スタッフコラム

ほろ苦さと甘酸っぱさ
『SWEET SIXTEEN』と『僕のスウィング』(6/14〜20上映)

2003/05/16 — 第68号

『SWEET SIXTEEN』の監督、ケン・ローチの映画に共通するのは労働者階級、貧困、抑圧といったテーマであろうか。人間の自由と尊厳を見つめる姿勢ともいえるかもしれない。一方で彼の映画には、どことなくユーモラスな人間が必ず出てくる。けっこう辛い話の時でも、そういった人物たちのクスクス笑いが見る方の体の緊張感を解きほぐしてくれる。■ケン・ローチは決してハリウッドで映画を撮ったりしないと思う。きっと生涯、貧乏人や抑圧された人々の映画を撮り続けるのだと思う。ケン・ローチが素晴らしいのは理想をふりかざさないことと、映画の中で間抜けな人間を描いても、彼らを決してしからないことだ。揺るぎない信念と人間への優しさ。彼の映画はこれに尽きる。■『僕のスウィング』の監督、トニー・ガトリフのキーワードは、自身のルーツでもある“ロマ”。ロマとはジプシーの自称である。彼らは約千年前に北西インドからヨーロッパに移動し、各地に分散、定住する。彼らへの呼称は地域で異なりドイツではシンティやツィゴイネル、フランス南部ではジタン、スペインではヒターノ、イギリスではジプシー。今では差別的なジプシーの名を嫌い人間という意味のロマを名乗る人が多い。■夏休みにフランス北部の祖母の下に預けられた少年と、土地のロマの少女との触れ合いをほとばしるような瑞々しい映像で綴る一編だ。この映画の一番の魅力は、映画の中で常に響き渡る個性豊かな音楽たち。中でもこの地方のロマの呼称、マヌーシュに由来する軽やかでいて物悲しい“マヌーシュ・スウィング”の旋律に心を奪われる。■1枚のチケットでいろんな味わいを楽しめる二本です。でも見終わると、ちょっと胸が痛くなる、そんな二本立てでもあります。

— 矢田庸一郎 検索