スタッフコラム

『キャッツ』と猫と夢

2020/02/27

タイトルの通り今月のコラムは話題沸騰の映画『キャッツ』についてです。

名曲『メモリー』をはじめとした音楽、ダンス(タップダンスのシーンは見ごたえ抜群!)、展開、演出など、『キャッツ』について語りたいことはたくさんありますが、ここでは『キャッツ』に出てくる「猫」について取り上げようと思います。

この作品に出てくる猫たちは、人間とは別種の生き物であり、人間の想像や理解が及ばない存在です。SNSやテレビで日々消費される「可愛いネコちゃん」は一匹も出てきません。常識も、倫理も、嗜好も、私を含めた観客たちはほとんどついていけないでしょう。自分の場合、次々と繰り出される猫たちの歌と踊りと狂気の世界に、いつの間にか酔いしれてしまいました。

中途半端なジェンダーフリー要素もなければ、ご都合主義の恋愛要素もなく、人間に都合のいい猫が出てこない本作は、最初から最後まで猫たちの狂宴を見事に描き切りました。狂気の夢そのもののような作品のため、好き嫌いは確実に分かれます。それでも、観に行くのを悩んでいる方は、常識と偏見、それから映画の知識と猫への幻想を捨てて、『キャッツ』の世界にぜひ飛び込んでみてください。

— 浜本栄紀


エビス・ラビリンス

2020/01/31

秋刀魚のカレーを食べて恵比寿駅に向かう。20分歩いたところで立ち止まる。地図を見て駅からカレー屋に辿り着いたときは、10分もかからなかった。迷っている。これから映画を見る予定だが開映まで余裕がある。偶然行き着くかもしれないので、見覚えがある気がする道を行く。更に10分経つ。駅に近づく気配はない。スマートフォンの地図を開く。現在地が表示され即座に電源が落ちる。4年くらい使っているので寿命が近づいている。コンビニでは古い機種の充電器を扱っていないし、見渡す限り電気屋はない。歩き出すしかなかった。地図を一瞬見た感じではこっちだった気がする。自分を疑いながらも進む。映画に間に合わなかったらどうしようという不安が生まれる。時計を持っていないので時間が確認出来ない。気楽に迷っていた時間は終わってしまった。誰かに道を聞くしかない。シャイなので、全くの他人には話しかけられない。コンビニで水を買い店員のお姉さんに尋ねることにした。お姉さんは「ずっと、まっすぐまっすぐ。10分くらいかなあ」と教えてくれた。今までグネグネ好き勝手歩いていたのに、直進するだけでつくのかな。モタモタ足を動かす。お姉さんの言う通りに、駅はあった。お姉さんに、わんさか幸運が訪れますように。無事に『去年マリエンバートで』を見ることが出来た。上映中、道に迷っている時と同じ様な気持ちになった。今度は四次元の迷宮だった。

— 山下萌


明けましておめでとうございます

2020/01/01

日頃より、新文芸坐をご愛顧いただきまして誠にありがとうございます。

2020年も変わらず皆様にとって新たな感動や発見、出会いに満ちた場所でありたいと願っております。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

新文芸坐

矢田庸一郎 関口芳雄
梅原浩二 花俟良王 後藤佑輔
柳原弘 小澤麻梨子 山下萌 濱本栄紀 泉未来
藤井叶衣 新井暁介 笠原伊織 小池桔平 平山晋也 矢内さくら
松田恵理加 星野依子 西川由里子 多田優香 鹿取晋哉

— スタッフ一同


贅沢すぎる映画納め

2019/12/30

年末に、久しぶりにシネマ・コンサートに行ってきました。大ホールで映画を上映して、音楽は全て生演奏というアレです。今回観に行った作品は、小中学生のときにどハマりしたファンタジーシリーズのうちの1編。

チケット代は1万円程度。洋画邦画、新作旧作問わず様々なシネマ・コンサートがあるようで、懐かしの名作を大スクリーン・生演奏で楽しめるなら、多少高くてもついつい買ってしまうものです。

シネマ・コンサートは笑うのも、拍手するのも、悪役にブーイングもOKとの指南があったので、上映中はタイトルが出たら拍手、主人公登場で拍手、オーケストラが一曲演奏したら拍手・・・映画を観て、演奏も聞いて、拍手もして、なかなか忙しいのです。生演奏だと、「ここにこんな音が入っていたの!?」など、新たな発見がたくさんあります。そしてメインテーマが演奏された時の高揚感たるや! 映画に集中しすぎて生演奏であることを忘れる瞬間もありますが、それだけオケの演奏が正確で、技術が高いのでしょう。

エンドロールでやっと演奏に集中できるようになります。そこでも拍手は起こり、作曲家の名前でひときわ大きな拍手。「作曲家の才能がなければ、シネマ・コンサートは実現し得ません!」という開演前の指揮者の言葉を、観客全員が噛みしめた瞬間でした。

