スタッフコラム:2013年

黒沢清の見つめた世界をより理解するために

2013/07/17 — 第283号

静かな喫茶店で関係者も連れずに私と向かい合って座っている映画監督は、こちらの質問や提案の一つ一つに真摯に対応してくれる。マスコミに登場する時の印象と何も変わらない。思慮深く、哲学的で、そして映画を愛する黒沢清監督だ。■『神田川淫乱戦争』で商業映画デビューを飾って30年。規制が比較的緩いオリジナルビデオ作品で作家性を磨き、『CURE』でその名は爆発的に広がった。その後は代名詞とされる恐怖演出を用いぬ作品群でも高い評価を得ている。当館のオールナイト上映では7/27、8/3の2夜に分けて黒沢監督の軌跡をトークも交えて振り返る。■今回は監督本人に上映作品を選定してもらうことにこだわった。「『ドッペルゲンガー』『LOFT』などは思い入れの割りには観客にスルーされた印象」と監督は語る。重層的な物語、散見されるメタファー、独特のユーモアなど、時として難解と評される黒沢作品の全貌を私たちは理解できているのか、という想いは強い。■豪華なトークゲストは全員出演を快諾してくれた。第一夜は『CURE』以降の黒沢作品の顔でもある役所広司さんと、共著などもある理解者・篠崎誠監督。第二夜は立教大学が繋ぐ盟友、万田邦敏監督と青山真治監督(余談だが、青山監督は本企画が立ち上がる前に「黒沢清監督生活30周年を記念して新文芸坐で1ヶ月特集を組むべし」という旨のツイートをしている)。■黒沢作品を初見の方は勿論感動と充実の夜になるだろう。しかしこのオールナイトは「入門編」ではない。鬼才の本質を理解し31年目からの活躍をより楽しむ映画ファンのための「応用編」である。詳細は裏面を。

— 花俟良王


仲代達矢役者生活60周年記念《仲代達矢映画祭》

2013/06/29 — 第282号

■今年のカンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督作品『そして父になる』が審査員賞を受賞した。その時パリでは《仲代達矢特集》が開催されていて、本人も渡仏した。仲代達矢が出演した市川崑監督作品『鍵』が、1960年に同じ賞を受賞している。他に仲代達矢が出演した作品が、世界の三大映画祭、アカデミー賞で複数回受賞している。日本が世界に誇れる映画俳優である。■昨年暮れに80歳になった仲代達矢は、今年、役者生活60周年という節目の年を迎えた。仲代達矢は、演劇に対して強い気概から、映画出演と平行して舞台に立ち続けている。舞台俳優として芸術選奨文部大臣賞を始め、各演劇賞を複数回受賞している。又、75年から俳優を育成する「無名塾」を主宰し、役所広司、若村麻由美などの俳優が巣立っている。舞台俳優としても世界に知られている。仲代達矢は日本の文化功労者であり、仏国から勲章を受章するなど数々の褒章を受けている。■60周年記念の演劇公演は、不条理劇の名作イヨネスコ原作の『授業』であった。「不条理」を辞書で調べると、「筋道が通らないこと、道理に合わないこと」と書いてある。論理的思考による劇作を否定して、演技力、表現力が見所の芝居のことである。汗を流し、台詞でつばを飛ばし、名優仲代達矢を全て曝け出して、小劇場でのニヶ月に亘る公演を完遂した。傘寿で、役者で還暦の仲代達矢は、体力、気力、知力等々心身共に健在であることを顕示した。■60周年を記念した《仲代達矢映画祭》は、7/6〜20まで開催する。仲代達矢は、演劇で培われた演技力を見込まれて、巨匠作品に多く出演している。巨匠+名優=不朽の名作。映画ファン必見である。

