スタッフコラム:2007年

映画にもあった賞味期限!?

2007/12/16 — 第178号

ちょっと前まで「暑い、暑い」と言っていたのに、いつの間にか「一年が早いですね!」が挨拶になり師走になっていた。新文芸坐は、今年も名画座的番組と二番館的番組を織り交ぜた通常興行と、終夜興行とを合わせると例年通り600本以上の作品を上映した。■今年のニュースの中で、伊勢の赤福、北海道の白い恋人、船場の吉兆などの有名な老舗からマクドナルド、ローソンまでが、賞味期限を改ざんしたり、食肉会社は食肉を偽装していたことが発覚して社会を騒然とさせた。■映画にも賞味期限があることを知らされた作品があった。新文芸坐の今年のワースト・ワンの番組は、『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』『ラッシュアワー3』の二本立てである。5月に公開された『パイレーツ・オブ・カリビアン〜』は、洋画で今年最も観客動員した映画として興行組合から“ゴールデングロス賞”を受けた。(邦画は『HERO』) 6ヵ月後に上映した時には、賞味期限が切れてしまったのか、動員力が失われていた。■『パイレーツ〜』は、多額の宣伝費を使って、当時としては史上最多の670スクリーンで公開した。全国津々浦々で、一気呵成に観客を集めようという戦略である。そんな配給会社の戦略は、商売としては成功したが、映画の商品価値を一瞬で消耗させたように思う。■山口県防府市の小俣八幡神社では、年末の神事として鎌倉時代から続いている奇祭、三回大笑いする《笑い講》が行われる。第一の笑いは、今年の豊作を感謝して、第二の笑いは、来年の豊作を祈念して、第三の笑いは、今年の憂さを晴らすために笑う。大きな笑い声は、五穀豊穣を祈念するばかりでなく、家内安全、健康増進、世界平和を願うなどの"招福の笑い"となる。大笑いして来年の幸運を呼び込んで新年をむかえたいと思う。

— 永田稔


名画座の、とある2本立て

2007/12/01 — 第177号

見逃していた『ロッキー・ザ・ファイナル』を当館で見た。評判に違わず、いやぁ〜泣けました。■私の友人に映画を年に400本以上見る猛者がいる。彼はロードショーで見ていて、今年のベスト5の1本と言っていた。いくらなんでもと、そのときは思ったが、見たら納得だった。■私の持論に“本当にいい映画は、もうストーリーはあまり重要でない”というのがある。この映画がいい例だ。かつてのチャンプも年老いて、最愛の妻にも先立たれ、虚ろな日々。しかしNEVER GIVE UP、人生を諦めるなと再びリングに……。ありきたりのベタな話。だが大筋と関係ない細部に、機知とユーモアをまぶしたちょっとした出来事、セリフの数々。これが妙に心地よい。シーンの連携も無駄がない。映画が転がるように進んでいく。“分かりやすいイイ話”がクサくならずストレートに胸に迫る。■映画の冒頭、ロッキーを侮辱する若者たちが出てくる。そしてラスト近く、ロッキーの試合を大勢が声援を上げながらテレビ観戦する酒場のシーン。カメラはその中に、息をのむようにしてテレビ画面に食い入る若者の姿を捉える。ロッキーを侮辱したあの若者たちだった……。このようなシーンがさりげなく挿入され、ラストの感動は一層鮮やかに浮かび上がる。■併映は『ダイ・ハード4.0』。『ロッキー〜』ほどではないけれど出来は悪くない。ある映画会社の男性が見に来て「凄いイイ2本立てですね!」言ってくれた。“ロートルおやじが体をはって頑張る”という2本立てのココロにも感心してくれたようだ。■ところでだが『ロッキー〜』にはパソコンは勿論、携帯電話すら登場しないんだゾ!
PS.来年はスタローン監督・主演の『ランボー4』がいよいよ公開です。

— 矢田庸一郎


昭和32年へタイムスリップ!

