スタッフコラム:2006年

6周年、感謝のリニューアル工事とお知らせ

2006/12/16 — 第154号

今年も早いもので、残すところ僅かな日数になり、1年を振り返る季節になってしまいました。映画ファンの皆さんは、今年どのような映画に出会ったでしょうか。新文芸坐では、今年もほぼ例年通り500本以上の映画を上映しましたが、その中に感動、興奮、刺激を受けた映画、心に残る映画に巡り会うことができたでしょうか。■さて、新文芸坐はオープンしてこの12月で満6年になりました。ご来場いただいたひとりひとりのお客様のお陰と、心より感謝いたしております。15日に終わった《和田誠が「もう1度観たいのになかなかチャンスがない」と言っている日本映画》は、お客様に対する謝恩の気持ちを込めた番組でしたが、施設面でもリニューアルしてお客様に謝意を表したいと思います。■スクリーンを張替え、客席を1脚づつ洗浄し、ロビーの天窓の清掃と壁の塗装工事を行って、6年前のオープン当時と同様の明るいロビー、気持ち良い客席、映像が映えるスクリーンに蘇生して快適な空間を提供したいと考えています。サービス面でも、経験を積み重ねてきたスタッフが、初心に返って誠心誠意サービスに努めますので、マイシアターとしてご来場くださいますよう、宜しくお願い申し上げます。

— 永田稔


新人監督の登竜門、「エイリアン」シリーズ

2006/12/01 — 第153号

先日、子供をつれてジブリの森美術館に行ったのですが、学生時代以来ほとんど訪れることのなかった三鷹駅南口の変わりように驚きました。といっても、再開発されてから既に久しいのですが……。◆その昔、三鷹オスカーという名画座があったことを思い出しました。そこで観た映画を思い出してみると、学生の頃に観た「郵便配達は二度ベルを鳴らす(ヴィスコンディ)」「ソドムの市」「サロン・キティ」のエロ(&グロ)3本立てや、キューブリック3本立て、「エクソシスト」「ジョーズ」「エイリアン」のA級・恐怖映画、グリーナウェイ3本立て、そして最後の番組となった「グッドモーニング・バビロン!」「巴里を追いかけて」「インテルビスタ」の“映画の映画”3本立て、……。奇をてらわない正統的な番組を提供してくれる名画座でした。◆この中の恐怖映画3本立てを観たときの単純な感想は、一番怖いのは「エイリアン」、一番面白いのは「ジョーズ」、そして「エクソシスト」はイマイチだったということ。このうち2本は、その後続編が作られながらも一級品とはいえなかったのに対し、「エイリアン」シリーズは同様に監督を替えながらも特別な映画であり続けています。SFホラー映画の金字塔「エイリアン」シリーズは、“新人監督の登竜門”といわれていました。というのも、唯ひとりジャン=ピエール・ジュネだけは既に功成り名遂げていましたが、他の監督は今でこそ超有名監督ですが「エイリアン」を撮ったときは新人あるいはまだ無名だったからです。12/23(土)のオールナイトは、エイリアン全作上映。才能ある若手監督たちがブレイクする瞬間のほとばしるエネルギーを、もう一度ご堪能ください。

— 関口芳雄


和田誠さんとの不思議なご縁から生まれた6周年記念特集

2006/11/16 — 第152号

新文芸坐は、20世紀末の2000(平成12)年12月12日にオープンしました。お蔭様で、今年で満6年を迎えることができました。お客様に謝恩の気持ちを込めた記念番組を、イラストレーターの和田誠さんに企画していただきました。■和田さんが観た数多くの作品の中で、心の隅に残っているシーンや俳優をもう一度観たいが、観るチャンスがない映画を、観客の皆さんと一緒に観ようと選んでくれた14本です。内、10本は新文芸坐のスクリーンに初登場です。我々の既成概念からは考え及ばない作品が選ばれて、正に名画座らしい新鮮な番組になりました。■そして、上映作品に合わせてゲストをお呼びして、和田さんと映画談義のトークショーを毎日行う趣向です。三谷幸喜さん、岡本みね子さん、中井貴一さん、立川談志さん、山城新伍さん、白井佳夫さん、山根貞男さんが来場します。6周年記念に相応しい錦上花を添える“七福神”です。12/9からの《和田誠が『もう1度観たいのになかなかチャンスがない』と言っている日本映画》を観て、聞いて、映画の面白さ、楽しさを再確認してください。■和田さんとのお付き合いは、新文芸坐の受付前のガラスの壁面に、20世紀の名作映画のワンシーンのイラストレーションを描くことを依頼したことが始まりです。この時、面識のなかった和田さんに電話でアポイントを取った数時間後に、地下鉄の同じ車両に乗り合わせる偶然に出会いました。その後、東西落語研鑽会の旗揚げ、銀座落語祭り、紀伊国屋ホールなどで席が隣り合わせになるなど偶然が重なりました。今回の企画も、そんな偶然お会いした時の会話から実現したものです。和田さんとの不思議なご縁を感じます。このようなご縁は、今後も大切にしたいと考えております。