— 永田稔


いまふたたびの、是枝裕和

2013/06/14 — 第281号

皆様ご存知かと思いますが、今年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で是枝裕和監督の『そして父になる』が審査員賞を受賞しました。個人的な映画史において、是枝監督は語るのに欠かせない映画人の一人です。■生まれて初めて一人で観に行った映画が是枝監督の『ワンダフルライフ』でした。『ワンダフルライフ』をご覧になった方はご存知でしょうが、この作品はフィクションとドキュメンタリーが融合した、「ふつう」の映画とはちょっと違う雰囲気の映画です。それまで映画といえば、ほとんどテレビで放映しているものしか観たことなかった中学生にとっては衝撃的でした。どうやら映画というのは何でもありらしい、という認識がこの映画によってしっかりと刻み込まれました。その後、当館で開催された是枝裕和ナイトで人生初のオールナイトを体験するなど、映画人生の節目で是枝監督がひょいと顔を出しているような気がします。■是枝作品で有名なのはやはりカンヌで賞を取った『誰も知らない』かと思いますが、私が好きなのは『DISTANCE』。オウム真理教の事件をモチーフに加害者遺族を描いた作品として語られることが多いですが、ミステリ好きにはミステリ映画にしか見えません。見え隠れする過去の断片と謎のピースが最後にぴったりとあるべき場所へ収まってゆくあの快感をミステリと言わずしてなんと言おうか!■そしてなんと! 是枝監督オールナイト企画が現在進行中です。詳細は未定ですが、手作りおにぎりが忘れられない『DISTANCE』や、枝豆みょうがご飯が食べたくなることで有名な『歩いても 歩いても』なども上映するかもしれませんので、お腹を空かせて乞うご期待!

— 小澤麻梨子


DCP徒然 〜旧作とDCP〜

2013/05/28 — 第280号

前号でもお伝えしましたが、当館はデジタル素材であるDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)上映対応のためデジタル映写設備を導入しました。テレビの“地デジ化”のように、上映も全てデジタルになってしまうの? と心配する方がいますが、従来通りフィルムの作品はフィルムで上映しますのでご安心ください。■ですが、旧作をめぐる上映環境にも変化が起こっています。6/1(土)からの特集〈木下惠介生誕100年祭〉で上映する『二十四の瞳』『楢山節考』『カルメン故郷に帰る』の3本はデジタルリマスター版&DCP上映です。“デジタルリマスター”というのはフィルムをデジタルデータに読み取って修復する作業の事で、今まではこのリマスターを施したものを劇場で公開するにあたって再度フィルムにしていたのですが、最近ではデジタルのままDCPで上映するケースが増えてきました。いまや全国ほとんどのスクリーンがデジタル化されており、もはやフィルムで上映することの方が稀になっています。このような環境では、上映素材として新たにフィルムが作られる事はどんどん難しくなっているのです。洋画名作のリバイバル上映で好評の「午前十時の映画祭」もこれまではフィルム上映でしたが、今開催されているものは全作DCP上映になりました。■また、木下惠介生誕100年プロジェクトの一環として、カンヌ映画祭での『楢山節考』の上映をはじめ、各国の映画祭での特別上映が行なわれていますが、字幕入りのフィルムをわざわざ作らなくても字幕のデータだけを加えればよいDCP上映は、他国での上映にも最適です。小津安二郎監督の生誕110年&没後50年プロジェクトでも『彼岸花』『お早よう』『秋日和』『秋刀魚の味』の4作品のデジタルリマスター&DCP化と共に、各国での上映が決定しています。■このように旧作の上映においてもデジタル化の波は確実に影響を及ぼしていますが、新旧洋邦問わずあらゆる映画を上映するという当館のスタンスに変わりはありません。

— 後藤佑輔


初のDCP上映は5/25より大ヒット、フランス映画『最強のふたり』

2013/05/13 — 第279号

2012年末の時点で日本全国の映画館の数は601館、総スクリーン数は3290です。そのうちほぼ9割のスクリーンが、デジタル・シネマ・パッケージ(DCP)というデジタルデータを上映する“デジタル対応”となっています。●2009年のデジタル3D映画「アバター」以来、日本でも急速にデジタル映写設備の導入が進み、それに応じて新作映画は35ミリ・プリント(フィルム)とDCPが両方用意されるようになりました。そして、いよいよ今年になると、まったくプリントを作らずDCPだけで公開をする映画も多くなりました。新作映画を上映するロードショー館のほとんどは、従来の35ミリ・プリントではなくDCPというデータを専用の映写機で映写しているわけです。●当館は、主に古い日本映画の名作上映と、世界で今、製作されている新作映画の上映の二本柱で活動を行っています。旧作と新作のどちらかだけでいいというものではありません。古今東西の全ての映画を映画ファンの皆様に見ていただくのが新文芸坐の使命と考えています。●そういうわけで、当館もデジタル映写設備を導入し、今後はさらに一層、新作上映にも力を入れていきたいと思います。また古い日本映画の名作も、従来どおり35ミリ・プリントで上映を行っていきます。●当館での最初のDCP上映は、東京国際映画祭グランプリ・最優秀男優賞、セザール賞主演男優賞、そして2012年度新文芸坐ベストテン洋画部門第3位の大ヒット作品『最強のふたり』です。5/25より他の名画座に先駆けて上映します。大金持ちの白人男性と貧しい黒人の青年との、心と心の触れ合いを笑いと涙で描く感動作です。今まで以上のクリアーでシャープな映像をお楽しみください。