2007/11/16 — 第176号

新文芸坐を傘下に置く(株)マルハンの創業は、現会長の韓昌祐(ハン チャンウ)が京都府の丹後地方の峰山町で、クラシック音楽を聴かせる名曲喫茶《るーちぇ》を始めた1957年5月である。峰山町は、古い城下町で格式が高く、教養人が多い町であり、“丹後ちりめん”の生産地であったので、買い付けにくる商社マン、問屋の旦那衆で賑わっていたという。■当時、うどん一杯20円、ラーメン30円、ロードショー、封切り館の入場料金は150円、場末の名画座は三本立て50円の時代に、《るーちぇ》ではコーヒー一杯60円の値段でも大繁盛したという。■今年、創業50周年を迎えた(株)マルハンは、資本金100億円、3月の決算では全国にパチンコ店219店舗、ボウリング場、新文芸坐などレジャー施設14店舗を経営し、従業員8,428名、売り上げ1兆8149億円、海外に事業を展開するまでに発展する大企業になった。■昭和32年当時は、神武景気と言われていた時代で、映画界はモノクロからカラーへ、スタンダードからシネマスコープの大型画面へと、技術革新も目覚しく“娯楽の王様”として君臨していた。翌年には、映画史上最高の11億2700万人を動員した。■昭和32年に公開された日本映画は、キネ旬№1『米』、興行成績№1『明治天皇と日露大戦争』の他に『喜びも悲しみも幾年月』『幕末太陽伝』『蜘蛛巣城』『雪国』『東京暮色』『あらくれ』など評価の高い、次世代に伝えていくべき名作、傑作が多い。■マルハン創業50周年、新文芸坐7周年記念は、当時公開された作品で上映可能な作品を映画評論家・寺脇研さんの監修により、ゲストを招いての特集番組を企画した。21世紀の現在でも見応えのある50年前の作品を是非ご覧ください。

— 永田稔


『ラッシュアワー3』のほろ苦い感動

2007/11/01 — 第175号

『ラッシュアワー3』を上映します。◆1979年、カンフー映画の輸入に熱心だった東映の『トラック野郎』の併映で公開された『ドランク・モンキー/酔拳』以来、日本男子のヒーローであり続けるジャッキー・チェンですが、念願のアメリカ進出の壁は厚かったのです。80年に『バトルクリーク・ブロー』、85年に『プロテクター』がアメリカで作られますが、コミカルでアクロバティック、そして“温かさ”という彼の最大の魅力を知らない監督との衝突の末、進出は失敗に終わっています。ファンとしてはこれが本当に悔やまれる。香港では80年に『ヤング・マスター』、84年には『プロジェクトA』という屈指の傑作が撮られているのですから。タランティーノらの声高なリスペクトもあり95年香港製作の『レッド・ブロンクス』がアジア映画初の全米初登場1位の大ヒットとなり、98年『ラッシュアワー』の第1作でやっと不動の人気を勝ち取ったのです。◆そして、最近はアクションを封印して演技派として活躍する我らが真田広之。『ラストサムライ』でも見せなかった彼のアクションが遂にアメリカで解禁されるのです。しかも相手はジャッキー・チェン。20年以上前「デューク真田」として海外に売り込んでいた頃にこの二人の対決が実現していたら、アクション映画の歴史は変わっていたかもしれない……と一瞬思いましたが、もはや叶わぬ夢。今は世界を目指したアジアの二大スターが、こうしてハリウッドで対決する幸せに身を委ねましょう。実際、年齢を感じさせない迫力の立ち回りには感動します。勝手な達成感で目頭も熱くなります。◆“待ちに待った”対決は11月10日(土)から。

— 花俟良王


同じ轍を踏まないために

2007/10/16 — 第174号

つい先日の出来事です。電話で「新聞で見たのですが『雨に唄えば』は今日だけの上映ですか?」との問いに、そうですと答えると「ああ、残念。じゃ、結構です」ガチャン! ジーン・ケリーのファンかもしれず、せめて後日『錨を上げて』も上映しますよと教えてあげたかったのですが……。その電話の方は新聞には当日の上映作しか載らないことを知り、前もって知っていればと後悔したかもしれません。しかし今、既に同じ失敗を繰り返しているかもしれないことに気づいていません。近日中に、また観たい映画が上映されていることを新聞で知らされるという失敗を。■ウディ・アレンの『カメレオンマン』の主人公=ゼリグは、マルクス兄弟の映画が好きという設定でした。そして“マルクス兄弟が好きということは、自分の趣味が決して高尚ではないということを表明しているようなものだ。しかし気取らないその態度が周囲からは好感をもたれた……”という意味のナレーションが入っていたと記憶しています。マルクス兄弟の作品が公開当時どのように一般に受け入られていたか、少なくともウディ・アレンがどのように考えているかが分かります。今でも映画館で上映され、70年後のシネフィルの方々にも観てもらえるわけですが、公開当時のインテリたちには相手にされていたのでしょうか? そこで私は考えます。当時スラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)を馬鹿にしていた人々と同じ失敗を、自分も繰り返してはいないか? ■「ブレードランナー」や「グレート・ブルー」は幸せです。公開時の不入りから再評価そしてブレイクまで、たった数ヶ月で済んだのですから。「実はイーストウッドは昔から好きだった」なんて言うのも、後出しジャンケンみたいでカッコ悪いですよね。

