スタッフコラム:2003年

二度目の旅は日本語で

2003/07/16 — 第72号

唐突ですが、私の頭の中では名優・ジェームス・スチュアートは声優・小川真司さんの声をしています。中学生の頃テレビで放映された『裏窓』や『めまい』の印象が強かったせいでしょう。もちろんクリント・イーストウッドは故・山田康雄さんでショーン・コネリーは若山弦蔵さん、マイケル・ホイは広川太一郎さんという不動のキャスティングは言うまでもありません。◆今までは“吹替え=テレビor子供”というイメージでしたが、最近はDVDの普及(大半の洋画作品には日本語吹替え版が収録されています)や、大作映画の吹替え版同時公開などにより、吹替えは映画を楽しむ上でのひとつの選択肢となってきました。その主なメリットは……(1)「字数制限がない」。どんなに早口でもOK。会話の微妙なニュアンスまで伝わります。(2)「画面に集中できる」。美しい衣装や風景、巧妙な特撮などを堪能すれば作品の印象も深まります。(3)はズバリ「疲れない」。2時間字を読み続けるという行為は意外に重労働だったのです。私の選択理由はもっぱらコレ。◆そのメリットを最大限に生かせるのがご存知『ロード・オブ・ザ・リング』。IとII合わせて6時間のこの超大作は、ニュージーランドの雄大な自然と2年連続アカデミー視覚効果賞受賞のCGを融合させて、重厚なドラマと人間関係を紡いでいきます。熱烈なファンによれば、吹替えの口調によって主人公フロドと使用人サムの関係性や、指輪に魅せられたゴラムのキャラクターが明確になるとの意見もあります。当館では吹替えと字幕を1日1回ずつ上映するので、前日の気分と体調(?)に合わせてチョイスしてください。◆追記 山田康雄さん亡き後、先日テレビ放映されたイーストウッドの近作『トゥルー・クライム』では野沢那智さんが吹替えを担当。プロの技を“聴かせて”くれました。

— 花俟良王


夏休み親子優待フェア

2003/07/01 — 第71号

映画館の愉しみのひとつに“大人数で同じ映画を観る”というのがあります。みんなでドッと笑ったり、観客の悲鳴にびっくりさせられたり、カタルシスのあるシーンでは歓声や拍手が起こったり…。こういった観客の反応というのは決して不愉快ではなく、作品の力が増幅されたような感じがしてこれはお得です。ビデオで観てもこんな体験はできません。作品との最初の出会いはぜひ大人数で観る映画館をお勧めします。■新文芸坐では今年も夏休み親子優待フェアを行います。期間は「ロード・オブ・ザ・リング」1&2の始まる7/19(土)から8/31(日)まで。中学生以下(3歳以上)のお子様をお連れになった大人の方は、ご入場料金をお一人1000円(2名様まで)に割引いたします。夏休みです。ご家族お誘い合わせのうえご来場ください。みんなの歓声や悲鳴で映画を盛り上げましょう。ただしオールナイトは18歳未満の方はご入場できませんので対象外です。■映画というのは配給会社にとっては大切な商品で、入場料の高い映画館で優先的に上映し、当館のような低料金の劇場が上映できるのは最後になります。入場料が下がるということは商品としての作品の価値が下がるということなのです。ですから上記の「ロード…/二つの塔」も配給会社からは入場料金をもっと高くしてほしいという要望がありました。でも当館としては通常料金で上映したい。そこで折衷案として、ラスト1本割引を1000円にすることにいたしました。どうかご理解ください。

— 関口芳雄


映画フィルム—日々雑感、「超大作」

2003/06/16 — 第70号

かつて超大作と言えば、巨大なオープンセットと大群衆が付き物でしたが、最近はデジタル技術の発達で必ずしもどちらも実物が必要ではなくなっているようです。「マトリックス」は2作目と3作目合わせて3億ドル以上の制作費が掛けられているそうですが、前述の古典的な意味での超大作という雰囲気はありません。実際には2km以上にわたる高速道路を建設して撮影しているそうですが、のっぺらぼうな高速道路のセットでは今ひとつ夢がありません。が、しかし、かつて映像化できなかった、夢のようなアクションシーンをひたすら追い求める映画にあっては却って背景はシンプルにした方が良いのでしょう。■最後の(と思われる)古典的な超大作は「ギャング・オブ・ニューヨーク」でしたが、CG全盛の現在に暴挙と思われるチネチッタの夢のような巨大セットは実に感動モノでした。ただ最近見た「プレイタイム」のモダンなセットの街“タチヴィル”の方が、スコセッシのような映画史やらチネチッタやらに対する自覚や郷愁がない分、暴走の度合いがより激しかったです。で、最近の超大作らしい超大作と言えば当館で7/19(土)より上映する「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズです。最新のCG(例、キャラクターを一体一体動かさなくてもプログラムで自分で勝手に戦ってくれる群集シーンなど)が多く使われている映画ですが、実は監督の意向で意外にもミニチュアやオープンセットがかなり使われている映画なのです。CGと渾然一体となって分かりにくいシーンもあるのですが、やはり実写(ミニチュアも含む)の存在感というのは捨てがたく、今後ともCG一本槍ではなく、このような手法で映画が撮られることを切に願ってやみません。

