スタッフコラム:2020年

正直、まだ実感できていません。

2020/11/13

あの日のニュースを新文芸坐で最初に知ったのは、図らずも私でした。そのあまりにも唐突な現実感のないニュースに、私と歳の近い同僚たちは言葉を失い、ベテランのスタッフですら驚愕していました。私自身、その突拍子もない事実を認識するのに、ずいぶん時間がかかりました。三浦春馬という人は29歳の私にとって、学生時代を思い返したとき最初に思い浮かぶ俳優です。

彼のことを初めて知ったのは『恋空』でした。私の中高時代はいわゆるケータイ小説ブームの真っ只中で、クラスメイトの、特に女の子たちの間では『恋空』を読んでいる子が多かったです。その映画版が公開されるや、観に行ったという声が教室内に溢れたのを覚えています。私と同年代の人々には、仲良しの友達や、初めてできた恋人と、この映画を観たという方も多いのではないでしょうか。あの頃の憧れそのものが失われてしまったように感じてしまうのも、きっと私だけではないはず。

当館で彼の特集上映が企画されたとき、開催するまでには全スタッフを通し、かなり時間をかけて議論されました。老齢の俳優が亡くなったのとは訳が違うからです。紆余曲折があって開催が決定し、想定を超えるお客様がアクセスされたことでサーバーがパンクし、ご迷惑をおかけしたりもしました。それでも開催後、多くのお客様が口頭やネットで伝えて下さった感謝の言葉の多さに、開催してよかったとスタッフ一同心から思えました。映画館にできることはたしかにあるのだと実感しました。そして、三浦春馬さんがいかに多くの人に愛されていたのか、ということも。

— 浜本栄紀


寅さん再入門

2020/08/01

中3から高1にかけてテレビで放映された「男はつらいよ」全話放映を家族と見ました。1年半ほどの間寅さんをみるのが習慣になっていたので、とらやや柴又の風景は私の少年期のころの風景となかば同化しています。放映後の山本晋也と渡辺俊雄のレビュートークも楽しかった記憶(今おもうとそれが軽い日本映画入門になっていました)。

当館の寅さん特集のチラシにはゲスト出演の俳優陣も掲載されていますが、子どものころは日本映画史に無知だったので、田中絹代も嵐寛も知りませんでした。今振り返ってシリーズの出演陣を見ると、如何に豪華だったかが理解できます。今回の特集ではそんなゲスト陣の演技にも注目してみたいと思います。

8月の中旬には恒例の戦争・社会派映画が上映されますが、「男はつらいよ」の世界の人々も戦時中および戦後の混乱期の体験があります。作品設定では寅次郎も1950年に家出し、社会のグレーゾーンを生き延びてきた人です。世代的に当たり前のことですが、これも子どものころにはなかった視点です。

「男はつらいよ」はもともと安藤昇の原案らしいですが、それが本当の話なら実際のやくざだった安藤昇の周囲にも、寅次郎のような陽気な的屋の青年がいたのかもしれません。強面な面々相手に笑いを取っていたのかと妄想が膨らみます。

わたしの母は高校生の頃(1976年頃)、横浜のバス停で寅さん姿の渥美清さんに話しかけられたことがあるらしいです。懐かしそうに話す母の話をよく聞いていたので、平成生まれの私にも寅さんは親戚のオジサンのような身近な存在になっています。今回の特集で代表作を見直して、山本×渡辺の寅さんオタクトークが書籍化されているらしいのでそれもチェックし、今年の夏は寅さんに再入門してみることにします。

— 笠原伊織


底抜けおじさん

2020/07/07

私の尊敬する人が亡くなられた。「志村けん」さんです。志村けんは『8時だよ全員集合』で国民的人気を博し、日本のお笑い界を牽引する一人でした。私もお笑いが大好きなので志村けんのコントDVDを借りて何度も見ました。そんな彼が生前、自分の笑いの起源はジェリー・ルイスだと語っていました。

「ジェリー・ルイス」は底抜けシリーズで有名な60年代を代表するコメディアン/コメディ俳優です。46年に歌手のディーン・マーティンと底抜けコンビというコメディグループを結成し、「ディーン&ルイス」と呼ばれパワフルかつ突発的なパフォーマンスで観客を魅了しました。そんな世界が誇るコメディアンと日本が誇るコメディアン。私はその両方を観ることで改めて志村けんはルイスの影響を受けていると感じたので、二人の似ているところ書きたいと思います。