— 関口芳雄


“不在”をめぐる2本立て/『ボルベール〈帰郷〉』と『キサラギ』

2007/10/01 — 第173号

『マタドール』(’86)や『欲望の法則』(’87)など初期アルモドバル作品では性愛に引き裂かれ死に至る人々の姿などが鮮烈に描かれます。そのアルモドバルの指向に変化を感じたのは『オール・アバウト・マイ・マザー』(’98)。この作品でも性や死は重要なテーマですが、引き裂かれた存在であっても、生きることそのものに希望を託す、そんな印象を持ちました。●本作も『オール・アバウト〜』に連なる作品で、様々な女たちの人生が時に悲しく、時にユーモラスに描かれます。冒頭、女たちが風が吹き荒ぶ中、墓を掃除するシーンから始まります。ちょっと暗示的なシーンです。実はこの映画では死や人物の不在といった事柄が沢山描かれます。でも、重く深刻な映画でもなく、例えば死者らしき者が正体不明のままちょくちょく画面に姿を現し笑いを誘ったりと、不思議な雰囲気を持った映画になっています。●ある女性は死に触れて逆に人生を活性化させ、ある女性は絆を求め、またある女性は封印していた過去と対峙します。巨匠の円熟の演出というものでしょうか、『オール・アバウト〜』での、映画の慟哭や力みは抑制され、瑞々しさとさり気なさに包まれています。涙、怒り、笑い、全部描かれているけれど静かな感動作、なのです!●『キサラギ』は、自殺した(!?)アイドルの一周忌。集まってきた5人のファンの男たちによって謎の死が明らかに……というミステリー仕立ての絶妙コメディ。縦横無尽に張られた伏線と二転三転する真相。不在の主人公という空白から、巧みな話術によって奔放に物語が溢れ出る、文句なく楽しい映画です!●映画好きなら必ず楽しめる2本ですので是非ご来館を。11/3より1週間上映。

— 矢田庸一郎


いつの日かまた、アイマックスを。

2007/09/16 — 第172号

品川にあった都内唯一のアイマックスシアターが3月に閉館してしまいました。アイマックスとはカナダで開発された映画史上最大のフィルムサイズを誇る上映方式のことです。フィルム幅は70ミリですが、横に送るため面積が広く、通常の70ミリ映画の3倍になり、35ミリに対しては10倍にもなるそうです。渋谷パンテオン閉館時に上映した70ミリの「プレイタイム」は若干センターにブレが見られましたが、それより大きいこのフィルムではさらに面ブレが気になるところです。しかし対策は万全、上映中は撮影機のようにパーフォレーション(フィルムを送る穴)にピンを出して固定、さらに真空装置でレンズ後面に固定しているそうです。巨大なスクリーンを含めたこの上映設備から得られる映像は情報量が非常に多いうえ、迫り来るような圧倒的な迫力があり、フィルムの持つ能力の凄さをまざまざと見せ付けてくれます。●上映作品は3D映像や科学的な番組のほか、劇場用の一般映画も上映していました。私も「スーパーマン・リターンズ(アイマックスのみの一部3D)」等、色々見に行きましたが、中でも圧巻なのがアイマックス向けに音を編集し直した「イノセンス」でした。音響、映像とも通常の劇場での体験とは全く異なり、この映画はアイマックスでのみ観るべき映画なのかと思うほどでした。で、3回も見に行ってしまったのですが、いつもガラガラ。いや、「イノセンス」に限らずいつも空いていました。新宿にアイマックスがあった時も混雑していた記憶がないので、立地のせいだけではないようです。●この先新たに劇場を作るのは困難とは思いますが、復活することがあったら、またつぶれないよう是非見に行ってください。

