スタッフコラム:2002年

伝奇人形劇スペクタクル+1

2002/12/16 — 第58号

その昔、NHK人形劇シリーズというTV番組があった。「ひょっこりひょうたん島」が有名だが、私の世代(アポロ11号月面着陸や大阪万博の頃に小学就学)は何といっても「新八犬伝」が人気なのだ。◆室町時代。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の8つの珠を持つ八犬士が主君・里見義実の危機を救うべく、怨霊や悪人どもを相手に獅子奮迅の活躍をするという、伝奇時代劇である。原作は滝沢(曲亭)馬琴の「南総里見八犬伝」。◆劇中の八犬士で、一番人気があったのは犬塚信乃であろう。元服まで女の子として育てられたという美貌の剣士で、腕も立つ。恋も一途。モテて当然のこのキャラの声をアテていたのが、近石真介さん。◆八犬士の面々にも増して個性的な悪役たち。とくに里見家に祟りをなす“玉梓が怨霊”、これはチョット怖かった。金色の目を剥き、真っ赤な舌を垂れ「わ〜れ〜こ〜そ〜は〜、た〜ま〜ず〜さ〜が〜お〜んりょう〜〜〜」の声とともに現れる怨霊玉梓。声の主は、阿部寿美子さん。◆そして「新八犬伝」に登場する全ての人形を製作し、劇場版では巨大な玉梓の人形を自ら操っているのは辻村ジュサブロー(現・寿三郎)さん。来年1/25(土)のオールナイト「伝奇人形劇スペクタクル+1」では、以上の御三方をゲストにお招きしてお話をしていただく。ファン、集まれ。◆当夜は「新八犬伝」など人形劇3本に加えて、深作欣二監督作品「魔界転生」を上映。天草四郎に沢田研二、柳生十兵衛に千葉真一、宮本武蔵に緒形拳という豪華キャストだ。この作品、辻村さんが衣装アドバイザーをされている。来年春の窪塚版「魔界転生」公開前に、こっちも観ておこう!!

— 関口芳雄


和田誠さんと新文芸坐 そして二周年

2002/12/01 — 第57号

新文芸坐の受付、売店カウンター前のガラスの壁面には、1923年の『ロイドの要心無用』から1994年の『レオン』まで20世紀の名作映画のワンシーンのイラストレーションが125枚描かれています。和田誠さんの作品です。和田さんと新文芸坐の関わりは、そのガラス壁画を名画座としてのシンボル的な絵画で、21世紀に引き継がれる名画を描いてくださる人物として和田さんに依頼したことから始まります。◆一面識もない和田さんに恐る恐る電話でアポイントを取りました。その数時間後、偶然にも和田さんと同じ地下鉄に乗り合わせることになり、不思議な“ご縁”に感動いたしました。乗客がいることも、和田さんの迷惑も顧みず発作的に挨拶をしていましたが、以後スムーズに事が運びました。和田さんは、新文芸坐のオープン前から一番最初に関わった映画人であります。◆和田さんは、『お楽しみはこれからだ』などのエッセイストであり、『麻雀放浪記』などの映画監督でもあり、1本の映画を観にニューヨークまでとんぼ返りで行くほどの映画大好き人間なのです。野球少年のスーパースターがイチローや巨人の松井であるように、映画ファンにとっての和田さんは憧れの映画人なのです。◆そんなご縁を大切にした12月12日(木)の新文芸坐の二周年記念日です。この日は、和田誠監督作品長編、短編全7作品を二部に別けて上映いたします。和田さんに負けず劣らず映画大好き人間のタレント小堺一機さん、『真夜中まで』に出演しているギタリスト道下和彦さん、キネマ旬報編集長関口裕子さんらゲストと和田さんとのトークショーがあります。秘蔵フィルムの上映など12月12日は丸々一日“和田誠デイ”です。是非ご来場いただき和田さんと一緒に終日楽しみましょう。