その日の帰宅後、久しぶりにサントラCDを聴きました。おそらく、一週間は聴き続けるでしょうし、気が付けば口ずさんでいる状態が続きそうです。15年前に初めてこの映画を観たときのように。

— 泉未来


偉業の傍らで

2019/11/30

「よく見ていられるな」――エル・キャピタンをフリーソロで完登するという前人未踏の挑戦の最中に、撮影クルーのひとりが同僚たちに呟いた一言だ。映画『フリーソロ』のワンシーンでもある。

〈エル・キャピタン〉とはアメリカのカリフォルニア州、ヨセミテ国立公園にある約1000メートルの断崖絶壁だ。そして〈フリーソロ〉とは一切の確保用具を用いず、自らの身体のみで登攀するクライミングの一種だ。つまり、エル・キャピタンのフリーソロで起こるミスは死に直結するといっても過言ではない。その映像の凄まじさは筆舌に尽くし難いもので、是非、見ることで圧倒されてほしい。

しかし、本作においてその圧倒的な映像が映し出されるのは終盤の20分ほどのみである。それまでの映像は、挑戦者アレックス・オノルドに積極的あるいは消極的に協力する者たちの描写に割かれる。クライマックスの20分でさえも、カメラマンたちの仕事やその緊張溢れる言動が映される。彼らが頻りに問題にするのは、関わることで与えるアレックスへの影響だ。彼らの仕事が、言動がアレックスを死に誘うかもしれない。つまり本作は、撮ること、ひいては関わることの暴力性への恐怖に焦点が当てられたドキュメンタリー映画なのだ。

しかし、同時に美しくもある。関係者はそれぞれの仕方でアレックスを尊重し、挑戦者のアレックスさえも彼らに配慮する。もっとも見るべきはクライマックス、最後の20分ではないのかもしれない。むしろ最後の20分など見てはいけないのかもしれない。壮大な自然、超人的な技術、敬意に満ちた繋がりを見た僕は何者なのだろうか。単なる出歯亀に過ぎないのでは? ほんの少し前に書いた言葉を撤回するべきだろうか。「是非、見ることで圧倒されてほしい」? 果たして冒頭の一言は、彼の同僚たちにのみ投げかけられた言葉なのだろうか。

— 新井暁介


理想の休暇

2019/10/18 — 第368号

仕事の合間のはぎれのような時間にふっと頭に浮かぶ益体もないことがいくつかあって、そのうちの一つが「理想の休暇の過ごし方」だ。一か月くらいは欲しい。大きくも小さくもない、自然豊かな街に行き、浮世の憂さを晴らして心ゆくまでゆっくりのんびりするのだ。■外国の映画を観ていると「休むこと」がうまいな、と思う。『君の名前で僕を呼んで』でも『世界の涯ての鼓動』でも、主人公たちは実にうまく「休んでいる」のだった。彼らは休暇に成果や効率を求めない。せっかく来たんだからあそこに行かなきゃ、あれを食べなきゃ、そういう「もとを取る」行為が全くない。■散歩や昼寝、軽い運動に、おしゃべりをしながらゆっくりと摂る食事。「何もしない」ことの贅沢さやゆったりと流れる時間が観ているこちらにも伝わってきて、羨ましさのあまり悶え死にしそうになる。■私は修業が足りないので、休みを取ってどこかへ行ってもついついもとを取りそうになるのだった。温泉地に行くのはいいとしても、三日間で十数回の入浴はむしろ体に毒だろう。一日の入浴は三回以下にしましょうね、とだいたいどの温泉に行っても書いてあるのに。あと土産店の試食コーナーに出ているお菓子や漬物を片っ端から食べるのもあまりよろしくない気がする。ジェームズ・マカヴォイもティモシー・シャラメも多分そんなことしない。「理想の休暇」への道のりは、長く険しい。

— 小澤麻梨子


《半券を集めて抽選プレゼントを当てよう》キャンペーン開催!

2019/09/24 — 第367号

日頃のご愛顧に感謝いたしまして、プレゼントをご用意しました。入場チケットの半券を3枚集めてご応募ください。半券の日付は、2019年10月1日~10月31日に限ります。ご応募された方には抽選券をお渡しいたします。

A賞(15名様) 半年間有効 ご招待券(通常興行のみ使用可)
B賞(30名様) 新文芸坐オリジナル ハンドタオル
C賞(100名様) 1か月間有効 HOTコーヒー無料券

以上の中から、抽選でプレゼントが当たります。ご応募は10月末日まで受付にて承ります。後日、ロビーに当選番号を掲出いたします。当選番号の抽選券を12/31(火)までに受付にお持ちください。プレゼント品と交換いたします。ご不明な点は劇場スタッフにお問い合わせください。