— 永田稔


名画座の中の小さな本屋よりおススメ

2006/11/01 — 第151号

今年発売になった話題の書『黒澤明vs.ハリウッド 「トラ・トラ・トラ!」その謎のすべて』(著者:田草川弘/文藝春秋刊/当館でも販売中)よると、1968年『トラ・トラ・トラ!』を撮影中の京都太秦撮影所ではトラブルが続出していた。●撮影所の照明が落下する事件。小道具の手紙の中にやくざの果し状が入っていたとして黒澤監督が激怒、チーフ助監督に助監督全員のビンタを命じた「果たし状事件」。また黒澤は撮影直前、壁の作り直しを命じる(壁壊し事件)といったような奇行を繰り返し現場は大混乱に陥る。遂に12月24日、撮影開始から23日目、二十世紀フォックスは黒澤を解任した。●当時の資料は散逸し、黒澤本人を含め多くが鬼籍に入った。当時から関係者の口は重く、真実は未だ明らかではない。●黒澤と仕事をした経験がある著者は、黒澤解任という闇をこのままにしてはならないという思いに駆られ、この作品のプロデューサー、エルモ・ウィリアムズへインタビューを試み、またアメリカの大学図書館などで『虎 虎 虎』の準備稿や資料を発見するに至る。本書は、新たな発見された事実に基づき、もう一度、黒澤の夢と無念の軌跡を辿り直そうとした試みの記録なのだ。●もう一方の主役とも言えるエルモ。2本のオスカーを獲得した映画人で、思い遣りの心を持った彼の人物像が鮮やかに浮かび上がるのも、本書の魅力のひとつだ。●エルモもまた黒澤に心酔した1人だった。彼に著者は残酷な質問をする。“黒澤を起用したことは間違いだったのか?”“クロサワはとても傷ついたし、我々も傷ついた。そしてクロサワに対して我々が抱いていた尊敬の念までぶち壊してしまった。クロサワを起用した私の判断は誤りだった”。エルモは静かにゆっくりと答えたという。

— 矢田庸一郎


番組いろいろ……

2006/10/16 — 第150号

新文芸坐では、旧作を企画特集して上映する名画座的番組と、ロードショー公開後の新作を上映する二番館的番組とを組み合わせてラインアップしている。何れの場合でも2本立上映を基本にしている。◆最近、当館で上映した『かもめ食堂/寝ずの番』と、『嫌われ松子の一生/ダ・ヴィンチ・コード』の番組に対して、脈絡のない2作品の組合せで、新文芸坐らしくない番組との指摘を受けた。この指摘は、新作2本立1週間番組の二番館的番組に対してである。◆新作映画の番組については、ジャンルに捉われず良質の作品を選ぶようにしている。組合せの“妙”よりも“新鮮さ、早さ”を優先した番組にしている。結果として脈絡のない作品の組合せの番組になる場合もある。音楽、演劇、演芸や格闘技までも、様々なコラボレーションが見られる時代である。異質映画のコラボレーション番組とご理解いただきたい。◆『マスク』『セブン』『オペラ座の怪人』など話題作を配給してきたギャガ・コミュニケーションズ(GAGA)が創立20周年を迎えた記念に、現在、劇場上映権のある作品の中から24作品を選んで、10/28から特集上映する。◆外国映画輸入配給会社は、UIP、WB、FOX、SPE、BVなど米メジャー系5社に対して、国内資本の配給会社をインディペンデント系と呼んでいる。多種多様でキラリと光る良質な作品を配給しているインディペンデント系の中で、今回は節目のGAGAを企画特集した。◆全ての上映作品はDVD化されているが、この機会を逃すと再びスクリーンで観ることが出来ないと思う。新文芸坐は、いろいろな番組を企画し、数多くの作品を上映していきたいと考えている。これからもご来場の程を宜しくお願いします。