— 永田稔


最近気になる映画は……

2002/11/16 — 第56号

今度の正月も“ハリー・ポッター”旋風が吹き荒れることとなるのだろう。ところで先日、銀座シネパトスで、映画のあり方として“ハリー・ポッター”の対極をいくような映画を3本続けて観てきた。(1)『ズーランダー』、(2)『ダウン』、(3)『ミーン・マシーン』である■(1)は、トップモデルたちの熾烈な争いをくだらないギャグのオンパレードで描くベン・スティラー監督・主演作。“3%の体脂肪率。1%の知能。”というコピーからもうどんな映画かわかりますね。(2)は、とあるエレベーターで死亡事故が多発。本当に事故なのか、それとも……!? 以下ネタばれしますので嫌な人は読まないでください。そのエレベーターはなんと生きていた。意思を持って人を襲っていたのだ! 恐るべし。(3)は、『ロンゲスト・ヤード』のリメイクでレイノルズの役をヴィニー・ジョーンズが演じる。3本の中で最もまともな映画である。だがその分、最も平凡だったともいえる■昔ならこの手の映画もチェーンに入って2〜3週間ぐらい上映したのものだ。しかし昨今、この手の映画はシネパトスの単館だけでしかやらない、というべきか、やれないというべきか。まだシネパトスが頑張っているからいい。もしシネパトスがなくなったら一体どうなる。わたしは心から憂える次第である■この後もシネパトスでは『フレイルティー・妄執』(これ悪魔モノ?)、『スパイダーパニック!』(これは巨大蜘蛛。わかりやすい。)と気になる映画が控える。ところで今度、当館でやる『ゴースト・オブ・マーズ』はまさしく“この手の映画”。火星モノでかつゾンビモノ! 青山真治監督も絶賛する映画だ。心ある映画ファンよ、結集せよ。

— 矢田庸一郎


70周年の東宝映画と豊島区制

2002/11/01 — 第55号

かって映画興行界は、気軽に楽しめる身近な娯楽として不況に強い業種と言われました。しかし、娯楽の多様化と共に映画産業は、斜陽となり興行収入減を入場料金の値上げで補填してきました。いつの間にかロードショーの入場料金は、欧米の2倍以上の1,800円になっていました。最近のデフレ経済においては、決して安い値段とは言い難い環境にあります。◆大手映画会社は制作から撤退し、かっては節目の年に作られていた記念映画や正月映画などのスター総出演による豪華な映画は作られなくなりました。今年70周年の節目を迎える東宝映画も60周年の時と同様に記念映画は制作されません。◆豊島区内には、老若男女が大勢行き交う全国有数の繁華街池袋と“お年寄りの原宿”巣鴨という商業の街と、立教、学習院、大正、東京音楽大学の4つの大学がある文教の街があります。豊島区は最近、区制施行70周年を記念して《地域文化の創造》をテーマに『大学サミット』を開催しました。豊島区長と4大学の総長、学長が出席してのディスカッションと4大学学生からの提案がありました。◆学生たちは、《地域文化》を『映画文化の風薫る豊島区』『artの街〜豊島区改造計画〜』『WARAIKEプロジェクト〜毎日がお笑いのまち〜』というテーマに分けて4大学混成の3チームが、数ヶ月にわたり各方面に取材をして提案をまとめました。◆『映画文化』に関しては、大都映画の撮影所、新文芸坐の前身である人世坐の存在に着目し、歴史的な映画の街と捉え、〈映画祭〉や〈映画ビジネス〉までを視野に入れた未来像を描き映画文化を発展させようという提案がなされました。他の2チームも同様に素晴らしい提案をしました。学生たちの大胆な発想、展開に敬服し、その柔軟な頭脳に憧憬の念を持ちました。豊島区の発信する文化施策に注目を!!

— 永田稔


真夜中のラジオを聴いていた頃

2002/10/16 — 第54号

私が中高生の頃、ラジオの深夜放送というのが流行っていた。私はもっぱらTBS「パック・イン・ミュージック」。声優(俳優)の野沢那智さんと白石冬美さんの「ナッチャコ・パック」は欠かさず聴いていた。オトナに批判的なガキだった私が、唯一素直に受け入れられるオトナの意見というのが野沢さんのそれだった。◆野沢さんは、主催する劇団薔薇座の公演があると盛んに番組で宣伝していたのを憶えている。薔薇座の旗揚げ公演は「アップル・トゥリー」という3話オムニバスのミュージカルで、劇場はオープン間もない文芸坐ル・ピリエ! 田舎の高校生だった私はこの舞台は観られなかったのだが、野沢さんの連呼する「文芸坐」というまだ見ぬ劇場の名は頭に残った。◆「パック…」が終了して数年後、私は上京して3年が過ぎ、大学を中退して仕事を探していた。映画が好きだったので映画館で働きたかった。そして、ぴあを片手に電話したのが文芸坐だったのである。野沢さんの連呼のせいに違いない。◆もうひとり、忘れられないパーソナリティがいる。「ミドリブタ・パック」のTBSアナウンサー林美雄さん。業界随一の美声の持ち主だった。日本映画や音楽などで、注目されていないモノに光を当てるというのが林さんのテーマだったが、そういう姿勢に影響を受けた若者も多いだろう。その林美雄さんは今年の7月13日、ガンでなくなられた。享年58歳。11/19(火)上映の「太陽を盗んだ男」にTVアナウンサー役で出演している。スクリーンの中のTV画面にご注目、そして合掌。