— 梅原浩二


吹き替えについて思うこと

2007/09/01 — 第171号

ハリウッド映画に限っていえば、映画館でも日本語吹替版という選択肢が普通にある時代になりました。若い世代には「字幕は面倒」などと臆面もなくいう連中もいるとか……。昨今の日本映画の好調ぶりの要因のひとつに、この字幕嫌いというものが寄与しているとするならば随分とお寒い話です。■9/15(土)のオールナイトは「最新アニメ ベストセレクション」と題した4本立ですが、この中の3本は主役級がいわゆるプロの声優ではなく、普通の俳優や新人です。唯一「パプリカ」のみ、アニメ界の中堅・ベテラン声優陣に加え、外画アテレコ業界の実力者をを配しています。豪華声優陣といっても良いでしょう。堀勝之祐といえば野沢那智に次ぐ“アラン・ドロン”声優で、TVアニメ「ベルサイユのばら」では野沢氏が入院した際にピンチヒッターとしてフェルゼン役を演じたことを思い出しますが、「パプリカ」ではドロン、フェルゼンといった美形とはずいぶん違ったキャラクタを演じています。他に、大塚明夫や山寺宏一、田中秀幸など、一流の声優を多用していますが、プロは声を聴くだけで安心しますね。「時をかける少女」も中村正の声で妙に落ち着くのです。■もちろん俳優でも素晴らしい声の演技をする人は数多くいます。江守徹の演技力と美声は余人を以っては代え難いし、蒼井優もプロの声優と聞きまがうほど秀逸な演技でした。しかし話題づくりのキャスティングに走り過ぎた失敗例も少なくありません。TV放映された百恵&友和が吹替えた「ある愛の詩」や、渡辺徹(ルーク!)・大場久美子(レイア!!)・松崎しげる(ソロ!!!)の「スター・ウォーズ」あたりから始まった傾向でしょうか。ジブリ作品だって、声に不満を持つ人は多いはずです。

— 関口芳雄


えっ? 中川信夫監督が新文芸坐に来るって!?

2007/08/16 — 第170号

今年は、中川信夫監督の生誕102年。中川監督が酒とともに大好物の「豆腐」、いわゆる「102(トーフ)」の年です。

中川信夫は「東海道四谷怪談」「地獄」などの怪談恐怖映画の監督として知られていますが全97作品中、手がけた怪談恐怖映画は8作品しかありません。今回、新文芸坐の9/1(土)・8(土)のオールナイト特集では、「怪談累が渕」を除く7作品が上映されます。プラス、ビッグなプレゼント。めったに見られない「日本残酷物語」を上映。

「おれはお化けは信じないよ。怖いのは人間だ」と、中川信夫は言っています。

他のジャンルの作品も多く手がけています。しかし、人間の愚かさの追及と、底辺からの優しい眼差しにはブレがない中川信夫。

職人中川信夫が腕を振るった怪談恐怖作品から、人間中川信夫の視点を探り出すのも今回はいい機会でしょう。

現在102歳の中川監督は、長年温めていたダンテの「神曲」を撮影中です。ダンテ役を中川監督自身が演じます。地獄に落ちる主人公のモデルは小泉純一郎前総理。

えっ? 中川信夫は1984年に亡くなっているはず?

いえいえ、あのお方はなかなか亡くなりませんよ。そして、イタズラ好きなんです。

だから、お会いしたい方は、オールナイトにいらっしゃいませんか。上映中の暗い館内で「カタ、カタ、カタ……」と下駄の音を聞かれたあなた、音がやんだら隣の席を見てください。登山帽をかぶった中川信夫が酒と豆腐を手に座っていますよ。

追伸 9月8日、午後4時から、中川監督を偲ぶ集い「酒豆忌」を池袋で行います。皆さんの参加も自由です。ここにも中川監督みえるかな。

— 鈴木健介(映画監督)


「原爆で戦争終結、しょうがない」発言に思う

2007/08/01 — 第169号

「しょうがない」という言葉は日常茶飯事に使われているが、久間前大臣が講演会で話した「原爆を落とされて無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったのだという頭の整理で今、しょうがないと思っている」という発言は、世界唯一の被爆国である国民を怒らせた。▲無差別に多くの市民を殺害した原爆投下を「しょうがない」という表現で“必要悪”として容認することは出来ない。原爆は、自然現象で空から雨が降ってくるのとは違い、人間が研究、開発、製造して、目的を持って使用したのである。▲核兵器廃絶を世界に発信する最も説得力を持つ被爆国の大臣が、無差別の大量殺害の原爆投下を「しょうがない」という言葉で整理してしまう無神経さに呆れてしまうし、安倍総理も注意だけで、世論を沈静化しようとした問題認識の低さにも唖然とする。▲太平洋戦争に敗戦した日本国民にとって、戦争と核兵器は“絶対悪”である。平和という名目の下でも、国益という名目の下でも、国民のためという名目でも、如何なる状況であっても“必要悪”の選択肢はない。▲当館では毎年終戦の日に因み、戦争の時代を背景にして“生”“死”“愛”“友情”“家族”“国家”“運命”“軍隊”など戦争という異常な状況の下での様々な人間ドラマを描いた名作、傑作、秀作を上映して、映画を通して戦争を語り継ぐ企画上映をしている。▲映画を楽しみながら、映画と史実が次世代へ受け継がれて欲しいと願っている。今年は、先頃亡くなった社会派の巨匠・熊井啓監督の追悼上映と合わせて8/4から3週間毎日替りで特集上映する。今の日本の政治、社会状況を考えるキッカケになればと思う。

— 永田稔


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