志村けんと言えば大袈裟な表情が印象的です。バカ殿やドリフ、特に指揮者のコントでは声を一切発さず表情だけで笑いを取っています。同じくルイスも大袈裟な表情と皮肉な表現がうりです。お互い喜怒哀楽+αの表情を使い分けることで完璧な間抜けを演じているのだと思います。

次の共通点はアドリブに対するこだわりです。志村けんはアドリブの応酬と言われるほど舞台上のアドリブで生まれた笑いが大切だと語っていました。ルイスも自身のコントの際、台本には余白が非常に多く、アドリブの笑いを多く使っていました。ルイスの相方のマーティンはその余白の多い台本のことを「青写真」だと語っています。お二人の共通点はまだまだ感じたのですが、文字制限があるので今回はこのくらいで。

最後に、私の父親が「俺らの世代は志村の子」と言っていました。そうなると私は「志村の孫の世代」になります。ジェリー・ルイスが志村けんに影響を与えたように、志村けんに影響を受けた者が次の世代に繋いでいくのです。志村けんさん多くの笑いと感動をありがとうございました。心よりご冥福をお祈りいたします。

— 小池桔平


テレキネシスに呼び起こされた私のプロムパーティー

2020/06/08

緊急事態宣言の中、『キャリー』(76)を初めて観た。

学校ではいじめられ、家ではキリスト教信者の母から虐待を受けていた主人公のキャリー。プロムパーティーのキャリーの止まらないテレキネシスは気持ちが良かった(あまり声を大きくして言えないが)。

『キャリー』を観て、アメリカの学校に通っていた学生時代を思い出した。もともと、友達も少なく、恋人もいない。人と話したり、コミニュケーションが苦手で、学生時代の思い出は多くない。アメリカの学校では、いじめはないがアジア人差別を受けてきた。苦い思い出の方が多い。どちらかと言えば、私もキャリーのようなタイプだった。

高校1年生の頃、友達からの誘いで初めてプロムパーティーに行った。私もキャリーのように誘われた事が嬉しかった。苦い思い出が多い中でも、輝かしい学生時代の思い出を作りたかった。

プロムパーティー当日。その日の為に用意した、黒のレースのドレスを着て、ヒールの高いショートブーツを履き、馴れない格好に着心地は決して良くなかったが、おめかしをして夜の学校へと向かう車内で内心とてもワクワクしていた。

学校に到着した時には緊張していたが、学校の中庭で流れるダンスミュージック、外壁に投影された映像、様々な装飾に心が踊った。全てがキラキラしていた。

内向的だが思い出作りにちょっと踊ったりした。気になっていた男の子には軽い挨拶しかできずモヤモヤした。ソフトドリンクにお酒が入ってると聞いてビビって飲めなかった事も今となっては良い思い出だ。思い返せば、プロムパーティーは輝かしい思い出になっていた。

キャリーにとってのプロムパーティーの輝きは一瞬で終わり、悲しみと怒りをもたらしたが、手作りのピンクのドレスを着て、男の子と幸せそうに踊り、キラキラとした笑顔のキャリーを思い出すと、あの一瞬には私のプロムパーティーの思い出は到底敵わないと、映画を観終えてそう思った。

— 矢内さくら


忘れ得ぬ美しき戦慄と婆ばの顔

2020/03/31

マリオとダリオと聞くと、のりお・よしおのような漫才師に聞こえるが、ツクツクボーシ!の方ではなく、ご存知イタリアンホラーの巨匠マリオ・バーヴァとダリオ・アルジェントのことである。

バーヴァはジャーロ(イタリア製猟奇スリラー)の父と呼ばれその起源は『知りすぎた少女』(63)からと言われる。アルジェントもジャーロ特有の残酷描写や色彩、黒ずくめの犯人、革手袋などの表現や美意識の文化を興隆させた1人だ。アルジェントの『サスペリア』(77)『インフェルノ』(80)の美しい極彩色はバーヴァの『モデル連続殺人!』(64)の影響が大きく、実際バーヴァが『インフェルノ』では特殊効果を担当。これがバーヴァの最後の仕事で、80年4/27に死去。今年は没後40周年だ。

バーヴァはもともと撮影監督として知られ、R・ロッセリーニやR・ウォルシュなどの撮影を経て、魔女ものゴシック・ホラーの傑作『血塗られた墓標』(60)で長編初監督。後の『バンパイアの惑星』(65)は『エイリアン』(79)の元ネタの1つ。オチが驚愕の『血みどろの入江』(71)は『13日の金曜日』(80)の元ネタだ。数多の作品で影響を与え、フェリーニ、ティム・バートン、タランティーノなども影響下にあり、如何に偉大かが伺える。

個人的にはオムニバスホラー『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』(63)の「一滴の水」がトラウマ。屋敷の主の交霊術好きの婆ばが亡くなったと呼び出された看護師のヒロインが、魔が差したのか婆ばの指輪を盗んだことで、亡霊婆ばに襲撃される話。原色を配した空間が幻想的で不安を煽るなか、断然この婆ばの顔が恐怖!現世に存在しない厭な悍ましさは悪霊そのもので、生涯忘れ得ない。(AKIRAのキヨコに激似!)