— 矢田庸一郎


ほろ苦い大人のファンタジー、『ミッドナイト・イン・パリ』

2013/04/25 — 第278号

当館では5/25〜31、ウディ・アレン監督作『ミッドナイト・イン・パリ』を上映します。大人のファンタジー映画です。新文芸坐のお客様は圧倒的に大人が多いはずです。是非ご覧ください。■思い出すのは、同じくウディ・アレンの『カイロの紫のバラ(1985)』という、ミア・ファローがヒロインを演じた作品。映画のスクリーンから憧れのヒーローが飛び出して、生身のヒロインと恋に落ちる……という、まあ言ってみれば荒唐無稽なファンタジーではあります。しかし結ばれるはずのない二人は、それぞれの世界に戻るのが定め。皆様が想像するとおりの、ほろ苦いラストが待っています。これが普通の大人の映画というものでしょう。■ほぼ同時期に『コクーン』という老人と宇宙人の交流を描いたSF映画がありまして、これには驚きました。老いがテーマであるにもかかわらず、人生の渋味も深みもまったくない、『カイロ…』とは真逆のラスト! 監督はロン・ハワードで、現実逃避のハッピーエンドとしては『スプラッシュ』で前科がありました(これは好き)。今でこそ立派なオスカー監督ですが、そんな時代もあったわけです。■さて『ミッドナイト・イン・パリ』は無論、大人の映画です。しかも苦くて甘い、毒のある映画です。ネタバレできないのでまずは本編をご覧いただくとして、ひと言申し上げておきたいのは、「私には無限の可能性があるんだ。いつか時機が来れば私の実力を世に問うてやる!」というタイプの御仁は、怪我をするぞ、ということであります。自分探しの旅の途にある人は、観ないが賢明です。人生の苦味を知る大人にこそ観て欲しい映画です。

— 関口芳雄


その原動力となった監督とは

2013/04/11 — 第277号

昨年のゴダールオールナイトにて、もっとゴダールを身近に感じてもらおうと、かつて池袋の映画館マガジン『buku』に執筆されていた映画評論家・大寺眞輔さんに上映前の“作品解説”をお願いした。大寺さんは「そうだ、ゴダールになろう!」という突飛な切り口で、見事難解の権化ともいえる作家の敷居をグンと下げてくれた。■その日の控え室で大寺さんは「今、ポルトガルに面白い監督がいる。どうにか日本でも上映したい」「既存の上映システムを変えていきたい」と熱く語っていたのが印象的だった。果たして大寺さん主宰の「DotDash」という上映団体が立ち上がる。誰も輸入しないのなら、その“面白い監督”の映画を自分で上映してしまえということだ。■スポンサーなし、自費とクラウドファンディング(ネット上での融資募集)で経費をまかない、本国との交渉も字幕付けも自分たちで行った。その試みはいつしかDIY(Do It Yourself)映画祭と呼ばれていた。私は(傍観者として)フリーメールやツイッターで進捗を見ていたので、少数のスタッフも含めかなりの苦労があったのを知っている。だからこそ監督の招聘が実現し、上映会の盛況を聞いたときは勝手に歓び、胸をなでおろした。さて、いったい大寺さんたちをそこまで突き動かした映画監督とは何者なのか。■それでは皆さん、ポルトガルの異才、ジョアン・ペドロ・ロドリゲスを紹介します。その才能を5/11のオールナイトで目に焼きつけてください。

— 花俟良王


映画を楽しむ重要な条件

2013/03/28 — 第276号

■三寒四温と思っていたら一気に暖かくなり、あっという間に桜の季節も過ぎてしまいました。3月は気温の変化が激しかったですね。3月の半ばには当館でも今年初めて空調で冷房を入れました。■当館ではお客様が快適に映画を鑑賞できるように、毎日空調の調節に気を付けております。休憩時間に毎回スタッフが場内に入り前方と後方に設置している温度計で気温を確認します。そして気温チェック表に記入して日々管理しています。■「快適な空調の調節」というのは実は意外に難しいです。業務用だからか細かい設定もできず、寒いので設定を一段階上げると今度はすごく暑くなったりします。また外気温にも左右され、同じ設定温度でも冷房や暖房の効き方が違ったりします。また感じ方も、同時に暑いと思う方や寒いと思う方がいたり、男性や女性、個人によってもかなり違います。■そういうわけでそれらをすべて考慮した上でベストを追求して空調の調節に励んでいます。しかし至らないこともありますので「寒い」「暑い」は積極的にスタッフにお申し出ください。ひざ掛けの貸出しやお座席のアドバイスなど、皆さまが心地よく映画を鑑賞できるようお力添えいたします。