— 関口芳雄


東宝70周年記念 東宝映画43作品連続上映

2002/10/01 — 第53号

1932(昭和7)年8月に創立した株式会社東京宝塚劇場の略称の『東宝』が、社名になっています。映画事業は、翌年8月に封切った木村荘十二監督、千葉早智子、藤原釜足、古川緑波らが出演した『ほろよひ人生』が第一回作品として記録されています。この映画の宣伝コピーには〈「金」にぶつかり「恋」につまづき ソレ、人生は千鳥足で歩むべし 笑って、酔って、朗らかに 汗と ついでに不景気を サァ 弾き飛ばせ!〉というもので、現在の不況の世相と酷似していることに驚かされます。◆この平成不況のせいなのでしょうか、節目の年なのに今年の東宝は記念作品を製作しません。昭和37年の30周年の時は『天国と地獄』など6本、35周年は『上意討ち』など11本、40周年は『海軍特別年少兵』など9本、50周年は『幻の湖』など5本を記念作品として公開していますが、それ以後はありません。不景気と日本映画界の衰退と共に記念映画は製作されなくなってしまいました。◆東宝映画の70年間には、数多くの傑作、名作がありますが、今回は黒澤明監督作品とそれ以外の作品の二部に編成して上映いたします。第一部は10/29からの《黒澤明監督セレクション》。黒澤監督全30作品の内21本が東宝配給で、その中から16本を上映いたします。ゲストとして、黒澤作品ゆかりの女優・香川京子さん、俳優・土屋嘉男さん、プロデューサー野上照代さん、小泉堯史、堀川弘通両監督が舞台挨拶に来館いたします。第二部は、11/16からの《東宝映画名作選》で文芸、喜劇、シリーズ作品などの27本を上映いたします。“東宝の顔”俳優・池部良さん、長谷川和彦監督と浅草キッドの水道橋博士さんとのトークショーがあります。皆様のご来場を心からお待ちいたしております。

— 永田稔


マキノ雅弘の世界へ、ようこそ

2002/09/16 — 第52号

「いい映画」を見たときには、「映画館を出ると、とたんにみんなに吹聴したくなる。見てない人に早く見せたくなってくる」と、かつて植草甚一さんが書いていた(「いい映画を見に行こう」)。「こんな気持にさせる」「いい映画」とは、「第一に、みんないいツラをしているなあ、という映画に大事な要素が全巻を通して発揮されていること」、そして第二に、「画面内のパルゼーション(胎動)がものをいうこと」が必要にして欠くべからざる絶対条件であり特質なのだと植草さんは定義している。

映画の面白さ、映画を見ることの楽しさが、なんと見事に的確に述べられていることか。第一の「みんないいツラをしているなあ」というのは、スターの、俳優の、人間的なキャラクターの魅力であると同時に、その魅力にひかれ、うっとりし、ときには狂ってしまうファンの心情でもあろう。第二の「パルゼーション(胎動)」とは画面の、スクリーンそのものの魅惑であると同時に、画面を、スクリーンを、見入るファンの心のときめきでもあろう。

マキノ雅弘の映画とは、まさにそういう映画なのだ。肩肘張って見ることを強いられる「作家」の立派な映画ではなく、気軽に見られる、ときにはデタラメなほど奔放でめちゃくちゃなお遊びに流れながらも「気持を舞いあがらせるようなパルゼーション」にあふれた映画なのである。

— 映画評論家 山田宏一


『友の会』の入会金と『シニア』の入場料金の変更

2002/09/01 — 第51号

新文芸坐は、文芸坐の閉館から3年9カ月後の平成12(2000)年12月に、旧作品の〈戦後日本映画 時代が選んだ86本〉毎日替り二本立ての特集番組により名画座として新装オープンいたしました。◆名画座は“良質な”映画を“数多く”“低料金”で観ていただくという認識から、一般人場料金を文芸坐時代の92年に改定した時の1,300円に据え置きにしました。又、『友の会』の入会金とオールドファンの『シニア』の入場料金は、オープニングサービスとして優遇いたしました。◆会員になると、初回だけは一般料金の1,300円をいただきますが、次回からは1,000円の割引料金で観ることができます。会員にとっては、毎日が“映画の日”“レディースデイ”の料金でご覧になれるシステムです。◆シニアの方々は、1,000円で映画が観られることが社会常識になっていますので、それよりも安い900円に決めたのです。◆昨年10月ロードショーを上映することになり、サービス期間終了のチャンスを逸してしまいました。一年遅れで下記のように変更させていただきたくお知らせする次第です。何卒ご了承の上、今まで同様ご来場くださいますようお願い申し上げます。