— 永田稔


力と品格

2006/10/01 — 第149号

技術の進歩により人間は「できること」が増えましたが、同時に「やってはいけないこと」も増えていることに私は注目します。ふたつは言い換えれば、能力と規制。力と品格といってもよいかもしれません。■人類は太古、自分のグループの幸福ために、他グループの人間の命や財産を力で奪っていました。「2001年 宇宙の旅」を思い出してください。動物の骨を棍棒として使うことにより、人類の先祖はより簡単に人を殺す手段=武器を手に入れました。よくいわれることですが、人間の科学技術は戦争のたびに進歩するようです。コンピュータの原型なった世界初の電子計算機は、大砲の弾道計算を目的に作られたものでした。こうして人類は「できること」をどんどん増やしていったのです。■その一方で、人間は道徳や法を使って、できることを規制してきました。それは殺人や破壊といった暴力的行為だけではありません。例えば、経済には健全な自由競争のために独占禁止法という規制があり、小さいところでは映画館での携帯電話の使用もマナー違反です。■能力と規制は、時代とともに変わりますので、今の価値観を以って過去の歴史を裁くのは間違いです。と同時に、今ならやってよいことも将来やってはいけない行為となる可能性があることにも心するべきです。例えば「値段のあるものを売買する自由」です。他国に対する経済制裁=売らない自由、自分の棺に入れて欲しいとゴッホの絵画を落札=買う自由……。■1946年、東京裁判で、人類は「平和に対する罪」に言及するまで進歩しました。戦争はできても、やってはだめだぞ、と。11/4(土)オールナイトは『東京裁判』一挙上映です。その後の60年間を知っている我々に自問したい。あれから人間は進歩したのでしょうか?

— 関口芳雄


映画館ですが、本も売ってます

2006/09/16 — 第148号

当館の書籍販売コーナーには、映画をより楽しむための本がズラリ並んでいるのですが、何も作家論や作品論ばかりという訳ではありません。先日、職業柄無視できないタイトルの本が入荷しました。映画批評家・映画学者である加藤幹郎さんの著作『映画館と観客の文化史』(中央公論新社)です。リュミエール兄弟が映画を上映する歴史的な日より前に存在していた“パノラマ館”から始まり、入場料ニッケル硬貨1枚(=5セント)だった初の常設映画館“ニッケルオディオン”や絢爛豪華な“ピクチュアパレス(映画宮殿)”、そして現在のシネコンやアイマックス・シアターまで、今まであまり語られてこなかった映画館と観客の歴史が綴られています。◆中でも興味深かったのは場内のマナーに関しての歴史。当館でも「上映中はお静かに」ということを(皆様うんざりするほど?)お願いしていますが、たまに年配のお客様から「昔の客は賑やかだったんだけどねぇ」といったお言葉もいただきます。確かに往年の映画の中にも、途中入場は当たり前、タバコを吸いながらワイワイガヤガヤ談笑し、ピーナッツの殻を撒き散らす、といった場内の描写を目にしますし、そんな時代を羨望する自分もいます。予告やアナウンスなどで静寂をお願いしだしたのも最近のこと、だから私も「そうなんですけどねぇ」などと答えていたのですが……。◆なんとこの本によると1905年頃のニッケルオディオンでは、スライド(幻燈機)を見ながらの観客の合唱(!)が終わると、映画の上映前に「大声でのおしゃべりや口笛指笛はご遠慮ください」「喫煙ご遠慮ください」「帽子はお脱ぎください」などといった注意書きがスクリーンに映し出されていたそうです。短編のサイレント映画しか存在しなかった時代、映画のありがたみがひしひしと伝わってきます。◆様々な要因でこの風潮は短命に終わりますし、だから皆様も上映中はお静かに、という結論にも結びつきません。ただ、今と変わらぬ苦労をする100年前の同業者に、感慨深くというよりかは、なんとも微笑ましく思いを馳せたのでありました。