— 梅原浩二


変革する映画興行

2003/06/01 — 第69号

明治36年(1903)、浅草の電気館が入場料金5銭で常設映画館になった。これが映画興行の始まりで、今年が100年目になります。映画は、戦後“娯楽の王様”と言われ、映画館数は、昭和33年(1958)のピーク時には7,000館以上に達していました。その後、TVの普及、娯楽の多様化などにより、映画館は1/3近くまで減少しましたが、シネマコンプレックス(シネコン)の出現により、社会不況にもかかわらず映画館は増加傾向にあります。◆シネコンとは、一つの建物の中に複数のスクリーンを持つ映画館のことです。シネコンが登場したのは、10年前の平成5年(1993)開業のワーナー・マイカル・シネマズ海老名が最初です。そのシネコンは、郊外の大規模な商業開発の際に併設されてきました。これは、従来の都会に映画を観に行くという非日常的な行為から、観客の生活する範囲に映画館があることによって、映画を観る行為を生活習慣の一環にしてしまうという発想に基づくものです。◆しかし、最近ではシネコンが、都心の様々な“街”に出現するようになってきた。東京では、品川プリンスホテルシネマであるとか、この4月にオープンした六本木ヒルズ内のヴァージン・シネマズ六本木ヒルズであるとか、豊島園内にもシネコン建設の計画がある。地方都市でも札幌シネマフロンティアが既に開業しているし、名古屋駅前、大阪球場跡地の再開発にシネコンを併設しようと言う動きがある。◆その時代の社会状況、映画ファンのニーズに対応しながら、ホテル、商業施設、オフィスビル、マンション、遊園地などに併設する多様な選択肢の中から映画館が誕生しています。一方では、デジタル化の動きが急速に進行しています。デジタル化に移行することは必至でしょう。このように映画興行界を取り巻く環境は刻々と変革しています。新文芸坐は、時代の流れに乗り遅れないように対処していきたいと考えています。

— 永田稔


ほろ苦さと甘酸っぱさ
『SWEET SIXTEEN』と『僕のスウィング』(6/14〜20上映)

2003/05/16 — 第68号

『SWEET SIXTEEN』の監督、ケン・ローチの映画に共通するのは労働者階級、貧困、抑圧といったテーマであろうか。人間の自由と尊厳を見つめる姿勢ともいえるかもしれない。一方で彼の映画には、どことなくユーモラスな人間が必ず出てくる。けっこう辛い話の時でも、そういった人物たちのクスクス笑いが見る方の体の緊張感を解きほぐしてくれる。■ケン・ローチは決してハリウッドで映画を撮ったりしないと思う。きっと生涯、貧乏人や抑圧された人々の映画を撮り続けるのだと思う。ケン・ローチが素晴らしいのは理想をふりかざさないことと、映画の中で間抜けな人間を描いても、彼らを決してしからないことだ。揺るぎない信念と人間への優しさ。彼の映画はこれに尽きる。■『僕のスウィング』の監督、トニー・ガトリフのキーワードは、自身のルーツでもある“ロマ”。ロマとはジプシーの自称である。彼らは約千年前に北西インドからヨーロッパに移動し、各地に分散、定住する。彼らへの呼称は地域で異なりドイツではシンティやツィゴイネル、フランス南部ではジタン、スペインではヒターノ、イギリスではジプシー。今では差別的なジプシーの名を嫌い人間という意味のロマを名乗る人が多い。■夏休みにフランス北部の祖母の下に預けられた少年と、土地のロマの少女との触れ合いをほとばしるような瑞々しい映像で綴る一編だ。この映画の一番の魅力は、映画の中で常に響き渡る個性豊かな音楽たち。中でもこの地方のロマの呼称、マヌーシュに由来する軽やかでいて物悲しい“マヌーシュ・スウィング”の旋律に心を奪われる。■1枚のチケットでいろんな味わいを楽しめる二本です。でも見終わると、ちょっと胸が痛くなる、そんな二本立てでもあります。