【シニア入場料金】
1,000円(9月28日の番組より)

【友の会】
★入会金 2,000円(有効期間1年間、招待券1枚、DM)
★更新料 1,000円(有効期間1年間、招待券なし、DM)
★実施日 10月1日より(会員入場料金は、1,000円で変わりません)

《9月末日までに入会された方は、来年9月末日までの更新手続に限り招待券付きで更新いたします。その時点から有効期間は1年になり、次の更新からは新システムになります。》

— 永田稔


これが映画だ! マキノ雅弘の世界

2002/08/16 — 第50号

マキノ雅広。本名、牧野正唯。明治41年、日本映画の父、牧野省三の長男として京都に生まれる。18歳で監督デビュー。撮った映画の数は261本。戦後間もない頃は覚醒剤を打ちながら不眠不休で映画を撮ったという逸話も残ります。

3月、わたしたちは映画評論家・山田宏一さんと「魅惑のシネマクラシックス」という、スクリーンを美女たちが織り成す珠玉のシネマを巡る旅に出ました。今回はその第2弾。伝統と技の結晶ともいえる日本映画の神髄へと旅立ちます。名付けて「カツドウ屋・マキノ雅弘『次郎長三国志』と任侠時代劇」(9/14[土]〜27[金])。屈指の名シリーズ『次郎長三国志』に『次郎長遊侠伝』『清水港代参夢道中』、さらに『浪人街』『丹下左膳』といったマキノ時代劇の名作の数々をお送りします。(残念ながら『次郎長三国志』の第6・7・9作はフィルムがないため上映できません。お詫び申し上げます。)

スクリーンに浮かび上がる白黒の世界の瑞々しさ。画面に現れる登場人物たちのちょっとした動作、振る舞いが醸し出す人間の喜びや悲しみ。今の映画ではなかなか目にすることができない、本当の映画の楽しみがつまった宝箱のような世界です。

近々平凡社より名著『マキノ雅弘自伝 映画渡世・天の巻 地の巻』が復刻されるほか、その姉妹編ともいえる山田宏一著『次郎長三国志 マキノ雅弘の世界』がワイズ出版から発刊されます。見る楽しみと読む楽しみ。日本映画史に残る偉大な映画作家にしてカツドウ屋魂を終生忘れることのなかったマキノ監督の偉業をお楽しみください。

— 矢田庸一郎


8・15今だからこそ、戦争について考えよう<

2002/08/01 — 第49号

世界各地で紛争やテロが起きていて、地球上で戦火の絶える日がない。通信技術の発達により、その戦禍がリアルタイムで日常生活の中に飛び込んでくる。これらの紛争も、歳月が経てば、戦場の兵士たち、市民たちの様々な人間ドラマが小説、映画などによって知らされることになる。◆日本が参戦した太平洋戦争を背景にした小説が、戦後ベストセラーとなり映画化された。五味川純平の大河小説『戦争と人間』は、軍と財閥が結託して戦争が拡大し、戦争に呑み込まれていく人間の運命を描き、『人間の條件』は、戦争悪と個人の戦いをドラマチックに描いた。大岡昇平の『野火』は、従軍中の飢えと疲労の極限状態の中で、人間性と神の問題を描き、野間宏の『真空地帯』は、軍隊内の非人間性とその残酷さを暴露した。『雲ながるる果てに』は、学徒航空兵の手記の映画化です。◆今井正監督、鈴木尚之脚本の『海軍特別年少兵』は、国を守るためと信じて疑うことも許されず死んでいった少年兵たちの物語。水木洋子脚本の『また逢う日まで』は、戦争が普通の人間の幸せを無残にも引き裂くことを描いた。◆その今井、水木コンビの『ひめゆりの塔』は、国内唯一の戦場となった沖縄で、勤労奉仕で最前線に駆り出された女学生たちの悲惨な実話を描いた。『東京裁判』は、米政府によって撮影された50万フィートにも及ぶ極東軍事裁判の記録を小林正樹監督が4時間37分に構成した日本の歴史、映画備忘録的価値の映画です。◆エンターテイメントとしても超一級品で、次世代に受け継がれて欲しい日本を代表する映画ばかりです。終戦の日のこの時期に、楽しみながら、「有事法制」が国会で審議中の“今”の社会状況と照らし合わせて、“戦争”について考えよう。

— 永田稔


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