— 釘宮あかね


3/28より「気になる日本映画達2012 Part 2」を開催

2013/03/15 — 第275号

『桐島、部活やめるってよ』が日本アカデミー賞最優秀作品賞など3冠! には正直ビックリ。「気になる日本映画2012」も旬の日本映画の勢いを感じながらお送りしたが、意外に日本映画、熱いじゃん。●この「Part2」の注目の4作品をご紹介。●『ニッポンの嘘』というタイトルからして何か人を不安にさせるものがある。学生運動、自衛隊、公害などニッポンの真実の姿を撮り続けた報道写真家・福島菊次郎90歳。2011年9月、彼は人生最後の取材場所として福島に向かう。一見、可愛いお爺さんの中には絶えることのない反骨精神がみなぎっている。淡々と語られる戦後史の真相の数々も衝撃的。キネ旬文化映画1位だが「文化映画」という枠をぶち破る感動作なのだ。●併映は『フタバから遠く離れて』。福島県双葉町の住民約1200人は町役場機能とともに遠く離れた埼玉県の高校に避難する。そんな避難住民たちの日常に寄り添った9ヶ月の記録である。テレビや新聞で見聞きしていたものは上っ面に過ぎなかったと思い知らされる。上映日3/28、19:45から両作品の監督のトークショーを開催。●3/30〜4/2はキネ旬1位『かぞくのくに』とキネ旬読者選出1位『鍵泥棒のメソッド』の二本立て。●『かぞくのくに』の監督はドキュメンタリー『ディア・ピョンヤン』などで世界的な評価を受けたヤン・ヨンヒ監督。北朝鮮に移住した彼女の実際の兄が、病気治療のため25年ぶりに来日し家族と過ごした数日間を劇映画として撮った。国境と家族、政治と人の絆など様々なことを考えさせる問題作。3/31、13:35よりヤン・ヨンヒ監督のトークショーを開催。●一方『鍵泥棒〜』は内田けんじ監督ならではの完璧に作り込まれたシナリオと演出が存分に楽しめる。読者選出1位も納得の出来だ。騙される快感に身も心も委ねてみては。

— 矢田庸一郎


故・大島渚監督の新文芸坐への「思い」「願い」

2013/03/01 — 第274号

■世界の映画監督・大島渚が亡くなった。その訃報は、一般社会にも大きな衝撃を与え、世界中の映画人からも悲しみのコメントが送られてきた。■新文芸坐開場の時には、大島監督から次のメッセージが寄せられた。

『日本の夜と霧』(60年)の再上映に始まって、ことあるごとに僕を呼び映画を上映してくれた文芸坐は、日本映画館のなかで一番縁が深かった映画館だ、と言っていい。

ひとつの映画館とこれほど結びつきがあったということは、ひとりの映画人として幸福なことだったと思う。そういう意味で文芸坐はいわば僕の映画の原点であり、また時には、一種、魂のふるさとのようにも感じられたものである。

たんにひとつの映画館というだけでなく、日本映画の礎となって文芸坐は池袋の地にありつづけてほしいと願う。

大島渚

■60年安保闘争を題材にした『日本の夜と霧』は、封切して4日目に起きた浅沼社会党委員長刺殺事件により、突然上映中止になり、大島監督は松竹を退社した。その後、63年に文芸坐で再上映されたことが、大島監督の復活を早める切っ掛けになった。半世紀前の出来事を大島監督が恩義に感じて、文芸坐(新文芸坐)に対する心情が吐露された言葉で光栄に思う。新文芸坐は、世界の映画監督・大島渚の思いと願いを肝に銘じて、邁進していくことを「大喝無量居士」に誓う。合掌。

— 永田稔


スタッフコラム

2021/01/15
映画は映画館で観るもの
2021/01/01
明けましておめでとうございます
2020/11/13
正直、まだ実感できていません。
2020/08/01
寅さん再入門
2020/07/07
底抜けおじさん
2020/06/08
テレキネシスに呼び起こされた私のプロムパーティー

年別アーカイブ