には叶わないだろう。■”軍団、野放し”とのキャッチコピー通り、この映画には当時のたけし軍団の一軍メンバーが勢揃いで登場している。井口薫仁(ガナルカナル・タカ)演じる隆志はバカヤロー、コノヤローを口にしては、FICCEのセーターを着て、まるでたけしのようだ。隆志が店に来た失礼な女の客をガラスの灰皿で殴るシーン。客だからとか女だからとか、躊躇もなく殴るあのシーンは、女の連れ達が静まり返るのも含めて映画的に最高のシーンだと思う。許されない暴力を許してしまう映画の力は恐ろしい。■一方、飯塚実(ダンカン)演じる和男が沖縄から戻り組の事務所に乗り込むシーン。和男は沖縄土産を芦川誠演じる朗に渡すが、和男は沖縄土産のパイナップルを片手に組員に抗うことになるのだ。パイナップルはコントの道具の役割りを果たしている。勿論、抗える訳もなくボコボコにされた和男と朗の横に並ぶ血の付いたパイナップルの姿はなんとも滑稽で面白い。■小野昌彦(柳ユーレイ)演じる雅樹が、石田ゆり子演じるガールフレンドのサヤカをタンクローリーに乗せて組に突っ込むシーン。やられっぱなしの主人公が逆転ホームランを決めたのだ。しかし、それは主人公の夢だった。「振んなきゃ始まんないよ」という台詞があるが、現実では振り切れない、もどかしさや切なさとともにこの映画は終わる。ただのバイオレンスや、コントのようなギャグ的要素だけではない。空ろな気持ちが晴れないまま、場内の灯りがついた。

— 矢内さくら 検索