スタッフコラム

2020年4月9日のこと。

2021/09/16

■一回目の緊急事態宣言が2020年4月に発令され、新文芸坐は2020年4月11日からの長期休業が決定した。図らずもシフトの関係で4月9日が私の休業前最後の出勤日となったのだが、この日に見た光景がいまでも忘れられない。■休業決定後、映写の人々は繋いだプリントを全てばらし、上映素材を残らず配給会社へ返却する作業に追われた。営業さんたちは関係各所への連絡や各方面へ休業の告知、受付スタッフは商品の片付けや清掃など、全スタッフが長期休業に備えるための仕事で忙殺された。■19時。3階のロビーに降りて驚いた。ポスターやチラシの類がすべて取り払われ、ロビーはがらーんとしていた。オープン当初のロビーが出現したのである。シネマテークも、オールナイトも、旧作邦画特集のポスターもなにもないロビー。このときの光景はトラウマになっているらしく、いまでもたまに悪夢でみることがある。できれば、二度と見たくない光景だ。■映画館は「ちょっと先の未来」が常にある空間だ。新文芸坐の場合は来場した時点から向こう一カ月程だが、場所によっては数カ月先に上映する作品が館内で告知されている。それはシネコンもミニシアターも同じ。ポスターやチラシ、上映前の予告編たちがちょっと先の未来をお知らせし、それはお客様のちょっと先の予定となり、ひいてはその日まで生きるための目標になる。それが完全に失われてしまったのだ。2020年4月9日に。■幸い当館は2020年6月1日から再開することができ、今日まで営業が継続できている。が、様々な制約による厳しい状況は相変わらず続いている。それでも、ロビーを彩るポスターの数々を見るたび、ほっとする自分がいる。辛うじて映画館には、ちょっと先の未来が戻ってきているのだから。

— 浜本栄紀 検索