— スタッフ


For 京都アニメーション

2019/08/19 — 第366号

京都アニメーションの事件が発生して一ヶ月が経ちます。当館では4月のアニメスタイルオールナイトで京都アニメーション製作の『リズと青い鳥』を上映したばかりでした。高校時代は『らき☆すた』や『CLANNAD』、大学時代は『日常』や『氷菓』に夢中だったので、京アニ作品の上映が決まったときはいつにも増して嬉しかったのを覚えています。■新文芸坐に入って四年が経ち、多くの映画人たちの追悼特集を経験しました。誰かが亡くなるたび悲しみは尽きませんが、今回の事件については、悲しみにも怒りにも気持ちが定まらないまま一ヶ月が過ぎようとしています。■先日、京アニが手掛けたコメディ作品『フルメタル・パニック!ふもっふ』を見返しました。久しぶりだったのもありますが、あまりのおもしろさに腹を抱えて笑いました。そうして笑い転げながら、京アニのアニメがどうしようもなく好きであることを再認識でき、その気持ちが失われていないことに安心しました。■悲しいことは容赦なく襲ってくる。心が折れることも、疲れることもある。それでも、作品が好きな気持ちだけは絶対に失ってなるものか、と強く思うのです。

— 浜本栄紀


北野武アンコールに寄せて

2019/07/29 — 第365号

5月に行われたオールナイト【初期の北野武 35mmフィルムで堪能する不穏と暴力の刹那】はお陰様で満員御礼の完売でした。特に若い方に人気で、8/4(日)にはアンコールとして北野作品が昼の番組で組まれます。今回は『その男、凶暴につき』『キッズ・リターン』『HANA-BI』の三本立て。■ヤクザやチンピラを描きつつもその生態や心情を説明的に描くことはしない北野映画は、前提として若者も入門しやすいのかもしれません。その上「組織の中の個人」や「はみ出し者/アウトサイダー」や「法外での絆」というヤクザ映画的主題は、最近の『万引き家族』や『新聞記者』、この間の吉本騒動など最近の映画やニュースを見る限りでも、古いようでまだまだアクチュアルな主題が個別的には含まれているのだとわかります。■5月と8月の北野武番組の間に挟まれるように、7月には降旗康男監督の追悼特集が組まれ、高倉健らの出演したヤクザ映画もいくつか上映されました。とても名画座らしい偶然。毎日のように来ていただいている方にはミニ日本映画史講座のようなラインナップだったのかなと想像します。特集のトリを飾るのは高倉健と北野武(ビートたけし)が共演した『夜叉』(1985)。健さんが最後のヤクザ役(正確には元ヤクザ役)で、ビートたけしが初めてのヤクザ役で出演した作品で、この時にバトンが渡されたのかなと考えたくなります。『この男、凶暴につき』が公開されるのはこの4年後です。

— 笠原伊織


7/7より「キネマ旬報ベスト・テンからたどる昭和・戦後映画史」

2019/06/28 — 第364号

キネマ旬報は今年、創刊100年を迎えます。創刊は1919年(大正8年)7月11日。ウィキペディアで創刊号の表紙の写真が見られます。マーガリータ・フィッシャーの写真とともに、『私共は活動寫眞が並はずれて好きなのであります』という文章で始まる、「御あいさつ」と題された慎ましく可愛らしい文章が載っています。

日本で最も権威のある映画賞と言っても恐らく間違いはないキネマ旬報ベスト・テンですが、そのスタートはまだ無声映画時代の1924年。カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの世界三大映画祭は言うに及ばず、アメリカのアカデミー賞創設よりも3年古く、世界最古のクラスの映画賞と言われるゆえんです。

当館では7月7日より、昭和の戦後の日本映画ベスト・ワン作品から20作品を選び上映をします。上映作品は、史上最多の6本のベスト・ワン作品を世に出した小津安二郎監督作品からは『晩春』『麦秋』。25回のベスト・テン入り果たした黒澤明監督作品からは『生きる』『赤ひげ』。5回のベスト・ワン作品を出した今村昌平監督作品から『にっぽん昆虫記』『復讐するは我にあり』など。

7月9日は14時40分より、70年代よりベスト・テン選考委員を務められ「映画を見ればわかること」の連載でもお馴染みの川本三郎さんと、10代目の編集長を務められた植草信和さん、13代目の編集長だった関口裕子さんのお三方のトークショーも開催します。

— 矢田庸一郎


スタッフコラム

2021/04/14
メロンソーダと一緒
2021/03/15
愛しのサンゴ―
2021/02/19
後始末
2021/01/15
映画は映画館で観るもの
2021/01/01
明けましておめでとうございます
2020/11/13
正直、まだ実感できていません。

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