— 矢田庸一郎


レスリー・チャンの追悼オールナイトを開催

2003/05/01 — 第67号

レスリー・ファンというほどでもない私も、4月1日のレスリーの訃報を聞いたときはかなりショックを受けた。香港映画ファンの映画ライターがわざわざ電話を掛けてきて教えてくれた。彼女にはメールで友達から連絡が入ったそうだ。だからとっさに私は、何かの誤報、あるいはネット上での巧妙な悪戯ではないかと思った。信じられないという思いだったのかもしれない。「香港のラジオがちゃんと伝えているの。間違いない」。彼女の小さな悲痛な声が電話口から漏れた。■6/14(土)にレスリー・チャンの追悼オールナイトを行なうことになった。昼間にやる案も出たが、それだと遅くなる。できるだけ早くということでオールナイトになった。オールナイトでは行きにくいという方も多いと思うが、どうかご理解願いたい。■上映作品は『欲望の翼』、『君さえいれば 金枝玉葉』、『さらば、わが愛 覇王別姫』、『ブエノスアイレス』。レスリー・ファンでなくとも見ごたえ十分、傑作4本立てである。そしてレスリーの魅力が結晶し、きらめき、ついには爆発する4本立てである。■レスリー特集は開館の時から常に頭にあった。いつでもできると呑気に構えてたところもあった。そしたらこんなことに。初めてのレスリー特集は追悼上映になっちゃった。■享年46歳はあまりに若い。歳を取るごとにさらに素敵な顔を我々に見せてくれたはずだ。数年前からレスリーは監督業への進出の夢を語っていた。だがそれも実現することはなかった。なにか映画の未来に大きな穴が開いたような気がする。本人が一番辛かったり、虚しかったり、無念だったのかもしれないが……。本当に残念無念で仕方無い。

— 矢田庸一郎


4月のオールナイト

2003/04/16 — 第66号

4月のオールナイトは、アニメとトークショーてんこ盛りです。4/12(土)「クレしん」のゲストは我々スタッフもまだ知らされていませんが、あの方は今年も来るのではないでしょうか。リベンジのため…。(昨年の「クレしん」ナイトをご覧の方はお分かりですよね。)■19(土)は「機動戦士ガンダム」。昨今のガンダム・ブームは、ガンダム世代が社会の中で占めるポジションの推移と大いに関係があります。これからの日本を支える中心的な世代。彼らは多かれ少なかれ「ガンダム」の洗礼を浴びているわけで、初見・再見を問わず、今ここでファースト・ガンダムを観ておくことは日本人に必要なのでは? 当日はグッズ販売なども予定しています。オールナイトは18禁です。みなさん、オトナ買いの準備はよろしいですか? ゲストは、漫画家の北爪宏幸さんと雑誌「ガンダムエース」編集長の古林英明さん。■26(土)は「機動警察パトレイバー」。ゲストは漫画家の、ゆうきまさみさんと、とり・みきさん。おふたりは一時期、女優H・Tに御執心で、ヘッド・ギアの出渕裕さんらとともに「バースデイ本」なる同人誌を作りご本人の誕生日にプレゼントをした…、などという仲です。いや、パトレイバーとは関係ないですが、私もあの夏「♪ヒトデと出逢って 億万年♪」などと口ずさんでいたクチですから。■オチが深い、とり・みきさんのマンガに倣って、説明過少の文章にしてみました。リベンジ? オトナ買い? ヘッド・ギア? ヒトデと? 分からない人は近くのおにいさん、おねえさんに聞いてみましょう。

