スタッフコラム

今年の「気になる日本映画達2007」のイチオシは、

2008/03/01 — 第183号

『ヒロシマナガサキ』と『夕凪の街 桜の国』の二本立て。『ヒロシマ〜』は、記録映像などを交えながら、被爆者の方々や原爆に関与したアメリカ人たちの証言を捉えたドキュメンタリーです。圧倒的な映像の前に、見る者はほとんど言葉を失ってしまいます。声にならない声がふつふつと湧き上がってきますが、一つの言葉に収まりきらないのです。広島、長崎について様々なことを知ったことも勿論重要ですが、映画を見ながら、言葉にならない思いをずっしり抱えた自分自身と、否応なく向き合ったことも貴重だったと思います。■『夕凪の街〜』は文化庁メディア芸術祭大賞などを受賞した、こうの史代さんのマンガの映画化作品。原爆投下から13年後の広島を舞台に、健気に生きる被爆者の娘・皆実の姿を切なくも温かい眼差しで描いた「夕凪の街」。現代の東京で暮す皆実の姪が、広島を訪れ家族のルーツを見つめ直す「桜の国」。映画は、この2つの物語から構成されています。■実は私の場合、この映画の特に「夕凪の街」の部分で、もう滂沱の状態に……。■こうのさんは1968年広島生まれで、「被爆二世でもない」そうです。映画を見た後に原作を読んで思ったことは、こうのさんは、被爆者の方々の魂や思いを汚したり辱しめたりしないことを第一に思いながら、このマンガを描いたのではないか。この映画の佐々部清監督は、こうのさんの作品世界を汚さないことを第一に思いながら、映画を撮ったのではないかと。■こうのさんの伸び伸びとした柔らかいタッチのマンガから、佐々部監督の慎ましく温かい画面から、被爆者の方々の魂の声が聞えてきたように思えました。

— 矢田庸一郎


ブレードランナー ファイナルカット

2008/02/16 — 第182号

幾多のバージョンが存在するいわくつきの映画ですが、今回は何と新たにハリソン・フォードの息子が出演しているのです!! と言っても口元だけですが・・・。撮影時にハリソン・フォードが言った台詞が、後で変更されたため、画面の口の動きと話されている台詞が違っている場面があるのです。それを修正するため、当時のハリソンに口元が似ている息子に、台詞に合わせ口を動かしてもらい、後でハリソンの顔にデジタル合成し、出演と相成ったのです。他にもスローモーションのせいでスタントマンの顔がバレバレのシーンを役者本人の顔に差し替えたり、ワイヤーを消したりと、様々なデジタル処理が行われているようなのですが、取って付けた様なCGを入れるようなものではないので、マニアでない限りどの場面をいじっているのかよく判らないものが多いです。●個人的には「最終版」から変更となった、主人公のデッカードが実は○○○○○○だったというのは、どうにも後で取って付けたような印象が拭えず、馴染めないですし、英語が分からないのでどの程度「ひどい」のか判らないのですが、ナレーションもあったほうが編集上、間が抜けてないような気もします。また今回2Kのデジタル上映だったことも残念でした。●しかし公開当時不遇だった映画が25年たっても、監督本人が少なからぬ予算で映画を修正する機会に恵まれ、それが商売になるというのは極めて異例なことです。いまだハリウッドではこの映画に匹敵するSF映画を作りえていない状況がそれを可能にしているのならば、このことは少々不幸なことなのかも知れません。しかし久しぶりに優雅に飛ぶスピナーをスクリーンで見られただけでも幸福だというのもまた事実なのです。