— 花俟良王


内田吐夢の傑作『血槍富士』がニュープリントで蘇る

2006/09/01 — 第147号

内田吐夢の本名は常次郎。岡山出身、1898年生まれ。二十歳すぎ、横浜のピアノ製作所で働く。その頃、仲間たちから「トム」と呼ばれ、映画に関わるようになり「吐夢」と名乗った。●28歳で日活京都撮影所に入る前、旅芸人の一座に加わったり日雇い人夫をやったり、社会の底辺で生きる体験をする。これが吐夢のリアリズムを形作った。●『競争三日間』(’27)で本格的監督デビュー。名作『土』(’39)などを撮った後、’45年軍の映画を撮るため満州に渡るが映画は頓挫。当地で敗戦を迎える。中国の鉱山で肉体労働をさせられる。’53年にようやく帰国の途に。吐夢、55歳であった。●『血槍富士』(’55)は帰国後第1作。13年のブランクを越えて撮った作品だ。●武士・小十郎と槍持ち・権八(片岡千恵蔵)とお供の源太。3人ののどかな東海道の旅模様。小十郎は若く気立てのいい主人だが、ひとつだけ欠点がある。酒乱なのだ。源太も酒に目がない性質。ふたりは権八が目を離した隙に居酒屋へ。●クライマックスは俄かに訪れる。ふたりは酩酊した武士たちに絡まれ斬り殺される。駆けつける権八、だが時すでに遅し。なんと無残な姿に! 穏やかな男が怒りをあらわにする。造り酒屋の狭い中庭。槍を持って迫る。権八はただの下男。槍を怒りにまかせて振り回す。槍が酒樽を突く。酒がほとばしる。権八と武士が這いずり回り泥だらけになって死闘する。●数多い時代劇の中でも屈指の名場面。脚本家・鈴木尚之の『私説 内田吐夢伝』によると、吐夢が巨匠と言われるようになったのは、この殺陣を撮った翌日からだったという。

— 矢田庸一郎


昭和天皇に関する二つの話題

2006/08/16 — 第146号

夏が来て、8月15日の終戦の日が近づいたこの時期に、昭和天皇に関する二つのニュースが話題になっている。一つは、A級戦犯合祀を理由に、天皇が靖国神社参拝を取りやめたとする元宮内庁長官のメモが見つかり、社会に波紋を起こしたことである。小泉首相の靖国参拝が中国、韓国との首脳外交断絶の原因とされているが、さて、今年の小泉首相の靖国参拝はあるのだろうか、興味深い。◆もう一つは、昭和天皇が主役の映画『太陽』の公開である。『太陽』は、昨年2月ベルリン映画祭で絶賛され、世界12カ国で上映されながらも、日本では“現人神”と崇められた天皇が主役の映画に、製作資金の投資もなく、配給権を買う会社もなかったが、紆余曲折の末8月初旬に公開されることになった。◆メガホンを執ったのは、ロシアの幻想派監督アレクサンドル・ソクーロフで、昭和天皇の終戦間際から人間宣言に至るまでの日常をフィクションとして描き、昭和天皇に寄せる慈しみと愛情に溢れた映画である。◆戦争という悲劇に翻弄される中で、小柄で優しい、飄々としてユーモアのある暖かな人間味の天皇を、苦悩と孤独と家族思いのひとりの人間を、イッセー尾形は細やかな動作にまで気を配った淡々と抑えた演技、静かな台詞と形態模写で、監督の意図を見事に表現し切った。イッセー尾形の名演技があっての映画『太陽』である。◆『太陽』の中の昭和天皇も、靖国問題も、太平洋戦争が根幹にある。北朝鮮のミサイル発射事件における、政府高官の敵基地攻撃容認発言は、今の社会状況が戦争の時代に向って動いているように思える。この時期、真剣に“戦争”について考えてみよう。

— 永田稔


続・虚構の世界を創ること

2006/08/01 — 第145号

裏切り者を追ってひとりジャングルに迷い込んだ主人公。偶然出会った男がサーフボード(ジャングルですが)を何故か2枚持っている。1枚くれるというので受け取ると、突然津波(ここはジャングルです)が襲ってくる。幸運にもサーフボードを持っていた主人公は、大波に乗って崖っぷち(ジャングルのそばにあったんでしょう)に近づくと、幸運は重なるもので探していた裏切り者をそこで発見する…。■小学生でも思いつかない、ひたすら偶然に頼った展開ですが、10年前にこんな映画が公開されているのです。この近未来アクション映画はツッコミどころ満載の映画なのですが、最近でもまだ上映する映画館があるほどの人気です。それはその世界の神=脚本・監督を敬愛し支持するするファンが多いということなのでしょう。■前回のこの稿で、映画の脚本家について「多くの登場人物をチェスの駒のように自由に配置し好きなように動かせるというのは、神になったような気分なのではないでしょうか」と書きました。脚本家に限らず、物語を作るということはとりもなおさず人間、のみならず世界=宇宙を自由に動かせるということです。自由となると、人は意地悪です。世界が終始ハッピーな物語というのは面白くない。主人公には必ず試練が与えられます。公園の砂場でトンネルを作った男の子が、最後に怪獣人形を登場させるように…。■旧約聖書「創世記」では、人間は天地創造の6日目に神が自らの姿に似せ土から創造されたといっています。つまり人間(アダム=男性)の外見は神様に似ているというわけです。でも外見だけでしょうか? 日々のニュースを目にするにつけ、本当の神様もハッピーはお好きではないように思えるのですが。

— 関口芳雄


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