— 関口芳雄


祝 卒寿記念 銀幕の天才 森繁久彌映画祭

2003/04/01 — 第65号

通信機器をはじめ科学の発達により私たちの生活は、前世紀の数倍の早さで変化し、便利になっています。一方では、バブル崩壊後の社会不況は延々と続き、株価(3/12現在)は20年前に戻ってしまい、閉塞感を抱いたままで日常生活を余儀なくされています。生活が便利になった割には心豊かな気分ではない。◆スローライフの勧めが叫ばれているこんな時代だからこそ観ていただきたいのが4/26からの「祝 卒寿記念 銀幕の天才 森繁久彌映画祭」です。森繁映画の時代は、スタッフ、キャストなど撮影現場が一丸となった手作りで、スクリーンから温もりが伝わってきますので心を癒してくれると思います。◆5月4日に卒寿を迎える森繁は、ご存知の通り平成3年に文化勲章を受章するなど、わが国の文化、芸能の分野における巨人です。「屋根の上のバイオリン弾き」などの演劇俳優として、テレビ、ラジオのタレントとして偉大な存在でありますが、森繁の真骨頂は映画俳優として、名匠が撮った芸術作品、野心作から数多くシリーズ化された喜劇映画など240本に主演、出演した銀幕上での存在感あふれる天才的演技にあるのではないかと思っています。◆この映画祭を企画するにあたり、森繁さんにお目にかかりました。開口一番「オレの映画なんかに客なぞ来ないゾ!」と言いながら結構嬉しそうにしていました。記憶力は確かです。さすがにスクリーンで観せる森繁節といわれるリズミカルな話し方、間に往年の冴えとまではいきませんでしたが、「映画とはデタラメとウソの積み重ねだが、その中に小さな真実を見つけていい映画という」など印象的な話をしてくださいました。◆陽気で軽妙なペーソスあふれる森繁映画で笑って、泣いて、楽しんで心のゆとりを取り戻してください。3月12日現在、ゲストに女優・淡島千景さん、演出家・久世光彦さん、放送作家・高田文夫さん、映画監督・松林宗恵さんが来館する予定です。

— 永田稔


映画フィルム—日々雑感2

2003/03/16 — 第64号

現在映画の音声方式はアナログとデジタルに大別されますが、アナログにはモノラルとサラウンド(立体音響)、デジタルはすべてサラウンドですが、フォーマット別に三種類あります。■家庭用のオーディオが2チャンネルステレオになっても映画の音はドルビー社のサラウンドシステムが普及するまでは特殊な例を除いてモノラルの時代が長く続いていました。その特殊な例とはかつてのシネラマや70mmなどのいわゆるハリウッッドの大型映画で、大画面の撮影上映方式が各社それぞれ違っていたのと同様に音声方式も7〜4チャンネルと各種あったようです。これらの音は主にフィルムに磁気を塗って記録(カセットテープと同じ方式)されたのが多く、耐久性や生産コストに問題があり余り普及しませんでした。旧来の光学式(フィルムの端にギザギザになっている帯状の物で光で読み取ります。トリュフォーの「アメリカの夜」のオープニングではそれが音楽に合わせて動く様が画面で見えます)と互換性のあるドルビーサラウンド普及後は、アメリカ映画を中心にサラウンドが一般的になりましたが、このアナログ方式ではチャンネル数や音の分離などの問題があり、往年の大型映画のニュープリント版などでも音はモノラルということがありました。■しかしデジタルサラウンドで復活した最近の「ベン・ハー」や「2001年宇宙の旅」のプリントなどは当時の音に近いチャンネル数を再現し、かつ音質はデジタルなので当時以上の状態で再生できるようになっています。そうして手間ひまかけて再生された映画はまだ多くはないようですが、このような映画を名画座では珍しくドルビーデジタルEXまでを備えた当館で沢山上映できる日が来るのもそう遠くはないと思っております。

— 梅原浩二


コロムビア・レディに乾杯

2003/03/01 — 第63号

ご存知の方も多いかもしれませんが、洋画の場合、映画会社が持っている配給権が契約切れになるとその作品は映画館では上映できません。また配給権はあっても、映画会社がプリントを廃棄してしまえば、物理的に上映は不可能です。配給権の問題は仕方ないとしても、好きな作品が廃棄されると聞くと、泣くに泣けません。映画はビデオで観ろということでしょうか。■数ある映画会社の中で、この点最も良心的なのがソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)。滅多に稼動しなくなった旧作もかなりの数を保管しています。エライ。SPEはコロムビア映画や、トライスター、オライオン映画の一部の配給権を持っていますが、その一部を「コロムビア映画名作選」として4/12(土)から当館で上映します。ラインアップを見ていただければお分かりのとおり、映画史に残る作品ばかり。ぜひスクリーンでご覧ください。■唐突に懸賞クイズ。本特集の初日「地上より永遠に」でウォーデン曹長を演じた俳優。楽日「博士の異常な愛情…」で最後の爆撃機に乗る黒人俳優。ふたりの俳優が同時に描かれている作品の絵が、当館受付前の和田誠さんのイラスト集の中にあります。そのイラストはどれでしょう? 回答は「左から○番目、上から○番目、映画タイトルは○○○○」形式で、staff@shin-bungeiza.com 宛てのメールか、ロビーの投書箱までどうぞ。抽選で5名様に特集の御招待券をさしあげます。締め切りは3月末日。連絡先をお忘れなく。■最後にトリビアをひとつ。「コロムビア映画のオープニング・ロゴは、“自由の女神”ではない。」ヘェーッ。

— 関口芳雄


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