— 梅原浩二


いつか壊したい壁なのです

2008/02/01 — 第181号

日に何十件と問い合わせの電話をいただきます。一番多いのは上映時間と場所の確認ですが、最近増えたのが時間を確認した上で「で、今何やってるの?」という流れ。はたから聞けばあべこべかも知れませんが、これは大変嬉しい。作品の内容は二の次で、ある種の信頼で当館へ足を運んでいただける。商売的なことよりも、日々の上映を通じてこのような関係が築けたことが私たちのささやかな誇りになるのです。この信頼を維持しなければと自分に渇を入れながら「『インランド・エンパイア』という洋画です!」と何度も答えた正月でした。◆しかし、そんな素晴らしい関係をぶち壊すジャンルがあるのです。それはホラーとアニメーション。血肉飛び散るホラーを拒絶するのは人道的に納得がいきますが、「○○というアニメ作品……」と言った瞬間に「じゃあいいや」の言葉をいただく時の切なさ。もちろん好き嫌いは十人十色、ましてお客様に好みを押し付けるなど以ての外。しかし現在の、特に日本のアニメ映画のレベルの高さ・面白さを伝える機会を逃したと思うとやはり切ないのです。◆今敏(こん・さとし)というアニメ映画監督は、オタク文化を痛烈に皮肉った『パーフェクトブルー』でデビューして以来、アニメ“を”見せるのではなく、アニメ“で”見せることを常に意識してきた作家です。作品世界を堪能させるだけではなく、なぜアニメなのか、という問いの答えを探す喜びを与えてくれます。その典型的な傑作『千年女優』は今回事情により上映できませんが、まずは現在の集大成的作品『パプリカ』をご覧ください。「じゃあいいや」で済ますにはあまりに惜しい、先進的な“映画”がそこにあります。2/16は今敏監督(来館!!)の特集オールナイトです。

— 花俟良王


涙の理由は

2008/01/16 — 第180号

フィクションの世界のヒーローたちは問答無用の最終兵器を持っています。例えばウルトラマンのスペシウム光線。フィクション故にその威力の程は不明ですが、たいがいの怪獣はあの光線でイチコロです。これを避けて逆襲に転じるなど、良識ある怪獣ならできないことです。水戸黄門の印籠も然り。平成の世に暮らす我々には理解不能な「三つ葉葵の紋所がでたら、逆らっちゃダメ」という掟が、悪党どもには効力を発揮するのでしょう。■諺に“泣く子と地頭には勝てぬ”というものがあります。道理の通じない者と権力者に勝負を挑んでも、勝ち目はないという意味です。もうひとつ、我々オトコが勝てないものに、“女の涙”というものがあるのではないでしょうか。決まった時間帯に出されるスペシウム光線や印籠と違い、予測不能なタイミングで繰り出されるのが“女の涙”の特徴です。昔、数人グループでディズニーランドへ行ったときのこと。突然ひとりの女の子が泣き出して「もう帰りたい!」と言いだし、誰もその涙に抗えず全員で帰路についたことがありました。涙の理由も不明でしたが、その突然さにも驚かされたものです。■「河童のクゥと夏休み」を観て、とても印象的な場面がありました。息子が初めての一人旅に出る日。家の前から見送った母が涙を見せるのです。傍らの夫は涙の意味が分からず理由を訊くと、息子がこちらを振り向きもせずに角を曲がってしまったからだと答えます。私は、ヘェー女ってこういうことで泣くんだ!と感心したものです。鑑賞後に妻にそのことを話すと、その涙はよく理解できるというのです。この脚本を書いた男は凄い! というわけで、女の涙を解する原恵一監督のオールナイトは、2/2(土)。

— 関口芳雄


あけましておめでとうございます

2008/01/01 — 第179号

旧年中は、ご愛顧いただき心より御礼申し上げます。

本年も、〈感動はスクリーンから〉をモットーに、皆様が映画を通して感動、興奮するような、心豊かになる番組を提供していきたいと考えております。

どうぞ宜しくお願い申し上げます。

2008年1月1日

新文芸坐
支配人 永田稔
関口芳雄 矢田庸一郎 梅原浩二 花俟良王 後藤佑輔 柳原弘
佐野久仁子 髙橋悦子 西本布美子 髙橋夏枝 釘宮あかね 浅香ノリ

— スタッフ一同


映画にもあった賞味期限!?