先述したジャーロの起源『知りすぎた少女』はヒッチコックの『知りすぎていた男』(56)が由来だが、バーヴァの2日後の4/29にそのヒッチ・コックが死去した。

この40年の節目で願わくはバーヴァの世界を劇場で享受したい。ホラーが苦手な人も虚心坦懐の想いで望めばこれ幸いである。そして、何の因果もないが想起すれば、のりお・よしおが活躍した漫才ブームは80年に始まるのであった。

— 平山晋也


『キャッツ』と猫と夢

2020/02/27

タイトルの通り今月のコラムは話題沸騰の映画『キャッツ』についてです。

名曲『メモリー』をはじめとした音楽、ダンス(タップダンスのシーンは見ごたえ抜群!)、展開、演出など、『キャッツ』について語りたいことはたくさんありますが、ここでは『キャッツ』に出てくる「猫」について取り上げようと思います。

この作品に出てくる猫たちは、人間とは別種の生き物であり、人間の想像や理解が及ばない存在です。SNSやテレビで日々消費される「可愛いネコちゃん」は一匹も出てきません。常識も、倫理も、嗜好も、私を含めた観客たちはほとんどついていけないでしょう。自分の場合、次々と繰り出される猫たちの歌と踊りと狂気の世界に、いつの間にか酔いしれてしまいました。

中途半端なジェンダーフリー要素もなければ、ご都合主義の恋愛要素もなく、人間に都合のいい猫が出てこない本作は、最初から最後まで猫たちの狂宴を見事に描き切りました。狂気の夢そのもののような作品のため、好き嫌いは確実に分かれます。それでも、観に行くのを悩んでいる方は、常識と偏見、それから映画の知識と猫への幻想を捨てて、『キャッツ』の世界にぜひ飛び込んでみてください。

— 浜本栄紀


エビス・ラビリンス

2020/01/31

秋刀魚のカレーを食べて恵比寿駅に向かう。20分歩いたところで立ち止まる。地図を見て駅からカレー屋に辿り着いたときは、10分もかからなかった。迷っている。これから映画を見る予定だが開映まで余裕がある。偶然行き着くかもしれないので、見覚えがある気がする道を行く。更に10分経つ。駅に近づく気配はない。スマートフォンの地図を開く。現在地が表示され即座に電源が落ちる。4年くらい使っているので寿命が近づいている。コンビニでは古い機種の充電器を扱っていないし、見渡す限り電気屋はない。歩き出すしかなかった。地図を一瞬見た感じではこっちだった気がする。自分を疑いながらも進む。映画に間に合わなかったらどうしようという不安が生まれる。時計を持っていないので時間が確認出来ない。気楽に迷っていた時間は終わってしまった。誰かに道を聞くしかない。シャイなので、全くの他人には話しかけられない。コンビニで水を買い店員のお姉さんに尋ねることにした。お姉さんは「ずっと、まっすぐまっすぐ。10分くらいかなあ」と教えてくれた。今までグネグネ好き勝手歩いていたのに、直進するだけでつくのかな。モタモタ足を動かす。お姉さんの言う通りに、駅はあった。お姉さんに、わんさか幸運が訪れますように。無事に『去年マリエンバートで』を見ることが出来た。上映中、道に迷っている時と同じ様な気持ちになった。今度は四次元の迷宮だった。

— 山下萌


明けましておめでとうございます

2020/01/01

日頃より、新文芸坐をご愛顧いただきまして誠にありがとうございます。

2020年も変わらず皆様にとって新たな感動や発見、出会いに満ちた場所でありたいと願っております。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

新文芸坐

矢田庸一郎 関口芳雄
梅原浩二 花俟良王 後藤佑輔
柳原弘 小澤麻梨子 山下萌 濱本栄紀 泉未来
藤井叶衣 新井暁介 笠原伊織 小池桔平 平山晋也 矢内さくら
松田恵理加 星野依子 西川由里子 多田優香 鹿取晋哉

— スタッフ一同


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2020/03/31
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2020/02/27
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