2007/12/16 — 第178号

ちょっと前まで「暑い、暑い」と言っていたのに、いつの間にか「一年が早いですね!」が挨拶になり師走になっていた。新文芸坐は、今年も名画座的番組と二番館的番組を織り交ぜた通常興行と、終夜興行とを合わせると例年通り600本以上の作品を上映した。■今年のニュースの中で、伊勢の赤福、北海道の白い恋人、船場の吉兆などの有名な老舗からマクドナルド、ローソンまでが、賞味期限を改ざんしたり、食肉会社は食肉を偽装していたことが発覚して社会を騒然とさせた。■映画にも賞味期限があることを知らされた作品があった。新文芸坐の今年のワースト・ワンの番組は、『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』『ラッシュアワー3』の二本立てである。5月に公開された『パイレーツ・オブ・カリビアン〜』は、洋画で今年最も観客動員した映画として興行組合から“ゴールデングロス賞”を受けた。(邦画は『HERO』) 6ヵ月後に上映した時には、賞味期限が切れてしまったのか、動員力が失われていた。■『パイレーツ〜』は、多額の宣伝費を使って、当時としては史上最多の670スクリーンで公開した。全国津々浦々で、一気呵成に観客を集めようという戦略である。そんな配給会社の戦略は、商売としては成功したが、映画の商品価値を一瞬で消耗させたように思う。■山口県防府市の小俣八幡神社では、年末の神事として鎌倉時代から続いている奇祭、三回大笑いする《笑い講》が行われる。第一の笑いは、今年の豊作を感謝して、第二の笑いは、来年の豊作を祈念して、第三の笑いは、今年の憂さを晴らすために笑う。大きな笑い声は、五穀豊穣を祈念するばかりでなく、家内安全、健康増進、世界平和を願うなどの"招福の笑い"となる。大笑いして来年の幸運を呼び込んで新年をむかえたいと思う。

— 永田稔


名画座の、とある2本立て

2007/12/01 — 第177号

見逃していた『ロッキー・ザ・ファイナル』を当館で見た。評判に違わず、いやぁ〜泣けました。■私の友人に映画を年に400本以上見る猛者がいる。彼はロードショーで見ていて、今年のベスト5の1本と言っていた。いくらなんでもと、そのときは思ったが、見たら納得だった。■私の持論に“本当にいい映画は、もうストーリーはあまり重要でない”というのがある。この映画がいい例だ。かつてのチャンプも年老いて、最愛の妻にも先立たれ、虚ろな日々。しかしNEVER GIVE UP、人生を諦めるなと再びリングに……。ありきたりのベタな話。だが大筋と関係ない細部に、機知とユーモアをまぶしたちょっとした出来事、セリフの数々。これが妙に心地よい。シーンの連携も無駄がない。映画が転がるように進んでいく。“分かりやすいイイ話”がクサくならずストレートに胸に迫る。■映画の冒頭、ロッキーを侮辱する若者たちが出てくる。そしてラスト近く、ロッキーの試合を大勢が声援を上げながらテレビ観戦する酒場のシーン。カメラはその中に、息をのむようにしてテレビ画面に食い入る若者の姿を捉える。ロッキーを侮辱したあの若者たちだった……。このようなシーンがさりげなく挿入され、ラストの感動は一層鮮やかに浮かび上がる。■併映は『ダイ・ハード4.0』。『ロッキー〜』ほどではないけれど出来は悪くない。ある映画会社の男性が見に来て「凄いイイ2本立てですね!」言ってくれた。“ロートルおやじが体をはって頑張る”という2本立てのココロにも感心してくれたようだ。■ところでだが『ロッキー〜』にはパソコンは勿論、携帯電話すら登場しないんだゾ!
PS.来年はスタローン監督・主演の『ランボー4』がいよいよ公開です。

— 矢田庸一郎


昭和32年へタイムスリップ!

2007/11/16 — 第176号

新文芸坐を傘下に置く(株)マルハンの創業は、現会長の韓昌祐(ハン チャンウ)が京都府の丹後地方の峰山町で、クラシック音楽を聴かせる名曲喫茶《るーちぇ》を始めた1957年5月である。峰山町は、古い城下町で格式が高く、教養人が多い町であり、“丹後ちりめん”の生産地であったので、買い付けにくる商社マン、問屋の旦那衆で賑わっていたという。■当時、うどん一杯20円、ラーメン30円、ロードショー、封切り館の入場料金は150円、場末の名画座は三本立て50円の時代に、《るーちぇ》ではコーヒー一杯60円の値段でも大繁盛したという。■今年、創業50周年を迎えた(株)マルハンは、資本金100億円、3月の決算では全国にパチンコ店219店舗、ボウリング場、新文芸坐などレジャー施設14店舗を経営し、従業員8,428名、売り上げ1兆8149億円、海外に事業を展開するまでに発展する大企業になった。■昭和32年当時は、神武景気と言われていた時代で、映画界はモノクロからカラーへ、スタンダードからシネマスコープの大型画面へと、技術革新も目覚しく“娯楽の王様”として君臨していた。翌年には、映画史上最高の11億2700万人を動員した。■昭和32年に公開された日本映画は、キネ旬№1『米』、興行成績№1『明治天皇と日露大戦争』の他に『喜びも悲しみも幾年月』『幕末太陽伝』『蜘蛛巣城』『雪国』『東京暮色』『あらくれ』など評価の高い、次世代に伝えていくべき名作、傑作が多い。■マルハン創業50周年、新文芸坐7周年記念は、当時公開された作品で上映可能な作品を映画評論家・寺脇研さんの監修により、ゲストを招いての特集番組を企画した。21世紀の現在でも見応えのある50年前の作品を是非ご覧ください。

— 永田稔


『ラッシュアワー3』のほろ苦い感動

2007/11/01 — 第175号

『ラッシュアワー3』を上映します。◆1979年、カンフー映画の輸入に熱心だった東映の『トラック野郎』の併映で公開された『ドランク・モンキー/酔拳』以来、日本男子のヒーローであり続けるジャッキー・チェンですが、念願のアメリカ進出の壁は厚かったのです。80年に『バトルクリーク・ブロー』、85年に『プロテクター』がアメリカで作られますが、コミカルでアクロバティック、そして“温かさ”という彼の最大の魅力を知らない監督との衝突の末、進出は失敗に終わっています。ファンとしてはこれが本当に悔やまれる。香港では80年に『ヤング・マスター』、84年には『プロジェクトA』という屈指の傑作が撮られているのですから。タランティーノらの声高なリスペクトもあり95年香港製作の『レッド・ブロンクス』がアジア映画初の全米初登場1位の大ヒットとなり、98年『ラッシュアワー』の第1作でやっと不動の人気を勝ち取ったのです。◆そして、最近はアクションを封印して演技派として活躍する我らが真田広之。『ラストサムライ』でも見せなかった彼のアクションが遂にアメリカで解禁されるのです。しかも相手はジャッキー・チェン。20年以上前「デューク真田」として海外に売り込んでいた頃にこの二人の対決が実現していたら、アクション映画の歴史は変わっていたかもしれない……と一瞬思いましたが、もはや叶わぬ夢。今は世界を目指したアジアの二大スターが、こうしてハリウッドで対決する幸せに身を委ねましょう。実際、年齢を感じさせない迫力の立ち回りには感動します。勝手な達成感で目頭も熱くなります。◆“待ちに待った”対決は11月10日(土)から。

— 花俟良王


同じ轍を踏まないために

2007/10/16 — 第174号

つい先日の出来事です。電話で「新聞で見たのですが『雨に唄えば』は今日だけの上映ですか?」との問いに、そうですと答えると「ああ、残念。じゃ、結構です」ガチャン! ジーン・ケリーのファンかもしれず、せめて後日『錨を上げて』も上映しますよと教えてあげたかったのですが……。その電話の方は新聞には当日の上映作しか載らないことを知り、前もって知っていればと後悔したかもしれません。しかし今、既に同じ失敗を繰り返しているかもしれないことに気づいていません。近日中に、また観たい映画が上映されていることを新聞で知らされるという失敗を。■ウディ・アレンの『カメレオンマン』の主人公=ゼリグは、マルクス兄弟の映画が好きという設定でした。そして“マルクス兄弟が好きということは、自分の趣味が決して高尚ではないということを表明しているようなものだ。しかし気取らないその態度が周囲からは好感をもたれた……”という意味のナレーションが入っていたと記憶しています。マルクス兄弟の作品が公開当時どのように一般に受け入られていたか、少なくともウディ・アレンがどのように考えているかが分かります。今でも映画館で上映され、70年後のシネフィルの方々にも観てもらえるわけですが、公開当時のインテリたちには相手にされていたのでしょうか? そこで私は考えます。当時スラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)を馬鹿にしていた人々と同じ失敗を、自分も繰り返してはいないか? ■「ブレードランナー」や「グレート・ブルー」は幸せです。公開時の不入りから再評価そしてブレイクまで、たった数ヶ月で済んだのですから。「実はイーストウッドは昔から好きだった」なんて言うのも、後出しジャンケンみたいでカッコ悪いですよね。

— 関口芳雄


スタッフコラム

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